ガーナの夫
「おはようございます、お嬢様。今日は良い天気ですので、庭園など行かれてみてはいかがでしょう?」
庭園…
前回のときは、ガーナがいなくなって、一人で庭園で気持ちを落ち着かせることも多かったが、戻ってきてからは行ってないわね。
周りの目を気にしていたガーナが、敢えて提案をしてくるということは、庭園に何かがあるのかしら。
「そうね、行ってみようかしら。ああ、ついてこなくて大丈夫よ」
ガーナとは別のメイドが私の後をついてこようとしているのを手で制した。
久々に来た庭園は綺麗に整備されていて、赤や黄色の花が華やかに彩っていた。
あ…あれは…
下向きにイヤリングのように上品にぶら下がった紫色の花が咲いていた。
フクシア…
お茶会の後に私の手の中にあったのはここの花だったのね。
偶然ではないとは思ったけど、誰かが意思を持って私の手に握らせたのだわ。
ふと、後ろから強い視線を感じ、振り返ると枝を整備している庭師がいた。
目線を送る庭師は小さく頷くと私に背を向けた。
「フクシアの花言葉は『信じる愛』といいます。この花を好きな亡くなられた奥様が、オルティス侯爵家から苗を持ちこみこの庭に植えるよう指示されました」
小さな声で庭師が告げる。
信じる愛…
お父様への愛?
それとも?
私の手に握らせたのはガーナ?
私を信じているということ?
「あなたは?」
「俺はガーナの夫です。ガーナからイニシャルのこと伺いました。残念ながら誰のことかはわかりません。
ただ、亡くなられた奥様はこの花をみてエディと呟いておられました」
えっ?と振り向くと後ろにはもう誰もいなかった。
少し離れたところで作業をしている庭師が見える。
私に伝えることは話したという意味なのでしょう。
エディ…
エドワード、エドウィン、エドガー、エドモンド…全く心当たりがないわ。少なくとも男性の名前よね。
*
エディ=オルティス?
オルティス侯爵家に確認をしてみるわけにはいかないわ。
母の実家ということは義母の実家でもあるんだもの。
どうしたらよいのかしら…
たしか…オルティス男爵家は母の歳の離れた弟ダグラスが継いだのよね。
私より2歳上なだけでほとんど歳が変わらないと聞いたわ。
母が公爵家に嫁いできたときはダグラスはまだ生またれていない。ダグラスが生まれる少し前に義母が嫁いできたということになる。
まだ小さくて跡取りとなることが確定ではないのに、よく母と義母を手放すことを前男爵は決定したのね。
なぜ、母か義母に婿を取るということを考えなかったのかしら…
そのあたりも探ってみたほうがよさそうね。
たしか、男爵令嬢からお茶会の誘いがあったから行ってみましょう。