謎のハンカチ
短めです
お茶会後の義母の襲来から2日間寝込んでいた。
何度も夢を見る。
婚約破棄を高らかに宣言するリチャード。
その横でほくそ笑むアマンダ。
父からの殴る蹴るの暴行。
義母からの日常的な虐待。
階段からの転落…
嫌だ…嫌…もう繰り返したくない…
何度も何度も魘されていた。
∞∞∞
「お嬢様、リチャード王子がお見舞いにいらしてますがいかがされますか?」
ガーナが感情のない顔でドアを開ける。
「呼びに来るのが遅いのよ‼︎私への嫌がらせかしら?何?その目?何か文句でもある?」
ガーナを睨みつける。
(ガーナ…ごめんなさい。でも…あなたが私の味方でいるとあなたまで破滅させられてしまう…
優しいガーナは私を裏切られないでしょう?
あなたが私を裏切りたくなるように、嫌われてあげるわ)
「申し訳ありません、マリーナ様」
下を向いてガーナが答える。表情は隠れて見えない。
「応接室へご案内して、私はすぐに向かうと伝えて頂戴。ガーナはすぐに私の準備に取り掛かりなさい」
流石に婚約者といえども、婚姻前の男性を寝室に入れることはできない。
執事へ応接室への案内を指示する。
義母のメイドがドアの隙間から私の様子をニヤニヤと見ると、ぱたぱたと奥の部屋へと向かっていった。
きっと義母に告げ口にいくのね。
あぁ、いつももこうやって義母に報告されてたのね。
ガーナ以外は周りはみんな敵だったんだわ。
∞∞∞
応接室に向かうと、リチャード王子とアマンダがいた。
「マリーナ、もう体調は大丈夫なのかい?」
表情に変化がないので相変わらず何を考えているのかわからない?
「ご配慮ありがとうございます。おかげさまで体調はすっかり回復いたしましたわ」
この人も私を裏切る。決して気を許さないようにしないと…
お辞儀をするわたしをリチャード王子が一瞥する。
「うむ」
一瞬目があったとき瞳に私を案じるようにゆらめいたが、すぐにアマンダへと視線を向ける。
何?私のことを本当に心配していたの?
そんな訳ないわ…
今だってアマンダの横で談笑に応じているもの…
婚約者の私が向かいに座り、婚約者の妹のアマンダがリチャード王子の横に座る。
リチャード王子が許可しない限り許される行為ではない。
「あら、お姉様。まだ顔色がよろしくありませんわ。リチャード殿下のお相手は私がいたしますので安静になさった方がよろしいんじゃなくて?」
ニヤニヤ笑いを堪えながら私をみる。
お前は部屋に戻って休んでいろと…リチャード王子は私が相手した方が喜ぶからと言いたいのね。
言われなくても邪魔者はここから去るわ。
「うむ。そうだなゆっくり休め」
アマンダに同意してリチャード王子が頷く。
そうよね…
リチャード王子にとって私はいてもいなくても良い存在だもの…
「ありがとうございます、リチャード殿下。ありがとう、アマンダ。お先に失礼しますわ」
「そうだ、マリーナ。倒れたときにハンカチを落としていたようで預かっている」
リチャード王子が私を呼び止めると、私の手にハンカチを握らせた。
えっ‼︎
これは私のハンカチではない。
私のハンカチにはすべてMの刺繍が入れられている。リチャード王子もその事をご存知のはず…
リチャード王子の目には力があり、有無を言わせぬ雰囲気がある。
何かしら。誰かの目を気にしてる?
アマンダ?それとも執事?メイド?
これは、何も言わないのが得策ね。
「預かっていただきありがとうございます、リチャード王子」
今度こそ礼をして部屋を後にした。
∞∞∞
はやる気持ちを抑えて優雅な足取りで部屋へ向かう。
まだよ、メイドが見てるわ。
廊下の気配が消えるのを待って、拳を開いた。
ハンカチにはイニシャルが刺繍してあった。
E・O