王子との顔合わせ
短めです
「お初にお目にかかります。ディミトロフ公爵家長女のマリーナと申します。よろしくお願い致します。」
「リチャード=ハワードだ。よろしく頼む」
挨拶を交わすと王子は全く話さなかった。
そういえば彼は無口な方だったわ。
私もあまり話さない方だから、朗らかなアマンダに惹かれたのかも。
今も、アマンダはこの場に無理矢理押しかけている。挨拶もそこそこに王子にお茶を勧めたりお菓子を勧めたりと話しかけている。
肩艶やかに光るプラチナの髪は王妃に似た美貌を際立たせ気品がある。
細身ながらもバランスのとれた体つきはどこからどうみても貴公子で寡黙なところも含めてご令嬢の憧れの的だ。
「リチャード殿下はお花はお好きですか?」
こくんと殿下が頷くと、アマンダが温室へ案内しようと立ち上がった。
あぁ、王子はアマンダと温室へ行ったんだわ。
この時から王子の心の中にはアマンダが住みついていたのね?
「私の温室がありますの。見に行きませんか?」
アマンダが強引に王子の腕を引っ張る。
王子は私の方を感情の見えない目で見つめた。
(何?何かいいたいのかしら。困っている表情にも見えるし…わからないわ)
私が首を傾げると、王子はゆっくりと私から目を逸らして温室へ向かった。
「やはり、マリーナでは殿下の相手はつとまらないわね?アマンダの方がお似合いだわ」
義母が扇で口元を隠しながら、顔を歪ませる。
「奥様、どうぞ」
目配せをすると含み笑いをしながら、メイドが義母のカップに紅茶を注ぐ。
「あっ…」
メイドの指がカップに触れたかと思うと、カシャンと音がしてカップが倒れ、ドレスに紅茶がかかる。
「大丈夫ですか、マリーナ様ったら」
「マリーナ、貴女は本当にそそっかしいわね。そのような汚れたドレスでは殿下に失礼ですから着替えてらっしゃい」
そうだ。ここで私は泣きながら部屋に戻るのよね。慌てて着替えて戻った時には王子は帰られたあとで…
5年前のことを思い出すと夢の中でも悔しさが込み上げてきた。
「殿下に挨拶をしてから着替えますわ」
ギュッと唇を噛み締めると、立ち上がり温室へ向かった。
義母が何故か憎々しげな表情で睨んでいたが振り返らなかった。
メイドと従者がいるとはいえ、王子とアマンダは温室で仲良く話しているのだろう。
盛り上がっている中に入り込めるかしら…
感情の起伏があまりない王子が笑顔を見せていたら?
「失礼します、殿下」
「あら、お姉様?濡れ鼠のような格好でどうされたの?またお茶を溢したのかしら」
殿下が答えるより先にアマンダが喋り出す。
「うむ」
「粗相をしてしまいましたので、お先に失礼いたします。今日はありがとうございました」
礼をすると、王子が側にきて私をジッと見つめてきた。
(どうしたのかしら、やたらジッと見つめてくるわね)
首を軽く傾げると王子は目を逸らした。
夢なのかしら。でも、以前とは違うわ。どういうことなのかしら…