第三王子の策謀
(ああああ……なんだというのだ……っ!)
ルインは頭を抱えたくなってきた。
ユキシロのことについてシフルに相談しようと思ったら、そのユキシロとフィーア第四王子が、大聖女教会から魔導書ガルドラボーグを奪うために、教会の代表を拐う計画を立てていることを知ってしまった。
そのことをヴァイツ第二王子に相談しようと思ったら、ヴァイツ王子は魔法騎士団の副長とともに、イアスン第一王子を暗殺しようと目論んでいることを知ってしまった。
ヴァイツ王子と副長が立ち去ったので、ルインとシフルは物陰から出てきた。
「……とんでもないことになってしまいましたね」
「ああ……」
これはヒドい。
前々から裏で権力闘争を繰り広げている兄弟ではあったが、ここまでヒドいことになっていようとは思わなかった。
このままではユキシロへの恋がどうのという以前に、王子同士の争いで国が滅ぶ。
……いや、待てよ。
「いっそ国が滅んだほうが……」
余計な障害なく彼女と交際できるのではないだろうか。
そんなことを考えてしまうが、すぐさまシフルからツッコミが入る。
「しっかりしてください殿下! 現実逃避している場合ではないです」
「っ……そうだな」
ルインは慌てて頭を振る。
いくらなんでもその選択肢はあり得ない。
「とはいえ、これはどうするべきだ? さすがにもう相談できる相手もいないぞ」
「そうですね……いえ。ここはもう、国王陛下に申し上げるべきではないでしょうか」
「ううむ……」
国王――ルインの父も、息子たちの政治闘争については知っている。
ただ、これまでは争い合うことで、それぞれの得意分野で国のためになる活動をしていたために、目をつぶっていたのだ。
だが、暗殺やら他国の要人の誘拐となってくると話はべつだ。
これはちゃんと事態を伝え、考えを仰ぐほうが良いだろう。
「そうだな。父上のところへ行こう」
ということで、ルインとシフルは国王のところへ向かうことにした。
○
「おお、ルイン。いいところで」
国王の居室へ向かう途中で、ルインを呼ぶ声があった。
見れば、弱々しい表情の、病人のような男が手を上げていた。
「イードラ兄上っ!」
ルインは目を丸くする。
シフルも慌てて頭を下げる。
イードラ第三王子。
詩や歌を愛する穏やかな性格だが、病弱で滅多に自分の部屋から出てこない。
「散歩ですか? 伴も連れず……」
国王の後継者になるつもりはないと自ら宣言したこともあるイードラは権力闘争とは無縁である。
ルインは完全に兄を案じる気持ちからそう問う。
「いやいや、お前の声が聞こえたんでな。ちょっと話したいことがあったから部屋を出てきた。少しいいか?」
「ええ、もちろんです。シフル、済まないが……」
「はい、後日改めましょう」
シフルはそう告げ、イードラに頭を下げて立ち去る。
「悪いな……」
「いえ、兄上とお話しする機会なんて滅多にないですからね」
そう言いながら、ルインはイードラの居室に迎え入れられる。
きれいに整えられた部屋で、たくさんの書物が棚に並んでいる。
香を焚いているのか、いい匂いが漂っていた。
イードラにとっては人生の大半を過ごす場所だ。
居心地の良い空間にしておきたいのだろう。
「それで、話とは?」
促されるままに腰を下ろしながらルインは問う。
イードラとはたまに詩歌などについて雑談をすることがあるが、こうして改まって話をすることはなかった。
「実はな……デュランダルを持ち出したい。手を貸してくれないか」
ああ、この兄までなんか企んでるのか。
ルインは頭がクラクラしてきた。





