お茶会とドレス
リチャード王子とその弟オズワルド王子の周りにはちょうど同じ年頃のご令嬢が集まっている。
寡黙なリチャード王子も明るく饒舌なオズワルド王子の話に優しそうに相槌を打っている。
婚約後初めてのお茶会にマリーナはアマンダとお揃いの淡い薄ピンクのドレスに身を纏い参加している。
「見て、あれがリチャード殿下の婚約者なんですってよ!何だかチグハグなドレスを着てますこと」
「ええ。あの棒切れのような身体にぶかぶかなドレスって、ドレスだけが浮いて見えますわ」
「きっとお顔に自信がないから、敢えてボヤけた色のドレスに身を纏ってらっしゃるのよ、うふふ」
心ない中傷が突き刺さる。
淡い薄ピンクはアマンダのピンクゴールドの髪を際立たせたが、マリーナのイエローゴールドには合わずぼんやりとした印象を残していた。
「マリーナ、明日のお茶会のドレスはこちらで用意しているから、楽しんでらっしゃい」
義母の言葉は優しいが、片方の口の端を歪めた独特な表情でほくそ笑んだ。
「アマンダとお揃いの衣装なのよ。採寸楽しかったわ。可愛いデザインにしたのよね〜」
「そうね、アマンダ。とても似合っていたわ」
義母とアマンダがマリーナを無視して、にこやかに衣装のあれこれを話す。
あぁ、そうだったんだわ。
前日サイズの合わない、似合わないデザインのドレスを渡されて…これも嫌がらせだったのね…
採寸もせずに作られたドレス…色の合わないドレス…細身の私には合わない可愛らしいフリフリのドレス…
この頃から始まっていたのよね…
∞∞∞∞∞
明日がリチャード王子や同年代とのお茶会と聞いて、お茶会での辛い出来事を思い出し目を閉じる。
夢の中とはいえ、また同じ悲しい思いはしたくはないわ。別にリチャード王子のことはどうでもよいけど…義母やマリーナには一矢報いたい。
アマンダは5年間で培ったプロ級と言われた裁縫の腕前をふるうことにした。
まだ、13歳の手はとても小さくて思ったようにいかないところもあったけれど、身丈にあわせ脇出しをし、すらりとした脚にあわせてドレスの裾出しをし、全体としてシャープな印象に変えていった。
あとは髪型よね。
アマンダもだけど艶やかな髪を綺麗にみせるために、髪をおろすかハーフアップにするのが普通だけど、この色合いなドレスと髪が重なると濁った印象になるのよね。
∞∞∞∞∞
「行って参ります、お義母様」
ガーナに髪を結ってもらい、華奢なドレスを身に纏うマリーナを見ると、義母は歯をぎりぎりとさせてとても悔しそうな顔をしていた。
アマンダは驚きの方が勝ったのだろう、私を凝視して唖然としている。
リチャード王子は私を見ると数秒凝視して固まっていたが、ゴホンと咳払いをすると私の手をとりエスコートをしてくれた。
隣に座れってことなのかな?
さすが夢の中ね。願望がでてきてるわ。
「お姉様だけだと心配なので、私も…」と、アマンダが無理矢理テーブルに割り込んできた。
「あの方、どちらの方なのかしら礼儀がなってないわ」
「あぁ、リチャード殿下の婚約者の妹らしいですわ。お姉様は洗練された仕草ですのに妹の方は違ってますのね」
「本当…マリーナ様の装いは素晴らしいわ。あのように髪を結い上げるのも魅力的ですわね」
周りのご令嬢の反応も、現実の時とは違う。
「あら、皆様お姉様のこと話してますよ。ドレスのことかしら。お姉様ったら、私と同じドレスにして私のことを虐めるんですのよ」
「あぁ、よく見たら同じドレスだったんだな。華奢な雰囲気がマリーナ嬢に似合って綺麗だな」
愛想良くオズワルド王子がマリーナを見て微笑むと、アマンダがカップを落としパリンと破片が飛び散った。
マリーナが膝の上に飛んできた破片を掴むと、指に細いキズがつき血が滲んだ。