レント、Cクラスへ行く
これでCクラスの生徒が揃います。
「うーん、よし!」
マナカン王国立魔法学園の男子寮の一室。
レントは制服に着替えると、鏡で服装を確認した。
校長の石像破壊事件のせいで一日延期になった入学式の翌日。今日から授業が開始される。
事件にはレントも関わっていたため、昨日は教官からたっぷりお説教を受けた。
ただ、魔法関連の人事に強い発言力を持つタンブルウィード家の息子が関わっているということで大事にはならず、謹慎処分を受けるようなことはなかった。
ちなみにレントは、石像を破壊したのはシフル・タンブルウィードの風魔法だと何度も主張したのだが、信じてもらえなかった。
シフルはAクラスの生徒なので妥当な主張だと思うのだが、教官たちは苦笑するばかりだった。納得がいかない。
しかし、あのことは忘れて気持ちを切り替えていかないといけない。
今日からいよいよ魔法学園での生活が本格的に始まるのだ。
ここで魔法をしっかり学んで、いい仕事を見つける。そして父や母や妹に楽をさせてあげるのだ。
「よし!」
もう一度そう言って気合いを入れると、レントは寮の自室を出た。
○
レントは指定されたCクラスの教室に到着する。
教室にはすでに生徒が何人か揃っていた。
薄い水色の髪のディーネは最前列の真ん中に緊張した面持ちで座っている。
その斜め後ろ、少し離れたところに男子生徒が一人。机に脚を乗せ、頭の後ろで手を組んでいる。
赤髪のサラは、窓際で不機嫌そうに腕を組み、目をつぶっていた。
「あ、レントさん。おはようございます」
「やあ、おはよう」
ニッコリと笑みを浮かべて挨拶してくるディーネに挨拶を返し、レントは彼女の隣に座った。
「もうすぐ授業開始だけど、あまり揃ってないね」
「いえ、Cクラスはこれで全員みたいですよ」
「そうなの?」
昨日の入学式では、新入生は百人くらいいた。ほとんどの生徒はAクラスかBクラスというわけか。
たしかに会場の端っこに追いやられたCクラスはレントとサラとディーネしかいなかったが、あれはそんな扱いが嫌でみんなサボってたのかと思っていた。
レントは斜め後ろの男子に話しかける。
「俺はレント・ファーラント。よろしくね」
「おう、オレはムーノだ。よろしくな」
ムーノは、ポーズはそのままだったが、人懐っこく笑みを浮かべて答えた。
短い髪に、着崩した制服と、ちょっと怖そうな印象があるが、性格は人当たりが良さそうだった。
「さ、サラも、よろしくね」
「ええ、よろしく、レント・ファーラント。あなたがこれからの授業でどんな魔法を見せてくれるのか今から楽しみだわ」
「あはは……」
どうやらレントへの興味はいまだ強い様子だ。
ムーノは驚いた顔でレントを見てくる。
「なんだお前、ブライトフレイム家のお嬢様と仲良いの? すごいな」
「いや、仲がいいっていうか……」
レントは入学式に向かう途中で黒フードを撃退した話と、入学式会場で校長の像を破壊した話をする。
「うっわーそれ見たかったな。オレ用事があって入学式出れなかったから」
ムーノはそう言ったあと、窓際のサラの方を睨んで、
「オレが挨拶したときなんか顔すら向けてくれなかったんだぜ」
「わ、わたしもです……」
ディーネも言ってくる。
「ブライトフレイム家のお嬢様は落ちこぼれのオレらとは関わりたくないんだろうよ」
ムーノはサラの家名を強調してくる。
「ブライトフレイム家ってそんなすごい家柄なの?」
「おまっ、マジかよ」
レントが尋ねると、ムーノは椅子のバランスを崩してひっくり返りそうになる。
「ブライトフレイム家って言えば、ここ何代も王国魔法騎士団の団長を務める火魔法使いの名門中の名門だぞ。オレみたいな庶民でも知ってるっつうの。なあ」
「はい……わたしのうちは魔道具を扱う商家なので、ブライトフレイム家のお名前はよく耳にします」
「そうなんだ……ごめん、俺、地方出身だから王都の事情には詳しくなくて」
レントは苦笑しながら言う。
「けど……その名門のお嬢様がどうしてCクラスに?」
「さあ。本人に聞いてみたいけど、あの調子だからなぁ」
ムーノはサラのほうをちらっと見て、わざとらしくため息をついた。
そう言えば、石像破壊事件のとき、シフルがなにか言っていた。『僕の誘いを断るから』とかなんとか。
サラがCクラスに入ったのは、彼が関わっているのだろうか……?
レントがそんなことを考えていると、女性の教官が教室に入ってきた。