お人好しと二度目の力
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「っ! お前達!」
「! ひょっとして、ディートリヒかよ!」
現れたのは、俺に“樫の木亭”を教えてくれた、ヤン達三人だった。
「す、すまん! 悪いが俺達を運んでくれ! 身動きが取れないんだ!」
「ええ!? ど、どういうこと!?」
俺の言葉を聞いたマフレナが、驚きの声を上げる。
「い、今は説明している暇はない! とにかく、今のうちに!」
「お、おお!」
トロールが背中の炎を消そうと躍起になっている間に、ヤンとペドルが俺と村娘を背負ってこの場から離れた。
「そ、それで、ヤン達はどうしてここに?」
「それはコッチが聞きてえよ! クエストで討伐していたゴブリンが逃げ出したから追って来たら、この洞窟とトロール、そしてお前に出くわしたんだからよ!」
どうやらヤン達は、今日請け負ったクエストの最中でこの洞窟へやって来たようだ。
「ははっ! 俺もどうやら、ツキに見放されてはいないようだ!」
「そ、それで、アンタはなんでここにいるの!?」
ヤンに背負われながら洞窟の出口へと向かう中、俺は今の状況などについて手短に説明した。
「うへえ……百匹以上のゴブリンの群れに、その頭がトロール、しかも二匹かよ……」
そう言って、ペドルが眉根を寄せながら舌を出した。
「ああ……それで俺は、ゴブリン達が村を襲っている隙に洞窟へ村娘を助けに来たんだが……まさか二匹いるとは思わなくてな……」
だが、昼間にこの洞窟を調査した時点では、足跡からみてトロールは一匹しかいなかったはず。
それがもう一匹いたなんて……。
「とにかく、早くミロク村まで戻ろう!」
「おうよ!」
そのまま、暗い洞窟を出口目指して進んでいると。
『グオオオオオアアアアアアアッッッ!』
「チクショウ! もう追いかけてきやがった! マフレナの【ファイアボール】が効いてねえのかよっ!」
「当たり前でしょ!? 相手はあのトロールなのよ!?」
そう……トロールは人型の魔獣の中でも上位に位置し、その巨体から繰り出される怪力とタフネスからも脅威となっている。
普通にコイツを倒すとなれば、最低でも冒険者が十人は欲しいところだ。
「い、急いで逃げるぞ!」
「だな!」
「ええ!」
俺達五人は、怒り狂うトロールを尻目に一目散に逃げ出す。
だが。
『グウウウウウウウオオオオオオオオオッッッ!』
クソッ! ヤンとペドルも俺と村娘を背負っているせいで、思うように走れない!
このままじゃ、追いつかれちまう!
……仕方ない、か。
「なあ、ヤン……」
「あん? 今忙しいんだ! 話なら後に……「俺を囮にして、お前達は逃げろ」……って、ハアアアア!?」
俺の言葉に、ヤンが大声で叫んだ。
「そうすれば、少なくともお前達は助かる」
そう告げた瞬間。
――ゴチン。
「痛ッ!?」
「バカヤロウ! ふざけたこと抜かしてんじゃねえぞ! 一緒に杯を交わしたダチを見捨てるほど、腐っちゃいねえッッッ!」
「お前……」
ヤンに後頭部で頭突きを受け、俺は思わず顔を押さえるが……はは、七年間一緒に過ごしても黄金の部屋を見た瞬間にアッサリ裏切って殺そうとした奴もいれば、こんな絶体絶命でも見捨てようとしないお人好し達もいる。
俺は……この見た目は強面のお人好しを救いたい。
だから。
「すまん! お前の背中を借りるぞ!」
「……って、うおっ!?」
正直、全身が痛みと疲労で動かない中、あの力がまた使えるのかなんて分からない。
だが! 今使わないでどうするんだ!
ヤンの背中を蹴ってトロールに向け宙を舞った俺は、ギュ、と胸襟を握る。
――ドクン。
胸の鼓動が激しく高鳴ると同時に、周囲が超低速の世界に変わった。
はは……ヤンもペドルもマフレナも、コッチ見て驚いてやがる。
「ぐうっ!?」
地面に着地した瞬間、全身に激痛が走る。
だが……絶対に、トロールを倒すッッッ!
ガキン、と歯を食いしばり、刃渡り五十センチの片刃の剣を構えると。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
雄叫びと共に、こちらへと手を伸ばしたまま止まっているトロールの腕を、ズタズタに斬り裂いていく。
その後も、脚、太もも、腹、胸、首と、トロールの身体を駆け上がりながら、下から順にただ斬り刻む。
「これで……終わりだッッッ!」
トロールの肩に飛び乗り、俺は剣を頭上に構えると。
――ずぐり。
眉間に、剣を根元まで突き立てた。
その瞬間。
「ッ!? グギャアアアアアアアアアアアアアッッッ!?」
「おわっ!?」
時が正常に動き出し、トロールの全身から一斉に血しぶきが舞うと共に断末魔の叫び声を上げた。
そして。
――ずう……んん……。
地響きを立て、トロールは前のめりに倒れた。
「も、もう一歩も動けん……」
地面に投げ出された俺は、地面とキスしながらポツリ、と呟いた。
「ディ、ディートリヒ……お前……」
俺の視界の端に、わなわなと震えながら指差すヤンと、目を見開いたまま硬直するペドルとマフレナ。
すると。
「お前……お前、すげえぜええええええ!」
「ディートリヒ! ディートリヒ!」
「うおっ!?」
ヤンとマフレナが勢いよく飛びついてきたぞ!? ……って、痛たたたたたたたたたっ!?
「すげえ! すげえぜお前! 俺を蹴飛ばしてどうしたのかと思ったら、一瞬で姿が消えて、いつの間にかトロールの頭に剣をぶっ刺しやがって!」
「ホントよ! オマケにトロールの全身がズタズタじゃない! これ、全部ディートリヒがやったんでしょ!」
興奮冷めやらぬ様子で、二人が抱きつきながら質問攻めをするが。
「もう……無理……」
「っ!? ディ、ディートリヒ!?」
「しっかりして!?」
二人に抱きつかれたことによる激痛で、俺は意識を手放した。
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