一人ぼっちの邪神様③ ※ベル=ゼブル視点
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■ベル=ゼブル視点
「ううう……うわあああああん……!」
彼の胸に飛び込んで、ボクは大声で泣きだしてしまった。
だって……だって、こんなに優しくされるなんて思わなかったから……!
ボクは、邪神なのに……!
それから彼の胸でしばらく泣き続け、ようやく落ち着きを取り戻した。
その間もずっと、彼は僕の背中を優しく撫でてくれて……。
「はは……俺も嫌なことがあったりすると、美味いものを食って気分転換をしたりするんんだ。これでも俺は、そこそこ美食家なんだぞ?」
「そ、そうなんだ……」
最後の美食家っていうのがどういう意味なのかは分らないけど、おどけた様子で語る彼は、少しでもボクを励まそうとしてくれてるんだろうなあ……。
そんな彼の気遣いが嬉しくて、もっともっと彼にくっついていたいけど、それは彼に迷惑だよね……。
そう考えたボクは、名残惜しいけど彼の胸から離れた。
そして……。
「キミは、どうしてボクのことを怖がらないの……? ボクは……邪神“ベル=ゼブル”なんだよ……?」
よせばいいのに、ボクはそんなことを彼に尋ねてしまった。
こんなこと聞いたら、それこそ彼が拒絶すること、分かってるのに……。
なのに。
「……君が邪神かどうかは俺には分からない。だがな、君は俺のあげた干し肉やチーズを美味そうに食べて、嬉しそうな表情を見せた。少なくとも……俺には、悪い奴には見えない」
「っ!?」
彼の予想外の答えに、ボクは息を飲む。
あ、あはは……これ、夢じゃない、よね……?
ボクのこと邪神だって分かってるのに、そんなこと言ってもらえるなんて、そんなの……そんなの……!
嬉しすぎて、ボクの瞳はまた涙を零し始める。
彼はそんなボクを見て困った表情を浮かべた後、ボクに彼に手を出さない理由を尋ねてきた。
だからボクは、全てを語った。
人族達の信仰心を取り戻すため、脅かす存在……魔族と魔獣を神が生み出したこと。
それを統率する者として、生まれたばかりで最も若かったボクに白羽の矢を立てたこと。
天使族による魔族と魔獣の討伐、そして……邪神であるボクはここに封印されたこと。
全てを吐き出したボクは、深く息を吐いた。
その時。
――ダンッッッ!
「ふざけるなよ……っ!」
彼は壁を思い切り殴り、怒りの形相を見せた。
その瞳から、涙を零しながら。
こんな……ボク、の……ために……!
ボクは嬉しくて、彼が迷惑かもしれないのにまたその胸に飛び込んだ。
だけど彼は、ただボクを優しく受け止めてくれて……まさかの提案をしてくれたんだ……!
ボクのために、地上にある“七つの封印”を解いてくれるって。
もちろん、最初はボクも断った。
だって、こんなボクに優しくしてくれた彼を、絶対に危険な目に遭わせたくなかったから。
なのに。
「いいや、やらせてくれ。俺は君の封印を解いてあげたいんだ。この俺自身のためにも」
そう言って、彼はニコリ、と微笑んだ。
しかも、封印が解けたら干し肉やチーズなんかよりも、もっと美味しいものを食べに行こうって約束までしてくれて!
ここに封印されてから一千年……ううん、封印される前も含めて、こんなに幸せなことがあっただろうか。
ああ……これまでのボクの苦痛でしかなかった時間が、彼の優しさで満たされた。
◇
「行っちゃった……」
彼……ディーを地上のゲートへと送り届け、遥か上の暗闇を眺めながら、ボクはポツリ、と呟いた。
ボクの“七つの封印”を解くため、彼はこれから地上で世界中を回ることになる。
当然、封印されている場所にはとんでもない罠が仕掛けられていたりして、危険極まりないと思う。
それだけじゃない。あの天使族だって、封印を解こうとする者が現れたら、全力で排除しにくるだろう。
それだけ、ディーの身に危険が及ぶということなんだけど……。
「……ディーには、“鍵”という名のボクに残されていた力のほとんどを与えた。だから、並大抵の天使族だったら簡単に倒せる、と思う……」
本当は、『七つの権能』の一つでもあれば、それだけでディーは天使族どころか神にだって対抗できる力を得られるんだけど……。
それと。
「ふああああ……ディー、ハッキリと言ったよね。また干し肉やチーズよりも美味しいものを持ってきてくれるって……!」
ボクの口の中には、ディーがくれた干し肉とチーズの味の記憶が今も残り続けている。
ボク達神族は、人族達の信仰心を糧にしているから、そもそも食べるっていう概念が存在しない。
それに、何かを食べないと生きていけない人族達は下等生物の証だと神族は考えている。
……ボクからすれば、こんな素晴らしいものを知らない神族やディーに出逢うまでのボクこそ、人族達より劣ってるんじゃないかって思う。
「えへへ……本当は、ディーにまた逢えるのも嬉しいんだけどね」
うん……この一千年という時を経て出逢った、初めての人族。
どこか飄々としているようで、そのオニキスのように黒く輝く双眸とその心根に強く優しさを湛えた、素晴らしい男性。
あは……ボクがキミに逢えたことで、どれほど満たされたかなんて、多分気づいてないよね……。
だけど……だからこそ気になる。
ディーにも説明したけど、地上のゲートを抜けてここに来るためには、絶望に打ちひしがれた者の涙がなければならない。
つまりディーの心は、それほどの絶望にいたわけで……。
「ディー……」
あんなに優しくて素敵な彼が苦しむなんて……悲しむなんて、ボクには許せない。
今度美味しいものを持ってきてくれた時にでも教えてもらおう。
ディーのこと、色々。
だから。
「……ボクの封印なんてどうでもいい。お願いだから、無事でいて……」
ボクは、突然現れた優しいあの微笑みを思い浮かべながら、ただ彼の無事を祈った。
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