レント、魔法学園の入学試験に挑む
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レントは、マナカン王国立魔法学園の聖堂で、魔力値測定試験の順番を待っていた。
魔力値測定は、この魔法学園の入学試験の最終関門である。
一次試験である筆記試験、二次試験である面接試験を突破した受験者だけが、最終試験である魔力値測定に挑むことができる。
三つの試験の成績を総合して、受験者の合格不合格と、AからCまでの三つのクラス分けが行われる。
聖堂には魔力測定のための魔道具がいくつか用意され、ずらりと並んだ受験者が順番に魔力を測っていく。
魔道具の横に立つ試験官は、その結果を紙に書き込んでいく。
「魔力潜在値354、放出量25、純度は40パーセント……総合値は354だな。はい次」
機械的にどんどん処理していく。
そうして自分の前の受験者が減っていき、自分の番が近づいてくるのを、レントはドキドキしながら待っていた。
レント・ファーラント。
周りと同じ十五歳。男子。
受験者の中には魔法騎士団志望の者もいるため、ガタイのいい者やいかつい外見の者も多い。
そんな中でレントは華奢と言っていいくらい痩せていた。
では嗜みとして魔法を学ぶ貴族のような整った外見かというと、そんなこともない。
顔はべつにマズいということはないが、どことなく野暮ったい。
ボサボサとして整っていない黒髪が、裕福な貴族とはっきり区別をつけている。かなり流行遅れの服装と合わさって、田舎者感が満載であった。
それも仕方ないだろう。
レントはマナカン王国一の田舎と言われるクォーマヤ地方の貧乏貴族の息子なのだ。
ファーラント家は一応男爵位を有してはいるが、特に常備している兵隊があるわけでも、王都に居館を有しているわけでもない。
やっていることは、地域住民の困りごと——川が溢れたとか、喧嘩が起きたとか、牛が逃げたとか——を解決してやることくらい。
そんな、地主と大して変わらないのがファーラント家である。
なので当然、王都で流行のファッションに身を包んだり、魔力測定試験のためにわざわざ散髪してくるなんて余裕はレントにはないのだった。
しかし、レントはやる気に燃えていた。
なにしろ彼には魔法の才能があった。
一週間前に行われた筆記試験はなんと満点。二日前に行われた面接試験でそのように言われ、褒められた。
その面接試験でも、面接官の反応はとても良かった。
魔力測定値が高ければ、Aクラスに入ることもできるかもしれない。
Aクラスといえば王立魔法騎士団への登竜門。ほかにも王立魔法研究所や王室魔法指南役、大陸魔法使い同盟の職員など、エリートへの道が拓けている。
そして……自分の魔力値がかなり高いことをレントはすでに知っている。
「なにしろ、ずっと魔法の練習してたからな……」
レントは思わず呟く。
ファーラント家の先祖は実は、八百年前に魔王討伐を果たした勇者パーティの一員だった。
勇者はその後、この地に王国を築き、マナカン王家の始祖となった。
パーティのメンバーは王家に仕える貴族となった。もちろんファーラント家の先祖もである。
勇者パーティに参加していたファーラント家の先祖は、当代最強の魔法使いだった。
魔王配下の十万のオーク軍を一瞬にして地の底に沈めたとか、巨大ドラゴンを炎で焼き尽くしたとか、様々な伝説を残している。
なので当然、ファーラント家はマナカン王国の王宮魔法士となった。
ファーラント家のもとで魔法技術は発展し、マナカン王国は大陸最強の国家になるのだと皆が思った。
しかし……ファーラント家の魔法の才能は、一代限りのものだったらしい。
つまり、勇者パーティに参加した伝説の魔法使いの息子も、孫も、その息子も、魔法使いとしてはごく平凡だった。
娘も、その息子も、ついでにいとこも、甥も姪も、ひ孫も玄孫も、一人たりとも伝説の魔法使いの千分の一の能力も持たなかった。
そんなわけで、伝説の魔法使いが亡くなると、ファーラント家は王宮魔法士をクビになった。
新たに当主となった息子は、自ら申し出て田舎のクォーマヤ地方に移り住み、いつか伝説の魔法使いの再来となるような者がファーラント家から現れたなら、ふたたび王国のために力を尽くすため王都に参上することを、国王と約束したのだという。
それから八百年、ファーラント家の人間には、一人も魔法の才能がある者が生まれなかった。
もう王室も、そんな約束憶えてないかもしれない。
しかし、とうとう伝説の魔法使いの再来が生まれたのである。
それがレントだった。
ファーラント家の屋敷には、地下書庫がある。
そこには、伝説の魔法使いが記した魔法技術の指南書や研究書が山ほどある。
レントは幼いころからそれらの本を読みふけった。
なにしろ田舎なのでほかに娯楽がないのだ。
レントはそこに描かれた魔法の体系の美しさ、深遠さに心を奪われた。
そしてそれらを一つ一つ実践していった。
王立魔法学園に入学できる歳になるころには、それらの本に書かれた魔法を一通り使いこなせるようになっていた。
レントの父は驚いた。
それらの本が王都の魔法騎士団の本部や魔法研究所ではなく、ファーラント家の地下に放り込まれていたのは、誰もそれらの本の内容を理解し、実践することができなかったからなのだ。
つまりレントは、八百年前の先祖、勇者とともに魔王を倒した伝説の魔法使いと同等の魔法の才能がある、ということになる。
そう、ファーラント家はとうとう復活したのだ。
長い時を経て、伝説の魔法使いの末裔がふたたび表舞台に立つときがきた。
今日はその記念すべき最初の日となるかもしれない。
「おお〜!」
少し離れた列の前の方でざわめきが巻き起こった。
どうやら今日一番の高い魔力値が測定されたらしい。
「サラ・ブライトフレイム、魔力潜在値980、放出量135、純度80パーセント……総合値は1万584。もったいないな、面接でもっとちゃんとしていれば……」
「ありがとうございました」
試験官の言葉を礼で遮って、その受験者はその場を歩き去る。
燃えるような赤髪の、険しい表情の少女だった。
「かっこいー。やっぱ王都の貴族は違うなー」
そんな感じでレントが思わず見惚れていると、試験官に呼ばれた。
「おい、次は君だよ。えーと、レント・ファーラント?」
「あ、は、はい」
ついに自分の番がきた。
レントは緊張しながら魔力測定器の前に立った。
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