投獄
屈強な男たちに連れられてきたのは地下牢だった。
「明日の朝まで大人しくしていろ」
「いてっ」
俺と少女を地下牢へ投げ入れると、男たちは大きな足音を鳴らしながら去って行く。
「何だよいきなり態度変えやがって……」
「すみません。私のせいです」
少女が頭を下げる。
「君のせいじゃないよ。俺が弱いスキルだったから……。それにしてもどうなるんだ? 出荷とか言ってたけど」
「おそらく奴隷として扱われるようになると思います。あの方は気に入らない人間をすぐ奴隷にして売り飛ばすと有名ですから」
「なっ……」
俺の人生の絶頂期短くないか? というか落差がひどすぎる。
「すみません。私のせいです」
少女は再び頭を下げる。
「とりあえずなってしまったものはしょうがないよ。頭を上げて……、っと名前も聞いてなかったね」
「あ、そうでした。私はリシア・ソフィアと言います。柊海斗さんで合ってますよね?」
「えっ、そうそう。どうしてわかったの?」
「鑑定の際に名前が出ていましたから」
「なるほど、……って納得してる場合じゃないな。奴隷か……」
大体奴隷を必要としてるのは、自分の事しか考えてない性悪なおっさんか異常性癖のサディスティックな狂人くらいのものだろう。完全に偏見でしかないが。
そんな所の奴隷になったら末路は……。想像するだけでも身震いする。
「優しいご主人様に買われることを期待しましょう」
リシアはファイトポーズをする。
後ろ向きに前向きすぎる。
「幸い魔法使いの奴隷は大切に扱われると聞いたことがあるので、きっといいご主人様に出会えるはずです。私がそのご主人様に頼んで海斗さんも一緒にそこで奴隷として買われるよう頑張りますね」
「とりあえず奴隷になった想定の話を止めよう」
「え、でも……」
「そこ、悲しそうな表情浮かべないで。俺はそんな悲しい未来の話で盛り上がりたくない」
床に辛うじて敷かれている筵に寝転がる。
「静電気なぁ……」
試しに右手に力を込めてみる。パチッと小さな光と音が出た。
「これはなぁ……」
外れスキルと言われても仕方ない気がする。
「他の奴らはどんなスキルを貰ったんだろうか」
ふとそんなことを思う。少なくとも俺のような目には合わない程度のスキルを得てはいるのだろう。もしかしたら、その能力を使って様々な活躍をしているのかもしれない。いや、きっとそうに違いない。
「この国で有名な勇者の方ですとどんな魔法も使える方や重力を操るなんて方もいたらしいですよ」
「ぶっ壊れてるなぁ……」
いわゆるチート能力ってやつだ。
いいよなぁ、そんな能力持てて。10分の1でもいいから分けてもらいたいものだ。
こちとら異世界に召喚されたと思えば、外れと言われ気づけば身分は奴隷になってた。この間、俺は特に何もしていない。てか、召喚された時点で詰んでた。
得たものと言えば、飲み会の余興に使うか悪戯ぐらいにしか使えないこの能力ぐらいのものだ。
「何とかして抜け出せないものかなぁ」
「え、抜け出そうとしてるんですか?」
「どうして驚くんだよ。普通奴隷になるなんて嫌だろ?」
「すみません。そうですよね。私、将来はいつか奴隷になるって思って過ごしてましたから」
「奴隷になる?」
「はい。私の家は一応魔法使いの家系なのですが、他の家と比べると何ていうか落ちこぼれで、……借金も多く抱えていたんです。だからいつか身を売られることになるなってずっと思ってて……でもその時に『勇者召喚』で一発逆転が狙えるって聞いて、必死に練習して……」
「で、俺が召喚されたってわけか?」
「はい。努力に見合ってません」
「ストレス溜まってるのは理解できるけど、いきなりこっちに矛先向けるのは止めてくれ」
「す、すみません。でも小さい頃から何となくこの未来は想定していたので、逆にすっきりしてるというか……はは、たぶん諦めちゃってたんです」
リシアがどのような境遇で今までの人生を送って来たかは分からない。
ただ、自分と同じ、少し下ぐらいの少女が自分の人生を諦めている姿が悲しかった。
「そういやあいつ、リシアは家系の割には優秀みたいなこと言ってたよな?」
「そうですね。一応『勇者召喚』は難関魔法ですから」
「だったら魔法でどうにかできないのか?」
「国相手ですよ。無理に決まってます。仮にどうにかできても勇者たちが来てしまいます」
「それもそうか……」
八方塞がり。
完全に詰みの状態だ。せめて自分がもう少し強いスキルであればと無いものねだりを考えてしまう。
どうにかこの現状を打破できないか、そう考えている間に時間は過ぎていった。
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