変わらない父と義母と義妹
なんとなく書いてしまう
「おはようございます、お嬢様」
カーテンから差し込む日差しの中でメイドのガーナが微笑んだ。
えっ?ガーナ?ガーナはクビになったはず…
私はガーナが好きだった。包容力のある膨よかな女性。彼女の温かさに触れると優しい気持ちになった。
「ぁだっ、えっ…おはよう、ガーナ」
「あら、甘えん坊なお嬢様。ええ、ガーナはいつも元気ですよ」
抱きつく私の頭を優しく撫でる。クビになったはずのガーナ。小さな私の身体。
私は昔の夢を見ているのかしら。幸せだった頃の。
「夢みたい」
「夢じゃありませんよ、お嬢様。今日は婚約者のリチャード様と初顔合わせの日ですから可愛くしましょうね」
小さく笑いながら、私の髪を櫛で優しく梳く。
この時間がずっと続いたらいいのに。
∞∞∞∞∞
「おはようございます、お父様、お義母様」
ダイニングには父と義母が既にいた。私の存在はまるでないかのように全く反応はない。
ピクリともせず、父は優雅に食事を続ける。
義母は一瞬憎々しげに視線を向けたが、声を発することなく目の前のスープに口をつけた。
いつものことね。私は忌まわしい存在だもの。
どうして夢なら幸せなところだけを流してくれないの?
スープに口をつけると、夢のはずなのに胃が満たされ温かくなるのを感じた。
やけにリアルな夢ね。
「おはようございます、お父様、お母様」
アマンダが可愛らしくポテポテと歩いて入ってきた。
リチャードに会う日ってことは、アマンダは12歳かしら。この5年後に私は婚約破棄をされるのね。
「おはよう、アマンダ」
表情はあくまでも崩さないが、アマンダに顔を向けて父が挨拶をする。
「おはよう、アマンダ。可愛らしいこと」
誰かとちがって、と私のほうを横目でみる。
そんな義母をみて、顎を上げひけらかすようにこちらを見るアマンダ。
「おはよう…」
誰も返事することない空間に向けて言葉を発する。
義母とアマンダの声でその声はかき消されていった。
∞∞∞∞∞
「お可哀想に、お嬢様」
歯を食いしばり悔しそうに言うガーナ。
「ううん、ガーナがわかってくれたらそれでいいの」
どうせ3人はわかってくれない。これからもずっと。
あぁ、何故こんな夢をみてしまうのだろう。
この痛みは現実のものなのだろうか。
私は死んでしまったのだろうか。
まるで前に読んだ小説のよう。
タイムリープ。過去に戻れたらと希望を抱いた。
魔法でも決してありえないが神様に戻して欲しいと。
私が産まれる前に戻して、お腹の中の私を殺して欲しい。