Cクラス、ディーネの屋敷に呼ばれる
「うわー、すごいな」
レントは周りの街並みを見上げて驚きの声をあげた。
「ちょっと、恥ずかしいからキョロキョロしないで」
隣を歩くサラがレントの腕を叩いて言ってくる。
ルナ校長との面会の後、レントはサラと合流してディーネの家に向かっていた。
ディーネの家は学園から離れたところにあるので、サラに道案内をお願いしたのだった。
王都の街は学園から離れるに従って賑わってきた。
学園は魔法の訓練などで騒音が出るため、比較的郊外にあるらしかった。
王都に着いてからはほとんど学園で過ごしていたレントは、初めて見る都会の雰囲気に驚きっぱなしである。
「だってこんな大きな建物がこんなにたくさん並んでるなんて」
そう言って建物を見上げるレントは完全にお上りさんだった。
周りの通行人が笑うのを恥ずかしそうに見ながら、サラはレントの服を引っ張る。
「ほら、早く来なさい」
まるで姉みたいなノリで彼女は言う。
「あなたも貴族なんだから、ディーネの家に着いたらちゃんとするのよ。ファーラント家の恥になるんだから」
「そうだね、うん——うわっ! なにあの噴水!」
サラの言葉に答える途中で駆け出すレントに、サラはため息をつく。
彼に常識を教えるのは、自分が新たな属性の魔法を習得するのより難しいかもしれない。
○
「ここね」
「——でっか!」
ようやくディーネに言われていた場所に到着して、レントは目を丸くする。
レントの実家の屋敷よりはるかに巨大な建物が目の前にあった。
そこらの貴族より立派な屋敷である。
「あ、レントさん! サラさん!」
その門のところにディーネが立っていた。
「お待ちしてました!」
「やあ、遅くなってごめん、——いてっ」
後ろからサラに叩かれ、レントは言い直す。
「本日はお招きいただきアリガトウゴザイマス」
「そんなかしこまらないでください」
慣れない挨拶をするレントにディーネは小さく笑った。
ディーネは可愛らしいドレスで着飾っていた。学園の制服のときとは雰囲気がずいぶん違って見える。
「すごい家だね。商家だって言ってたけど、この様子だと大貿易商ってところ?」
「そ、そうですね。大陸の各地と取引して、魔道具の売買をしてます。魔道具は盗賊やモンスターに狙われやすい品物なので、引き受ける商人が少ないそうで」
おかげで取引を独占できる、ということだろう。
「あ、ひょっとして、ディーネが魔法を学んでるのは、魔道具を守るため?」
「いえ、私はそんな……」
「おや、残りのお友達もご到着かい、ディーネ」
門の中から、恰幅の良い男性が現れた。どうやらディーネの父のようだ。
「ようこそいらっしゃいました。さあ、どうぞ中へ」
言われるままにレントとサラは屋敷に足を踏み入れた。
食事用の広間と、中庭が開放され、晩餐会の会場となっていた。
といっても、ゲストはレントとサラとムーノの三人。迎える側も、ディーネと両親、それにディーネの妹の四人。あとは使用人だけで、それほど大人数のパーティではなかった。
にもかかわらず、卓上には食べきれないほどの料理が並べられる。
「さあさ、遠慮せず召し上がってください。珍しい遠方の食材なども使っております。ぜひご堪能ください」
たしかに見たことのない料理がたくさんあった。
しかもどれもこれもレントが味わったことのないほど美味しい。
「すごい、美味しいです! これも、これも美味しい!」
「レント、がっつきすぎよ」
そう文句を言ってくるサラの横では、ムーノがレント以上の勢いで料理に食いついている。
「うめー! なあこれ絶対余るよな。孤児院のやつらに持っていっていいかなぁ」
「ちょっとムーノも! 恥ずかしいからやめて!」
サラは頭を抱えながら声を上げるが、ディーネの父親は愉快そうに笑う。
「もちろんです。遠慮せずお持ち帰りください。私も昔はよくやりましたよ。主人には内緒で、でしたが」
ディーネの父親は、幼いころはある貴族の屋敷の使用人だったのだという。
貧乏な境遇から、その貴族との縁で魔道具の商売を始めるようになり、この財を一代で築きあげた。
「すごいですね」
レントは純粋に感心してそう告げるが、ディーネの父親は謙遜する。
「なぁに、つまりは成り上がり者ですよ。貴族の方々のような歴史や伝統は我が家にはありません」
その言葉は、レントやサラに対する配慮というよりは、彼の純粋な憧れのように思えた。
「旦那様」
と、そこで執事が彼を呼びに現れる。
なにやら緊急の仕事が舞い込んだようで、彼は皆に頭を下げて中座した。
代わりにディーネの母親が話をする……間もなくディーネの妹が席を立って、レントたちのところへ駆け寄る。
「はじめまして、いつもおねえちゃんがおせわになっております。ミヅハです。はっさいです」
ぺこりぺこり、と丁寧に頭を下げる。
レントたちは改めて名乗る。
ミヅハは三人を見回して言った。
「それで、どなたがおねえちゃんのこんやくしゃですか?」
ディーネの顔がぼんっ! と真っ赤に染まる。
ディーネの母がミヅハを叱る。
「こらミヅハ! 失礼ですよ」
「えー、でも、おかあさまも気にしてたでしょ?」
「そ、そんなことはありませんわよ。おほほほほ」
ディーネの母はレントたちを見て笑って誤魔化す。
その意味を察したのだろう、ムーノがニヤニヤ笑いながら答える。
「そうだなぁ。サラが男だったらお似合いだったかもな」
「どういうことよ」
「ブライトフレイム家の跡継ぎなんだ。お婿さん候補として悪くない」
言いながら、ムーノはレントに向き直る。
「レントの家は貧乏だっつってたけど、魔法の才能があるからな。出世するかもしれねえ。意外と有望株かもな」
「ちょ、ちょっとムーノ」
「俺はやめといたほうがいい。どんなに出世しても爵位は手に入れられないだろうし。金があったら全部孤児院に寄付しちまうかもしれねえしな」
あははは、と笑いながら、ムーノは大量の肉を頬張る。
「……今の話をまとめると、ムーノはサラのこと、結婚相手として悪くないって思ってるってこと?」
レントが仕返しのつもりで言うと、ムーノは思い切りむせて、喉に肉を詰まらせた。
「じょ、冗談じゃねえぜ。誰がこんな気の強い女と」
「私もこんなガサツな男はごめんね」
「なんだと!」
「えーと、じゃあムーノはディーネみたいなお淑やかな子が好みってこと?」
「レントさんっ」
「いや、それは……お前はどうなんだよレント!」
「俺? 俺はその……っ!」
ジーーーーーっ、とサラとディーネ(とミヅハ)の視線が集中し、レントは言葉に詰まる。
「俺は……もっと歳上の女性が……」
二人のどちらにも偏らないよう、無難な答えを返すと、ディーネの母親が笑いながら言ってきた。
「あら、ではわたくしが立候補しましょうか」
「ちょっと、お母様!」
気まずい空気になりそうだったのがうまい具合に回避され、そのあとは学園での生活の話などで和やかな雰囲気になった。





