考察
ゴルドン男爵家からの帰りの馬車の中で、マリーナは目を閉じて思索にふけっていた。
お茶会でのジェシカの言葉…
「普段から公爵家を継ぐのは義姉ではなく自分だから、私が殿下と婚姻すると嘯いておられますのよ」
公爵家を継ぐのは私ではなくアマンダ…
この国ではよほどの素行不良などなければ公爵の爵位は男女問わず第一子に譲られるはず…
私が公爵を継げない、継がない理由は…
1、私がアマンダに次期公爵の座を譲って、他家に嫁に行く
2、私が公爵家の第一子ではない
1についてはどうだろう。
私は公爵家を継いでリチャード王子が公爵家に婿入りする予定で、父から公爵家の公務を引き継いでいる。
私がよほどのことをしない限りは廃嫡され、公爵家から放逐されることはないだろう。
仮にリチャード王子の婿入りが白紙となったとしても、別の子息に白羽の矢が立てられるだけだ。
第2皇子ではあるが王妃の息子であるオズワルド王子はすでに王太子に内定している。
リチャード王子が当家でなくとも婿入りすることは決定事項だ。
ではオズワルド王子が王太子の座を辞退した場合はどうなるのだろう。
リチャード王子が王太子となるだろうが、私は王太子妃となるだろうか。
いや、それはない。
リチャード王子が王太子となった場合は、オズワルド王子の婚約者ヴィクトリアがリチャード王子の婚約者に横滑りするだろう。
私との婚約は破棄され、私は次期公爵として新たに婚約者を探すだけだ。
スペアとして念のため王太子妃の教育を受けてはいるが、私が王太子妃となる可能性はゼロに近い。
才能、家柄すべてにおいてヴィクトリアを差し置いて次期王妃となり得るものはいない。
では、公爵である父が私に後を継がせたくないと思ったらどうだろう…
父はアマンダのことを愛しているわけではない。
アマンダのために何かをすることはないだろうが、憎しみからその対象である私を次期候補から外そうと画策する可能性はある。
だが、国の法律が優先されるので、正当な理由なく私を次期公爵から外すことはできないはず。
たとえ私のことを視界に入れたくないくらいに憎んでいたとしても…
私の意思に反して嫁入りさせるわけにもいかない。
私を廃嫡する理由をでっちあげでもしない限りは…
2についてはどうだろう。
考えられる可能性は…私が父の実子ではないか、私の他に第一子がいる場合だ。
私が実子ではない可能性は低いだろう。あれほど母を溺愛している父が他の男性に母を譲るわけがない。
出会ってから亡くなるまでの5年間他の男を近づけることなど許しはしなかっただろう。
私の他に第一子…兄か姉がいる可能性。
母が先に子供を出産していたとして公爵家で育てられていない可能性…ゼロだ。
愛する母の子を父が手放すはずがない。
母の死の原因となった私でさえも母の血を引いているからという理由で殺すことまではしなかったのだから。
母以外の女性との間に第一子が生まれている可能性…
学生時代に母に一目ぼれした父は一途に母を愛していたと聞く。
出会ってから母が亡くなる5年間の間父の瞳には母以外の女性は一人も映っていなかったと…
薬物でも使用しない限りほかの女性とそのような関係になることはないだろう。
わからない…
たしかにアマンダはその場しのぎの嘘をつくことは多々あるが、同じ嘘を繰り返すことはなかった。
なにか確信があっていっているのだろうか…
ダグラスと話すことができたら何かわかるだろうか…
馬車の中でぐるぐると物思いにふけっていたら馬車が屋敷に到着し、ゆっくりと顔を上げた。