裏切者
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「ふう……」
今日の遺跡調査を終え、俺はいつも利用している安宿の一階でエールをあおる。
まあ、冒険者ギルドからのなけなしの報酬じゃ、とてもじゃないが高い酒も食い物も手が出せないからな。
「はは……俺も半年前までは、この街でも美食家で通ってたんだがな」
テーブルを眺め、ポツリ、と呟く。
あの頃は、美味いものを食うっていうのが、俺の趣味だったからなあ。
「それにしても……」
今日も、ギルドでは散々だったな……。
◇
「……今日の探索結果だ」
クエスト報酬の受け取りや魔獣の素材の買い取りに来た冒険者で賑わっていた、夕暮れのギルド。
[斥候]としてソロで冒険者をしている俺も、長い間待たされたあげく、ようやく窓口までたどり着いた。
「“ディートリヒ”様、お疲れ様です。本日の探索は何か確認できましたか?」
「そうだな……相変わらず罠や仕掛けの類ばかりで、これといったものは見つかってはいないな」
受付嬢の“ミア”がいつもの営業スマイルで尋ねたので、俺は今日のマッピングを終えた遺跡の地図を広げて見せた。
「そうですか……じゃあ、今回の遺跡はあまり期待できませんね」
「いや……少なくとも、罠や仕掛けは俺が見てきた中でも最高難易度だ。それに、調査を始めてまだ一週間。見限るには早い」
肩を落とすミアにそう告げる。
……いや、俺がそう思いたいだけ、だな。
その時。
「ふう……やっと今日のクエストが終わったよ……」
「うむ、今日は少々手こずってしまったな……」
「ホントよ! あーあ、あんな地図を鵜呑みにするんじゃなかった!」
「…………………………お腹空いた」
四人組の冒険者パーティーが疲れた表情でギルドに入ってきたのを見て、俺は思わず顔をしかめた。
このパーティーの名は“ドラグロア”。
竜の加護を受けた魔剣の名を冠した、この街で最も高い実力を誇る冒険者パーティーだ。
そして……半年前まで、この俺が所属していたパーティーでもある。
「あ! アンタ!」
目聡く俺を見つけたかつての仲間の一人、[魔導士]の“エレナ”が不機嫌な表情を浮かべながらこちらへとやって来た。
「フン、相変わらず態度がでかいわね。裏切者のくせに」
「…………………………」
エレナは鼻を鳴らして吐き捨てるように罵倒するが、俺はそれを無視してミアへと向き直る。
ちなみに、このエレナが言っている裏切者というのは、パーティーにいた頃に俺が[斥候]として遺跡探索をしていた、半年前のあの時につけられた蔑称だ。
「それで? 裏切者のアンタは、少しは何か成果を上げられたのかしら?」
「…………………………」
「ま、アンタじゃ無理でしょうけどね」
言いたいことを言って気が済んだのか、エレナはフン、と鼻を鳴らし、どこかへ行ってしまった。
「ハハ! この僕を罠に嵌めた罰を受けるんだね! “ディー”のクソ野郎!」
エレナの罵倒で気を良くしたのか、リーダーの“オーランド”は嘲笑いながら罵った。
その瞬間、俺はコイツの顔面を殴りつけてやりたかったが、歯を食いしばって耐えた。
[斥候]でしかない俺が、特別職である[英雄]のオーランドに勝てるわけもないし、このギルドに俺の味方なんて一人もいないからな。
だが……半年前のあの時、コイツは俺を裏切った。
遺跡の探索中、財宝でちりばめられた黄金の部屋を偶然見つけた時、エレナをはじめとした他のメンバーが目を離していた隙に、落とし穴の罠をわざと発動させてそこへ蹴り落としやがった。
この俺を、殺すつもりで。
七年間も一緒にパーティーを組んできたのに、なんでこんな真似をしたのかは分からないが、俺は愛用している刃渡り五十センチしかない片刃の剣を壁に突き立て、なんとか穴の底で串刺しにならずに済んだ。
その後、壁を掘り進んで三日がかりで脱出した時には、黄金の部屋の状態はそのままに、オーランド達はいなくなっていた。
急いでギルドに戻ってみると。
『来るな! この……裏切者!』
俺を見た瞬間、涙を零しながらエレナが叫んだ。
その姿に、その言葉に、俺は思わず呆けた声を漏らしたのを覚えている。
ギルドマスターの事情聴取を受けた際に聞いた話では、どうやらあの黄金の部屋を独り占めしようと、この俺がオーランドを罠に嵌め、大怪我をさせたことになっているらしい。
実際にエレナ達が黄金の部屋で見たのも、血まみれで倒れているオーランドで、俺の姿が忽然と消えていたとのことだ。
当然だ。俺はオーランドに落とし穴に蹴り落とされ、そのまま閉じ込められていたんだから。
オーランドに関しては、黄金の部屋に仕掛けられていた別の罠にでもかかったんだろう。まさに自業自得だ。
俺はそのことについて、ギルドマスターに必死で訴えた。
だが……オーランドが実際に大怪我しているにもかかわらず俺が怪我一つなく無事であること、オーランド自身は俺が罠に嵌めたと証言していることから、状況として俺のほうが分が悪いとギルドマスターにハッキリと告げられた。
さらに……オーランドは見つけた黄金の部屋を、冒険者全員に分配すると言い出したそうだ。仲間である、エレナ達も了承した上で。
そのことが決定的となり、この街の冒険者全員がオーランドの言葉を支持した。
だから、もはや俺が何を言おうが、冒険者達にとって正しいのはオーランドの言葉であり、俺は裏切者でしかないってことだ……。
「ハッ! いい加減、この世から永遠に消えろよ! クズが!」
唾を吐きかけ、オーランドは別の受付へと向かう。
同じ仲間の[騎士]のリエミと[僧侶]のエマも、俺を一瞥した後、オーランド……ではなくエレナの元へ行った。
「お、お待たせしました……」
気を遣ったミアが、手早くクエストの報酬を渡してくれた。
まあ……これもいつものことだから、彼女も慣れたものだ。
俺は報酬を懐にねじ込み、そのままギルドを出ようとするが。
「私……絶対にアンタのこと許さないから」
「……そうか」
忌々しそうに睨みつけるエレナにその一言だけ告げると、俺は今度こそギルドを出た。
◇
「……だが、それもあと少しの辛抱だ」
そう……一週間前、ギルドは俺に直接クエストを依頼してきた。
普段から安い報酬で遺跡や魔獣の生息する場所の調査のクエストは受けてきたが、こうやって直接依頼してくることは今回が初めてだった。
実際に遺跡の調査をしてみると、罠や仕掛けは最高難易度。とてもじゃないが、この街でこれを解除できる奴はいない。
俺は、この時確信した。
この遺跡には、半年前のあの遺跡で見つけた黄金の部屋を超える、何かがあると。
もし、あの黄金の部屋以上のものを見つけたのなら、この最高難易度の罠や仕掛けも相まって、俺は冒険者として名を馳せることができるはず。
そうなれば裏切者という評価も変わり、俺の言葉にみんな耳を傾けてくれるかもしれない。
エレナ達、かつての仲間も。
だからオーランド……首を洗って待っていろ。
俺が必ず、オマエを今いる場所から叩き落としてやる。
「ごちそうさん」
俺はエールを一気に飲み干すと、代金をテーブルに置いて二階にある自分の部屋へと戻った。
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