忍び寄るゴブリン
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「調査結果だ。それと、今すぐミロク村に冒険者を派遣したほうがいい」
リトミルの街に戻ってきた俺は、すぐにギルドへ向かうと報告と共に冒険者の派遣を進言した。
「す、すぐにギルドマスターに確認してきます!」
事態の重さに気づいた受付嬢は、慌てた様子でギルドの奥にある部屋へと飛び込んで行った。
しばらくすると、部屋の中から受付嬢が出てきて、こちらへと戻ってくる。
「ギルドマスターが詳しく事情を聞きたいそうですので、どうぞこちらへ」
中へと通され、俺はギルドマスターの執務室へと入った。
「この街のギルドマスター、“ミラン=コレル”だ。それで、大規模なゴブリンの集落を見つけたとのことだが……」
「ああ。生活規模などから考えて、ゴブリンの数は百匹以上はいるかもしれん。それに……奴等のリーダーは恐らくトロールだ」
「っ!? それは本当か!?」
驚くギルドマスターに、俺はゆっくりと頷いた。
「だ、だとすれば、今すぐにでも冒険者を……少なくとも二十人以上は必要だぞ! おい! 緊急クエストだ! 冒険者を募ってミロク村へと向かわせろ!」
「「「は、はい!」」」
ギルドマスターは部屋から飛び出て大声で指示を出すと、ギルドの職員達が慌ただしく動き出した。
また、ギルド内でのんびりしていた冒険者達も、ただならぬ雰囲気を感じ、表情を険しくする。
「それで、ええと……「“ディートリヒ”だ」……ディートリヒ、君も一緒にミロク村に向かってくれるか」
「分かった」
それから一時間、たちまち確保できた冒険者十人とギルドマスター、それに俺を加えた十二人で、ミロク村へと向かった。
◇
「おお! 来てくださいましたか!」
村の前までたどり着くと、俺達の姿を見つけた村長が飛び出し、安堵の表情を見せながら駆け寄ってきた。
「ギルドマスターの“ミラン=コレル”だ。今のところ村への被害はないな?」
「は、はい……ですが、いつもは二匹しか来ないゴブリンが、さっきは五匹もやって来まして……」
「そうか……」
ゴブリンが五匹……つまり、今日明日にはこの村を襲撃するつもりだな。
「ふう……どうやらギリギリ間に合ったみたいだな……これも、君の調査のおかげだ」
「いや、まだゴブリン達を根絶やしにしたわけじゃない。それに、この後も追加で冒険者が派遣されてくるとはいえ、それまでこの人数で持ちこたえないといけないんだ。気は抜けない」
「そうだな……」
俺の言葉に、ギルドマスターが頷く。
「それで、どうする? さすがにこの人数でゴブリンの住処を襲うには厳しいぞ?」
「うむ……後で来る冒険者達と合流するまではこの村で待機し、合流次第、ゴブリンの集落を襲撃することにする」
そう答えると、ギルドマスターは冒険者達に次々と指示を出す。
どうやらゴブリンから村を守るための準備をするようだ。
「さすがにいつもゴブリン討伐をしているだけあって、準備の手際も見事だな」
テキパキと作業を進める冒険者達を眺めながら頷いていると。
「た、大変だ!? “ハナ”がどこにもいないぞ!?」
村人の一人が慌てながら村中を探し回っていた。
「“ハナ”というのは?」
「っ! あ、ああ! 俺の娘だ! うちで飼っているワイルドカウを放牧しに行って、まだ戻ってきていないんだ!」
……嫌な予感がする。
最初に俺がこの村に来た時、村長を呼びに行ってくれた女の子……確か、一匹のワイルドカウを連れていたな……。
「……それで、どこに放牧に行ってる?」
「ひ、東の牧草地だ!」
「そうか」
俺は短く答えると、今も指示を出しながら忙しそうにしているギルドマスターの傍に行く。
「ギルドマスター、この村の娘が一人、ワイルドカウの放牧に出たきり戻っていないらしい。少し様子を見てくる」
「分かった。気をつけてな」
ギルドマスターにそう伝え、俺は東の牧草地へと向かった。
だが。
「いない、な……」
そこには娘の姿もワイルドカウの姿もなかった。
しばらく、牧草地の周囲を見回す。
すると。
「……これは」
草の一部に付着している、血の痕。
……どうやら、既に襲われた後のようだ。
「急いで戻らないと!」
俺はすぐにそこから駆け出して村へと戻り、この事実をギルドマスターに伝えた。
「そうか……なら、もうその子は諦めるしかないな……」
「そ、そんな……」
俺が戻ってきたのを見た娘の父親が、俺とギルドマスターの会話を聞いて膝から崩れ落ちた。
ここで騒ぎ出さないのは、この父親もゴブリンの特性を知っているからだろう。
「……なんの慰めにもならないかもしれないが、ゴブリンは女をすぐに殺さない。冒険者が揃えば奴等の集落を襲撃するから、その時に助け出してみせる」
ただし……散々嬲られた後、だろうがな……。
それから、重苦しい空気の中、黙々とゴブリン共を迎え撃つ準備を進める。
そして。
「よし……これなら、少なくとも明日の朝までは持ちこたえることができるはずだ」
ようやく準備を終え、ギルドマスターと冒険者達は一息吐いた。
「見事なものだな……」
冒険者達が施した準備……ゴブリンの集落へ向けた方角に防御柵を張り巡らせ、その両脇に冒険者を配置することで各個撃破することで、集団での乱戦という状況は防げる。
「それで、ゴブリン達は……」
「当たり前だが、来るのは夜だろう」
ギルドマスターと頷き合い、防御柵の裏で待つこと数時間。
月が夜空に明々と輝く、その時。
――暗闇の中から、ゴブリンの集団が姿を現わした。
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