ルナ校長、魔法について語る2
「さて、そこでじゃ」
とルナ校長は話を続ける。
レントは衝撃を受けていたが、話においていかれないように注意を向ける。
「どうやら、古代魔法でいうところの位階に到達すると、その者の魔力の質が変わるようなのじゃ」
「魔力の質が?」
「そうじゃ。特に、第三位階から第四位階に到達したときと、第六位階から第七位階に到達したときに質は大きく変化する。お前はすでに第九位階まで到達しておるのじゃろう?」
「はい。自分ではそのつもりです……」
なにしろ検証してくれる相手がいないので自信はない。
「現代魔法は第三位階までで魔導の全てだと思われておる。じゃから、魔力測定器も、第三位階までの魔力しか測定できないのじゃ」
「なるほど……」
レントは納得する。
魔力ゼロと測定されたにもかかわらずレントが魔法を使えていたのは、空気中の微量魔力を用いていたからではなく、魔力測定器では測定できない異質の魔力を用いていたからだったのだ。
ルナ校長は紅茶を飲みながら語る。
「儂も、この写本を手に入れて、第四位階に達したときから、魔力測定器での魔力の値がどんどん下がっていった。一時期は現役引退かと落ち込んだりもしたが、そういうことではなかったのじゃ」
「校長先生も第九位階まで到達したんですか?」
「そこじゃ」
びしっ、とルナ校長は可愛らしい指をレントに向けた。
「儂よりお前の方が魔導の実力が上というのはそこじゃよ。なにしろ——」
ルナ校長はニヤリと笑って、
「儂はまだ、第六位階までしか到達できておらぬ」
「え……?」
「驚いたか? 第七位階以降は、それほど特殊なのじゃよ。昼間、お前が『どの属性の魔法を使うか』と訊いてきたとき、儂は『{四属性なら(傍点)}なんでもよい』といったじゃろ? あれはそういう意味じゃ」
古代魔法では、第六位階までは地水火風の四属性魔法を扱い、第七位階からは闇魔法と光魔法を扱うようになる。
つまり、ルナ校長は闇魔法と光魔法は使えないのだ。
「つまり、俺は……」
「そう。現代では人類でただ一人、闇魔法と光魔法を扱える存在じゃ」
「…………」
信じられない話に、レントは言葉が出てこない。
魔力ゼロと測定され、Cクラスに入れられて、自分はまだまだなのだと思っていた。
それが突然、現代の魔導の最高峰と言われるルナ・リバロより高い実力を持っていると言われても、実感が湧かなかった。
「えっと……俺はどうすればいいんでしょうか?」
その実力をガンガンアピールすればAクラスに編入できて、将来も安泰だろうか。
そんなことを考えるが、校長は申し訳なさそうにため息をついた。
「ここからは頼みごとじゃ」
「え?」
「お前はしばらく、その実力を隠しておいてくれんか」
「というと、古代魔法は使わないようにするってことですか?」
「そうじゃ。闇魔法と光魔法は使用禁止。四属性魔法も、第三位階までの制限じゃ」
「どうしてですか?」
「シフル・タンブルウィードのようなアホに才能の芽を潰させないためじゃ」
レントの頭に、昼間絡んできたAクラスのボンボンの顔が思い浮かぶ。
「今の魔法学園や魔法省の管理のもとでは、お前のような規格外は制度から弾かれてしまう。現在の魔法体系はがんじがらめで自由度がなく、既得権益に巣食う奴らがそれを守っておる。じゃが……」
ルナ校長はレントをまっすぐ見て言う。
「儂は、近いうちに改革を起こす。現代の魔法体系のしがらみをどうにかして突き崩すつもりじゃ。そしてそのためにお前の力を借りたい。じゃから、少しだけ、我慢して待っていて欲しいのじゃ」
「…………わかりました」
レントは頷いた。
もともと、レントは自分の力をひけらかしてちやほやされたいわけではない。
田舎の領地で貧乏暮しをしている父や母や妹に楽をさせてあげたい。そのために少しでもいい仕事に就きたいだけだ。
ルナ校長の言うように、今レントが古代魔法を使っても、魔力ゼロとみなされCクラスに入れられたように、なんだかんだ理由をつけて実力なしと判定されてしまうのだろう。
それよりは、ルナ校長の言う改革を待った方がいいように思えた。
「よろしくお願いします。校長先生」
「任せておけ」
ルナ校長はニヤリと笑った。
「あ……」
とそこでレントは思い出す。
サラには思いっきり古代魔法の話をしてしまっている。
「どうした?」
「あ、いや……」
校長に話しておくべきかどうか考え、レントは言わないことにする。
彼女になら知られていても、今校長が言ったような問題は起こらないだろう。
代わりにべつのことをレントは口にする。
「あの、入学式の日に石像を壊した件なんですけど……」
「ああ、わかっておる。シフル・タンブルウィードがあんな強力な魔法を使えるわけがないからな。あれはお前じゃろう?」
「ごめんなさい……」
「なに、むしろ感謝したいくらいじゃ。あれ、儂の二十年くらい前の姿をかたどっていての。あんなもの、人前に晒したくなかった。なんなら、儂がこっそり破壊してたかもしれん」
「そうだったんですか」
レントは胸をなでおろす。
「……二十年前の校長先生って九十歳? それっていったいどんな外見——いで!」
「余計な詮索はするんじゃないっ!」
小さな雷で痺れさせられ、レントは追及を諦めた。





