レント、喧嘩を止める
「邪魔だ。どけよ、Cクラスの雑魚ども!」
そんな声をかけられて見てみれば、いかにも貴族という服装の男子生徒がニヤニヤしながら立っていた。
豪華な礼服を身につけている。豪華すぎて、入学式という式典にさえも不釣り合いな感じだ。
この豪華さが似合うのは国王の即位式くらいだろう。
「えっと、君は?」
レントが問いかけると、彼は偉そうに喚き立てる。
「無礼だぞ! この僕の顔を知らないのか? かのタンブルウィード伯爵家の三男にして、天才魔法使い! この魔法学園にも当然のごとく優秀な成績でAクラス入学を果たした、シフル・タンブルウィードだ! 覚えておけ、落ちこぼれども」
「ごめん、王都の事情には疎くて。まだ名家の名前も詳しく知らないんだ」
「ふんっ、そんなお前はどこのどいつだ」
「えっと、俺はファーラント家の——」
「おおっと、そこにいるのはブライトフレイム家のご令嬢ではないか!」
レントが名乗ろうとしているのを無視して、シフルは赤髪の少女に目を向ける。
「…………」
「せっかくの魔力と魔法の才能があるのに、口の悪さでCクラス入りとはね。お父上が嘆いていなかったかい? 僕の誘いを断るからこういうことになる」
「…………」
「今からでも遅くない。僕が口利きすれば、君もAクラスに行けるよ。こんなゴミだめとはおさらばだ。どうだい、サラ」
無言を貫く彼女——サラに対して、シフルの態度はだんだん馴れ馴れしくなる。
どうやら二人は旧知の間柄らしい。
そして、とうとうシフルがサラの肩に手を載せようとしたところで、サラはその手を払って、シフルを睨みつけた。
「寄らないで。無能が移るわ」
「……どういう意味だ」
睨み返すシフルに、サラは怯むことなく続ける。
「あなたの魔法の実力なら、本来Bクラス入学が妥当。それなのにAクラスだなんて——口利きが上手くいってよかったわね。おとうちゃまにたくさんお礼を言っておくといいわ」
「このっ! 僕を侮辱して!」
シフルが手を持ち上げた。
彼の手の平から魔力が放出される。
「ちょっとちょっと、こんなところで魔法使うつもり!?」
「けっ喧嘩はいけませんよぉ!」
レントとディーネは焦る。
しかしシフルは即座に魔法を発動した。
「ウィンドブラスト!」
強力な風の一撃を相手に与える第二位階魔法だ。
空気の塊がまるで砲弾のようにサラを狙う。
「ファイアウォール」
サラはそれをなんてことないように炎の壁で防御した。
シフルのウィンドブラストは簡単に弾け飛んでしまう。
しかし——その破片の一つがディーネに向かって飛んできた。
「危ないっ!」
レントはとっさにディーネを庇おうとするが、間に合わない。
レントの見たところ、ウィンドブラストの威力は大したことがない。
だが、それは自分が時代遅れの古代魔法しか知らないからだとレントは考えた。
現代の魔法は、小さなサイズの魔法に、強烈な効果を及ぼす術式などを組み込んでいるのかもしれない。
だとすればディーネが危ない。大怪我をするかもしれない。下手をしたら死んでしまうかも。
レントはとっさに魔法を発動する。
レントにとっては未知の現代魔法に対処するために、全力で魔力を練り上げる。
「——ウィンドショット!」
ウィンドショットは小さな風の球を放出する第一位階魔法だ。時間がなかったので、これくらいしか放てなかった。
(なんとか、これで防げればいいけど……!)
レントの手から離れた風の球が、ディーネの手前で、ウィンドブラストの破片とぶつかる。
そのとたん二つの風魔法はぶつかり、軌道を変えた。
次の瞬間——轟音とともに強烈な爆風が発生した。
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次はお昼ころ。