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ミロク村のゴブリン調査

ご覧いただき、ありがとうございます!

「うう……昨日は飲み過ぎた……」


 ヤン達と“樫の木亭”で食事をした次の日の朝、俺はギルドの掲示板の前で二日酔いに耐えていた。

 ううむ、それにしてもブラヴィア公国のエールの飲みやすさだ。そのせいで、いつもより多く飲み過ぎてしまったからな……。


「うう……よう」


 どうやらヤン達も二日酔いらしく、青い顔でやってきた。


「はは……そんな二日酔いで、今日のクエストは大丈夫なのか?」

「まあな……つっても、ゴブリン討伐なんざいつものことだし、こうやって二日酔いでやることもしょっちゅうだ」


 ペドルの言葉に、ヤンとマフレナも頷く。どうやらそういうことらしい。


「んじゃな。またクエストから帰ってきたら、“樫の木亭”で一杯やろうぜ」

「ああ」


 そう言うと、ヤン達はギルドを出て行った。

 だけど……今夜も飲むのか。今度は注意しないと、だな……。


 俺は掲示板へと向き直り、[斥候]の俺でもできそうなクエストを物色する。


「お、これなんかよさそうだ」


 クエストの内容は、この街のはずれなる小さな村に最近出没し始めたという、ゴブリン達の規模の調査だった。

 それに加え、討伐したゴブリンの数に応じて追加報酬が得られるようだ。


 俺はクエストの依頼紙を()がし、受付へと持っていく。


「これを受けたいんだが……」

「ええと……はい、“ミロク村”のゴブリン調査ですね」


 依頼紙と俺の冒険者プレートを確認した後、受付嬢はクエスト受注の判を押した。


「では、お気をつけて」


 お辞儀する受付嬢に見送られ、俺はギルドを出てミロク村を目指す。

 といっても、ミロク村自体はこの街から歩いて三十分ほどの場所にあるんだが。


「まあ、街のすぐ近くってこともあるから、ただの調査依頼に結構な報酬がついているのだろうな」


 そう、ただのゴブリンの調査にしては報酬が一般的なクエスト報酬と比べてもかなり多かった。

 これは、この街にとって脅威となる前に、早めにその芽を潰してしまおうというギルドと街の思惑なのだろう。


「はは……ツイてる」


 ミロク村に対して今の言葉は不謹慎かもしれないが、この街に着いた矢先にこのクエストを受けられたのは僥倖(ぎょうこう)だ。

 何より俺は路銀を稼ぎながら“七つの封印”を巡らないといけない。こういった報酬も多くて[斥候]としての俺の能力を活かせるクエストはありがたい。


「ギルドでクエストを受けた冒険者の“ディートリヒ”という者だが、この村の長に会わせてくれ」

「は、はい!」


 村の入口付近でワイルドカウを連れている、歳の頃は十五、六といった純朴そうな女の子に声をかけると、驚いた様子の女の子は慌てた様子で村の中へ走って行った。


 そのまましばらく待っていると。


「え、ええと……あなたがギルドから派遣された冒険者の方ですか……?」

「“ディートリヒ”という。よろしく頼む」

「こ、こちらこそどうぞよろしくお願いします。ささ、どうぞこちらへ」


 おずおずと尋ねる村長に名乗ると、村長は深くお辞儀をした後、俺を村の中央にある他の家と比べて一回り大きな建物へと案内した。おそらくは、村長の家なのだろう。


「それで、ゴブリンについて詳しく教えてくれ」

「は、はい……」


 それから村長は、ここ最近この村で起こった出来事について説明してくれた。


 まず、ゴブリンがこの村に姿を現わしたのは一週間程前。

 その時は二匹のゴブリンだったとのことだが、遠巻きに村を眺めているだけで近寄ったりすることもなかったらしい。

 あくる日も、またその次の日もゴブリンは二匹で現れ、同じように村を眺めるばかりで手を出してこない。


 不気味に思った村長はギルドに赴いて状況を説明し、正式にゴブリン討伐を依頼したとのことだ。


「そ、それで……たった一人でこの村に来られたということは、ひょっとしてディートリヒ様はかなり強い冒険者なのでしょうか……?」


 そう言って、(うかが)うように俺をみる村長。

 だが……そうか、ギルドは二匹のゴブリンを[斥候]であると踏んだんだな。

 それで、この村襲撃のために物色したと判断し、まずはゴブリン達の規模を知るためにギルドとしてこの村の依頼とは別の調査依頼のクエストを出したってことか。


「いや、俺はまずはゴブリン達を把握するための[斥候]だ。ゴブリン退治には俺よりも強い冒険者が、しかももっと多い人数で派遣されてくることになる」

「そ、そうですか……」


 俺の答えに一瞬目を見開くも、冒険者が多く派遣されると聞いて村長は胸を撫で下ろした。


「それじゃ早速確認したいんだが」

「は、はい、こちらです」


 村の北の端へと来ると、村長は離れたところに立っている木を指差した。


「あそこから、いつもゴブリンが眺めているんです」

「そうか……分かった」


 村長と分かれ、その木の元へと行くと。


「ふむ……」


 木の根元にはゴブリンの小さな足跡が二匹分あり、さらに北へと足跡が続いていた。

 俺は足跡伝いに北へと進んでいくと、小高い山と森が広がっていた。


「……あそこにゴブリンがいるのか」


 森の中へと入り、慎重に進む。

 さすがに森の中は落ち葉でゴブリンの足跡を見つけることは難しいが、獣道があるところを見ると、ゴブリン達はこれを利用していることは間違いないだろう。


 なので、俺は獣道から少し距離をおいたところからそれに沿って進んで行った。


 すると。


「……なるほど、な」


 少し開けた場所に出て、洞窟の入口とその前にはゴブリン達が生活していることが(うかが)える痕跡があった。

 そして……多くの人や獣の骨も。


「骨の数や生活の跡からして、かなりの数の集落みたいだな。それに……」


 そんな痕跡の中に含まれる、巨大な足跡。

 あれは……“トロール”か。


 どうやらここの集落は、トロールをボスとしてゴブリンが付き従っているようだ。

 となると……少なくとも、俺一人じゃ手に負えない。

 仮に()を使ったとしても、効果時間も短く限定的な上、使い終わった後は俺も身動きが取れなくなるからな……。


 俺はゴブリン達に気づかれないように足跡を消しながら引き返し、村へと戻った。


「ど、どうでした……?」

「ああ……悪いことは言わない。今すぐにでも街に避難したほうがいい。ゴブリン達が襲撃してきたら、この小さな村じゃひとたまりもない」

「そ、そんな……!」


 俺の言葉を聞いた村長は、一瞬にして顔を青くした。


「俺はこのまま街へ調査結果を報告しに帰るが、もし村の連中が今すぐ街へと向かうなら殿(しんがり)の護衛くらいは務めてやるぞ」

「そ、それは無理です! せめて明日じゃないと……」

「そうか……俺もすぐ街に戻って報告し、せめてこの村に冒険者を派遣できるように伝えてはみるよ」

「よ、よろしくお願いします!」


 深々と頭を下げる村長を尻目に、俺は急いで街へと戻った。

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