受付嬢の憂鬱 ※ミア視点
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■ミア視点
「そうか……ディートリヒは、この街を出て行ってしまったか……」
ディートリヒ様が持ってきたクエスト結果である遺跡の地図を渡すと、ギルドマスター、“サイモン”は心底残念そうな表情を浮かべて呟いた。
「……しかも、結局はあの遺跡も期待外れ。これじゃ、アイツがこの街に愛想を尽かしても仕方がない、か……」
「そうですね……」
実は、ディートリヒ様に依頼したこの遺跡調査のクエストは、ギルドマスターが彼のために特別に用意したもの。
半年前、“ドラグロア”でのディートリヒ様による裏切り行為について、証拠不十分とはいえ彼は裏切者の烙印を押された。
だけどギルドマスターと私は、あのディートリヒ様が仲間を裏切るだなんて、到底思えなかった。
でも、遺跡でディートリヒ様は三日間も姿を消し、仲間である“ドラクロア”リーダーのオーランド様は重傷を負った。
何よりオーランド様が重傷を負った場所が……あの遺跡にあった、黄金の部屋。
そんな状況証拠から考えれば、どうしてもディートリヒ様が何かを仕掛けたと受け取られてしまっても仕方がない。
それに冒険者達は、オーランド様が黄金の部屋にあった財産を全部分け与えたことによって、全員がオーランド様を支持した。
こうなると、私達はギルドとしてこれ以上言えることはなかった。
なのでギルドマスターと私は、ソロで活動するしかなかったディートリヒ様に、優先的に遺跡や魔獣が出没する地域への調査のクエストを発注した。
ただ、裏切者の汚名をかぶっているディートリヒ様に、正当な金額であるとはいえ、報酬が高額になってしまっては他の冒険者……特にオーランド様から誹謗中傷だけでなく直接的な被害を受けかねないと判断し、あえて報酬額を安くした。
たとえそれが、高難易度の遺跡調査だったとしても。
ディートリヒ様はそんな私達の期待に応え、見事に遺跡などの調査をこなしてくださった。
そのおかげで、うちのギルドにいる冒険者達も、彼の納品してくれた地図の恩恵により、これまでよりもクエストの成功率や生存率が格段に上がった。
ディートリヒ様が裏切者のそしりを受けるようになって半年を過ぎようとする頃、今まで見たことがないような超高難易度の遺跡が発見された。
『……この遺跡の調査をディートリヒが見事にやり遂げれば、さすがに他の冒険者達の見る目が変わるだろう』
『はい!』
半年という節目のこのタイミングなら、オーランド様や“ドラクロア”の面々を除く冒険者達も、ディートリヒ様の禊は済んだととらえてくれるかもしれない。
それに加え、解くことが難しい罠や仕掛けが施されている超高難易度の遺跡を調査してあの黄金の部屋を越えるものが発見されたとあれば、むしろ以前よりも評価が高まるはず。
そう考え、一週間前に私達は彼に依頼した。
だけど……結果は拍子抜け。ディートリヒ様自身も、この街を出て行ってしまった……。
「本当に、明日から大変だな……」
「ええ……」
私とギルドマスターは、お互い顔を見合わせて溜息を吐いた。
先にもあるとおり、これまではディートリヒ様が納品してくれた地図のおかげで冒険者達が安心してクエストに挑むことができた。
それが、彼がいなくなったことによって恩恵を受けることができなくなるのだから。
特に、[斥候]や[盗賊]を雇っていない“ドラグロア”は大変でしょうね……。
「まあ、“ドラグロア”に関してはディートリヒを追放したにもかかわらず、その後メンバーの補充をしなかったのだから、自業自得だがな」
「ですね……」
とはいえ、“ドラグロア”がメンバーの補充を行わなかったのにも理由がある。
すぐにでもメンバーの補充を望むオーランド様に対し、エレナ様、リエミ様、エマ様が反対をしたのだ。
それに関しては、オーランド様がどこの馬の骨とも分からない、顔だけで選んだとしか思えないような女性を連れてきたのだから、ある意味当然ではある。
だけど本当の理由は、オーランド様を除く三人が、いつかディートリヒ様が“ドラクロア”の一員に復帰することを誰よりも望んでいたから。
でも。
「エレナ様……かなりショックを受けておられましたね……」
「そうだな……」
このギルドにおいて、ディートリヒ様がそんなことをするはずがないと一番信じていたのは、エレナ様なのだから。
結果的にそうなってしまった今も、いつか彼が汚名を返上して、冒険者として再び輝くことを心待ちにしていたに違いない。
「ふう……見ていてつらかったよ。それに関しては、リエミやエマもそうなんだが……」
「……オーランド様だけは、違いましたけど」
被害者であるオーランド様にとっては、ディートリヒ様がいなくなって清々しているのでしょうが。
「いずれにせよ、私達ギルドはできる限り冒険者のサポートをしていくしかない。もちろん最悪の事態も想定して、な……」
そう……しばらくはいいが、ディートリヒ様の地図の情報が古くなってしまえば、何度も言うように冒険者達も立ち行かなくなる可能性がでてくる。
その時のために、私達はできることをするしかないんだ。
……必要なら、この私が復帰することも。
「ディートリヒ様……」
私は未来への不安に、キュ、と胸元を握りながら彼の名を呟いた。
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