『勇者召喚』
俺こと柊海斗は今、人生の絶頂期にいた。
両脇から「勇者様」と歓声が沸くレッドカーペットを召喚者と名乗る魔法使いの少女と共に歩く。
少女曰くこの世界では長年、人類と魔王率いる魔族との領土争いが続いているらしい。
その中で人類は特殊な次元を経由することで特別なスキルを獲得することを発見し、それを利用することで別次元の人類にスキルを付与し、この世界に召喚する『勇者召喚』を発明した。
このスキルを持つ勇者たちの活躍により、魔族との戦いを有利に進めるだけでなく、活躍した勇者を召喚した国家は強い発言権を持つことができる。
察しの良い皆さんならお気づきだろう。
そう、俺はその『勇者召喚』によって召喚された。
このレッドカーペットはこの国の城に続いている。召喚された勇者は王の前でスキルの鑑定が行われるとのことだった。
「……君が此度の勇者か」
煌びやかな衣装に身を包み、玉座にふんぞり返り座る同世代位の青年が品定めをするように俺の瞳の奥を覗く。
———勇者。
何度聞いても心地の良い言葉だ。
「長ったらしい前置きはお互い面倒だろう。鑑定士よ、この者がどのようなスキルを持っているのかを鑑定してくれ」
「はっ」
王の言葉に王座の横に膝をついている初老の男が返事をし、こちらに寄って来る。
隣にいる少女は緊張をしているのか、目線を下に向け小さく震えていた。
「少年、そこでじっとしてもらえるかな。おっと、お嬢さんは少し離れて」
「……あ、はい」
少女は俺の傍から離れる。
鑑定士と呼ばれた男に従いその場でじっとしていると足元が光り出し、俺の周りに文字のようなものが次々と浮かぶ。
「…………」
既に文字が表示されているが、鑑定士は中々口を開こうとはしなかった。しびれを切らしたのか、王はイラついた声で鑑定士に問う。
「その者のスキルは何だ?」
底冷えするような瞳だ。その瞳を向けられた鑑定士の顔には汗が玉のように吹き出てきた。唇をワナワナと動かしながら、ゆっくりと王に告げる。
「……静電気、です」
静電気?
冬場とかにたまにびりってするあの?
「せいでんき?」
王は眉間にしわを寄せ、鑑定士に尋ねる。
「はい」
「それは、どのようなスキルなんだい?」
「……か、身体から、電気を出すことができます……」
「ふーん、聞く分には悪くないようだけど? 何か問題があるのかな?」
「いえ、その電気なのですが、……寒い冬にドアノブを触った時の痛み程度しか力はございません……」
凄い神妙な様子でただの静電気のお話しをしていた。ということはあれだろうか。俺、凄い弱いってことだろうか。
「はははははっ、何だいその外れスキルは? そんなもので魔王が倒せるのかい? いやいや、それどころか城下の子ども達にすら相手にならないだろう」
先ほどまでイラついていたとは思えないほど笑っていた。そして笑い終わると、王は俺を見る。
「……ということだ。残念ながら君を勇者としては認められない。君のような能力の者を勇者として送り出してしまっては僕の、ひいては国の品位が疑われてしまう。わかるかい?」
「それは、まぁ、大体……」
俺もそんなスキルで魔族との戦いに臨みたくはない。
「分かってくれて何よりだよ。ところで、……勇者でもない人間がどうして城に、いや、どうしてこの王の間にいるのかな?」
「……え?」
「本来この場には僕か、僕の部下か、僕が許可した者しか入れない神聖な場なんだ。そして僕は勇者がこの場に来ることを許可したが、勇者ではない者が来ることを許可した覚えはない。つまり君は不当にこの場に侵入してきた、ということになる」
「な、なんだよそれ、それは流石に横暴すぎだろ」
王の口から出たのは、子どもでも疑問を抱くようなとんでも理論だった。
「うるさいぞ、君。横暴かどうかは知らないが、この国は僕が言う事が正しいんだ。そもそも君に横暴だのなんだの言われたくはないね。仮に君が勇者としての素質があればこのような事態にはならなかったんだ。この事態は君の無能が生み出したものだよ」
「何だよそれ……」
「とは言っても君一人に責任を負わせるわけにはいかない。責任を取るべき人間はもう一人いるからね」
王は部屋の端で震えている少女をいやらしい目つきで見つめる。
「君には正直がっかりだよ。ソフィア家では珍しく出来が良いと聞いていたけど、この程度なのかい?」
「も、申し訳ございません」
少女はその場で頭を下げる。
「僕は別に謝罪を求めているわけではないよ。そもそも僕は謝罪が嫌いなんだ。謝罪ってのは自分の犯した罪を少しでも軽くしようとする行為なんだよ。わかる?」
「は、はい……それは……」
「まぁいい、興ざめだよ」
王が指を鳴らした瞬間、扉が開き屈強な男たちが現れる。そのまま男たちは俺と少女を羽交い絞めにする。
「……そのままあそこに連れていけ。あと明日出荷できるように手続きしておけ」
王はドスが聞いた声で男たちに命令する。
俺は王を睨みつける以外にできることが無かった。
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