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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最強ヤンデレ娘が、幼なじみ勇者のただの記録係になるまでのお話

作者: 上坂 梅花




 私の名前はフニン、今は林の中を歩いているの。


 私のお目当ては、かつて通っていた魔法学校の同級生。

 優しくて、ステキで、笑顔を見ればどんなに冷えた心もたちまち溶かしてくれる、素敵なハンサムボーイ。

 彼がギルドに入って、クエストに向かうその日を。

 卒業してからずーーーっと、今か今かと待ち続けていた。



 そして、ようやくその日を迎えられたと言うのに……。



 彼ったら、私の事をすっかり忘れて、勝手にパートナーを決めて出発してしまったと言うの。


「いったいどこの誰かしら、(だま)()ち同然のやり口で私から奪ったつもりのバカな泥棒ネコは……。ふふ♡すぐに会って話しをつけなくちゃ♡」


 彼と会える楽しみと、根性の曲がったアバズレとお話しができる楽しみから、自然と笑みがこぼれてくる。

 せっかくギルドのマスターも「笑顔」を見てくれて、とっても優しく教えてくれたんだもの。

 マスターのご好意にはしっかり応えなくちゃ。



 ああ、早く会えないかしら。



 ガサガサと枯れ葉を踏みしめて、林の中を突き進む。



 そう、名前をうっかり言っちゃったら……。

 私までつい恥ずかしくなっちゃう、あの素晴らしいお方に。


「っんぁぁもぉぉ!!ポールさまったら、どこなの!?早く、早く会いたいわぁぁ……!!」



 …………。



「…………はっ。あぁ、つい言っちゃったわ……」


 サッとしゃがみ込み、アゴ周りを手で(おお)い隠す。

 さっきまで空気のおかげで冷えていた(はだ)が、トクトクと熱を帯びている。



 ああ、いま私顔を真っ赤にしている。

 もしかしたら、さっきの私の声も誰かに聞かれたかも。

 それが、それがもし、ポールさまだったら……。



「あぁんポールさまったら!違うわ、今のはノーカンよ!無し無し無し!ノーカンノーカン!どうか聞かなかった事にして!」


 人目もはばからず、つい興奮してまた大きく絶叫してしまった。




 ガサリ。


 物音を確かに耳にした。

 ピクリと耳たぶが反応し、音の方向にジッと神経を()ぎ澄ませる。

 木の葉の踏みしめる音に、かき分ける草のガサガサ音から、その大まかな正体に検討をつける。


 大きな像、おそらく人型。

 それも、一瞬聞こえた枝と金属の()れた音からして……。


 またハッとした。



 ニンゲン、それも2人組みだ。

 もしかしたら、ポールさまかも……!



 そう直感すると、もう居ても立っても居られなくなった。


「このフニン!すぐに貴方(あなた)さまの元へ向かいますわ!」


大きく一歩を踏みしめると、ダダリと音の方向へ駆け寄った。


「待ってくださいねポールさま!!すぐに向かいますわ!」


 ガサガサガサガサ!


 地に()かれた枯れ葉を吹き飛ばし、(しげ)る小枝をへし折り、彼女はダダダと走る、走る。






 そしてすぐに見えた人の陰。



 間違いない、やっぱり私の直感は()えに冴えている。



 ポールさまの力になりたいと、(みが)きに磨き続けた魔法学校での鍛錬(たんれん)の日々が、大いに彼女に力のかてとなっていた。


 ガサッ!キッ!


 ググリと片足に力を込めて急ブレーキ。

 物音のヌシにあっさりと追いつく事ができた。


「ポールさま!フニンが…………。は?」


 人陰の正体に、ガクリと大いに落胆した。


 目の前に居たのは、むさ苦しい山賊が2人。

 おそらくこの林の一帯を拠点に、動き回っている連中なののだろう。

 気配の正体が彼らと分かり、すっかり肩を落とした。


 だが、向こうは少し事情が違うようだ。


「へへ……。ラッキィだなオレたち」


「ですね、アニキ!叫び声からしてカワイイ()だとは思っていたけれど……。まさか1人で、それもノコノコとオレたちのところへ……」


「サイコーだなオイ!さっさとヤッちまおうぜ!」


「アニキ!オレはビンビンいつでもバッチリっすよ!さ、早く命令を!」


 ずっとコチラを見ながら、ニヤニヤとそんな事を話し合っている。

 コイツらが知っているかどうかは、この様子だと望み(うす)だが、一応は聞いてみる事にした。


「……ねえ。アナタたち、とっても若い勇者さまを、知らない?」


「知るか!オレは女神さまに今会っているからよ!お取り込み中だ!」


「へへ、そういう事ですぜ!ちっちゃな女神さま!さ、痛い目に遭いたくなかったらオレたちと遊びな!ケヘヘ!」


「……あまり身長は高くない方よ。あと、なんか女の連れを、連れているらしいのだけれど……」


「くだらねえな!さ、痛い目遭いたく無かったら、さっさと武器置いて装備も外しな!」


「おじょうちゃん1人で、オレたちとは戦えねえぜ!おとなしく、言うこと聞いた方が身のため、ってやつだぜ!」



 ああ、これはダメだ。

 やはりまともには取り合ってくれそうに無い。


 ふう、とため息をつく。



 これでは仮に居場所を知っていても、ちゃんと教えてはくれないだろう。


「……おいコラ。ウンとかスンとか答えろよ、ガキィ」


「ア、アニキ。もう無理に身ぐるみ剥いで犯しましょうぜ」


「ああ、そうするか。こんなクソガキにイキってたオレがバカみてえだ……ったく」



 教えてくれない相手には、質問をして返事を待つ。

 それが一般常識だ。



 だが、そもそも答える意思すら無い、礼節の無い者なら話しは別だ。



 彼女は自分の常識に則って、もう一度尋ね直す事にした。





 ボトリッ、ドサ。




「えっ?」


 山賊のかたわれが、音のした方向を見た。

 アニキと慕う男の腕が、無い。



 いや違う、私が無くしたのだ。



 足下を見ると、アニキの物であろう腕が落ちている。

 まだドクドクと濁った血が、ジンワリ断面から染み出して、枯れた木の葉を赤く染めていく。

 アニキはまだ、自分の身に何が起きたのか理解していない様子だった。


「ねえ、もう一度尋ねるわね。小さな勇者さまを、知らない?」


 武器をチラつかせながら、もう一度尋ねてみた。

 草刈り鎌のような、異様な形状の刃物をゆらゆらと揺らしながら。

 ピカピカと光沢を放つ刃には、ベットリと濁った赤い液がまとわりついていた。


「ひっ!ひぁぁぁ゛ぁぁっっっ!!腕がっ!!オレのうでがぁぁぁ゛っっ!」


「ねえ、知らないの?知っているの?」


「あ、アニキぃぃぃ!!!」


「……ダメね、話しが通じないみたい」


 ブン、と今度は横に鎌をひと振りした。


 アニキの絶叫はパタリと止まった。

 首の無くなった男の体が、子分の真横に突っ立っている。

 首の無くなったアニキは、もう機能しない。


 ヘタリ、地面にヒザをつくとそのまま地面にぶっ倒れた。


「うわぁぁ゛ぁぁ!!うげぇっっ゛っっ!!おぇ゛ぇっっえ゛っっ!!」


「アナタは知っている?ねえ、どうなの?」


「は、はいぃっっ!!あの、向こう!!木の向こうを通って林を抜けていこうとしたはずです!はい!!!」


 子分はとっさに答えた。この反応だと、おそらくはちゃんと見ていたのだろう。



 手間をかけさせて、まったく……。



「あの木の向こうね、分かったわ」


 ホッと目を閉じ、安堵した子分。


 ヒュンッ。


 子分の首が飛んでいく。

 林のどこかにいる勇者さまへの感謝の念を抱きながら、男の視界はそのままブラックアウト。

 もう目を覚ます事は無かった。



 *****




 彼女にとって、彼らとの出会いはあながち時間のムダでも無かった。


 フニンの耳がピクリと反応。

 誰かがコチラに近づいて来ている事に気づいた。

 ベットリと刃についた血のりを拭きながら、音の方向に身構える。



『何かありましたか!どうしたのですか!』



 だんだんと近づいていく、足音。

 そして声。


 彼女はビクリと身震えた。

 声を(わず)かに聞いた瞬間、彼が来ると本能が教えてくれたからだ。



『大丈夫ですか!?ウッ!?!?』



 フニンの顔が満面の笑みになる。



 愛しのポールさま。

 今度こそ、見つけられた愛しのポールさまを。



「ポールさまぁぁぁ!!!会いたかったですぅぅぅ!!!」


 彼女は一気に詰め寄り、彼の元へひざまずこうとした。




 ……が、無念それは(はば)まれる。


 鋭い剣のひと振りが、彼女とポールの間に割って入る。



『ポール、大丈夫か!?まったく、不意打ちを仕掛けるとは恐ろしいヤツだ!』



 声を聞いた瞬間、フニンの顔から笑顔が消えた。



 声の正体は女。

 年齢は20代半ば、その姿から騎士であろうとおおよそ察しがついた。


「リンさんありがとう!」


「ポール、援護を頼むぞ。コイツ、恐ろしい実力の持ち主だ。殺されるぞ」


 すかさずフニンは襲いかかった。


 ブン!ブンブン!!


 鋭く振り回し、ひと斬りでその下劣(げれつ)な女の首を落としてやろうと、殺気を込める。


 ガキッ!ガキッ!

 カィンカィン!!


「ポールさまから離れてこのビッチ!!」


「うっ!な、なんて腕前……っ!!」


 フリンの憎悪(ぞうお)の感情は、恐ろしいものだった。

 自分よりもひとまわり大きく、武装もしっかりとした女騎士を、明らかに凌駕(りょうが)していた。


「このビッチ!!ビッチ!!死ねえ!!」


「ひ、ひいっ!っく……!」


 彼女の(マイナス)のエネルギーはすさまじかった。


 彼女にとって、初めてのクエストのパートナーを()られた事も、ピンチの時に駆けつけて助けるというシチュを盗られた事も何もかも許せなかった。


 そんな中でも何よりも許せないのは、互いに名前で、しかも愛称で呼び合っている事がもっもと許せなかった。



 本当はその場所には私が居るはずなのに。



 それを奪い取ったこの女が、憎くて憎くて、仕方がなかった。


「死ねぇ!!」


 騎士の顔に僅かなキズをつけたフニン。




 だが、あとひと息で首を落とせるという時に、想定していなかった事態に彼女は襲われた。


「リンさん!!」


 彼女には理解できなかった。

 あの、素晴らしいポールさまが、自分に刃を向けてきたのだ。


 それも事故や物のはずみの類いではない。

 明らかに自分を狙っていたものだった。


「こ、このっ!!リンさんから離れろっ!!」


 ブンッ!ブンッ!


 剣を小さな体で必死に振り回す姿に、フニンは大いに困惑する。



 どうして、なぜ……?



 ポールの攻撃をかわした彼女は、ジリ、ジリと後ずさり。

 女騎士を追い詰めていたさっきまでの勢いは、明らかに消え失せていた。


「リンさん大丈夫!?」


「す、すまん……。助かった……」


「え、なんで……。私よ、アナタの同級生だった、フニンよ……」


「……?なんだ、知り合いだったのか?」



 なぜ愛しの、同級生で、同じ授業も受け持っていたポールさまが、どうして……。



 彼女はショックを受けていた。


 それはただのショックでは無い。

 真っ暗な穴の中へ突き落とされるような、強いショック。




 だが、彼女のショックは、彼のひと言でさらに大きなモノとなってしまった。


「……えっ?いや、あんまり知らないんだけどこの人……」


 フニンは当惑した。



 えっ、知らない?



 想定外の彼の言葉に、頭の中が真っ白になる。


「……知らないのか?」


「……うそ。ほら、覚えていない?人体魔法学(じんたいまほうがく)のテストの前に、ほら、何回も一緒に勉強した……」


「えっ、ちょっと待ってね。うーん……。確かに一緒に勉強したような……ような……」


「ほら、他にもいっぱいあったでしょ!えっと、占星数学(せんせいすうがく)に、地学(ちがく)に……」


「いや、今ポー……彼が必死で、思い出そうとしているから。そっとしてあげてくれないか?」


 女騎士の言葉に、キッと殺意の()もった視線を向けるフニン。

 彼女もさっきまでの戦いの事もあるので、身震いしとっさにポールの後ろにエスケープした。


「た、頼む、急ぎではないが早めに思い出してくれ。私の命が危ない」



 じっくりと長考し、うーん……うーん、と(うな)る彼。



「ね?いっぱい授業したでしょ?私と一緒にさ」


 彼の返事を()かすフニン。


 彼女は初めて焦っていた。



 勉強だけではない。

 彼とあの魔法学校で出会って一目惚れしてから、一途(いちず)に思い続けてあれだけ助けていたのに。



 心の中で、思い出して、もっと思い出してと念じる彼女。



 だが、導き出した彼の応えは、あまりにも悲しいものだった。


「ご、ごめん……。ボクに勉強を教えてくれたのは、思い出したけれど……。その、フニンさんが、ボクにどんなご用でここに来たの?お仕事のご依頼?」


 彼女は暗闇の底に沈み込んだ。



 自分の事など、まったく意に返していない様子で、しかも『さん』付けって……。

 あれだけ彼と接してきたつもりだったのに……。



「ポー……ポールさん、本当に勉強だけの間柄(あいだがら)なのか?ほら、いろいろあるんじゃないのか?課外授業で、何か思い出深い何かがあったとか……」


「えっ……?いや、本当に勉強教えてもらっただけなんだけど」


「そ、そうか……。でも、ここまでポールさんを思ってくれているようだし。何か理由があって接点が少なかったんじゃないのか?」


 彼女はハッと視線を上げた。

 性悪女(ビッチおんな)にしては、なかなかいい勘をしている、とでも言いたげな目をしながら。



 フニンがあえて接点を多く持たなかった理由。

 それは、自分から出しゃばって、彼の楽しい学園生活を妨げる事を嫌ったからだ。


 彼女はあくまで、ポールさまの明るく豊かな学園生活の一部になりたい。

 その願いだけを抱きながら、彼を陰ながら全面的に支え続けていた。

 むろん勉学だけではない。

 彼に(ひが)んで評判を落とそうとした連中の一掃も行ったし、彼の学園生活に不満や支障が無いようにと講師の方々にも、全面的に「ご協力」してもらった。



「そうだな……。確かに、学校は楽しい思い出がたくさんあったし……。うーんと、あるはずなんだけれど……」


 フニンはウンウンと(うなず)く。



 どうか思い出して、私からは言えないからお願い……!



 そんな気持ちが届くように、懸命に視線を送り続けた。



 そこまでした自分の努力、こんなことで(むく)われないはずがない。



 そう願いながら見つめ続ける。


 だが……。


「あ……。フニンさんゴメン……。やっぱりボク、勉強の事しか思い出せないや……本当に、ゴメン」


「そ、そうなのか……。……ハッ。いや、何か他に思い出してくれないと困るじゃないか。本当に何もないのか」


「え、いや、やっぱり勉強で助けてもらった以外、ボク、フニンさんと接していないよ……」


 フニンは絶望した。

 彼は1人の同級生として、ただの知っている人レベルでしか自分を見ていなかった事に。



 あれだけ尽くしたのに。

 陰ながらだからなのか、自分から主張してアプローチしなかったからなのか。



 ひたむきに彼を思い続けていたのに、目の前でソレが一瞬で崩れ去っていく。

 盲目な愛が通じていない現実を、彼女はガツンと突きつけられてしまった。




 地にへたり込むフニン。

 気がつけば、目尻からは涙が(あふ)れていた。

 声もあげずに、泣いているという意識すら無く、ただただ涙を流していた。




 ただ、そこは彼がポールさまと(した)われる由縁(ゆえん)

 捨てる神あれば、拾う神あり。


「……もしかして、仲間になりたくて来てくれたの?なら、ボクを助けてはくれないか?」


 しかもどちらの神も、同じ神だというから不思議な話しだ。


「えっ……」


 手を差しのべる彼に、言葉が出てこない彼女。



 彼は、私を必要としてくれている……?



 ここまで突き放されて絶望に叩き込まれた状態で、思わず差し出された救いの手。

 彼女には、いったい自分に身に何が起こっているのか、訳が分からなかった。


「そ、そうだ!私たちも、ポー……このお方は大きな仕事をしに行く道中でな、仲間が必要で!ぜひ貴方のような腕前の方の助けが必要でな、うん!」


「ね、フニンさ……いやフニン!ボクに力を貸してくれないか!」


「……私が、必要……」


 涙で(にじ)む目をこすり、もう一度彼女は、ジッと彼の目を見つめた。



 まっすぐと、私を見つめている瞳。

 まじまじと、じっくりじっくり見つめ続けるが、彼は私から視線をそらさなかった。



「……そっか!私が必要……か!」


 フニンも決めた。



 ここまで誘われたんだ、ついて行かない手は無い。



 絶望の淵まで叩きつけられたが、彼も悪気があってそんな仕打ちをした訳ではない。

 むしろ、私に声をかけて仲間にと、誘ってくれたじゃないか。



 どんどんと肯定的な思考が湧き上がり、みるみるうちに彼女に笑顔が戻ってくる。



 ここから、もう一度私とポールさまの旅が始まろうとしている。

 それなら私なら、絶対に盗られない立場についておかないと!彼を支えないと!



 そんな気持ちで、彼女はスッと前を見据(みす)えた。


「よ、良かったな2人とも!じゃ、私はここで離脱するとするか!こ、この冒険には、私の実力では危ないようだからな!」


 女騎士は、彼女がパーティに加わるという事で、慌ててその場を立ち去ろうとする。

 が、彼女の配慮はもうフニンには必要無かった。


「大丈夫ですよ♡もう私はどうすればいいか、考えついていますから♡」


「ちょ、待ってよリンリ……えっ?抜けなくてもいいの?」


「うんっ!ポールさま、大丈夫ですよ♡」



 だ、大丈夫なの……本当に?



 そんな表情で、2人はフニンを見つめた。


「私、記録係(きろくがかり)として、冒険にお(とも)します!もちろん、こんな刃物もここで捨てていきます!」


 そう言って、彼女は満面の笑みを浮かべると、どこか向こうの木に向かって、ヒュンと鎌を投げつけた。


「ひっ……」


「長い冒険には記録係が必要ですからね!それと、ポールさまのお宿やお食事のお世話をする者も必要ですから♡私に、ぜひその大役をお願いします!」


 フニンの屈託(くったく)無き笑顔に、2人も思わず後ずさり。


「え、ええ……。それで、いいの?」


「い、いや、いいと思うぞポー……ポールさん」


 顔を見合わせる2人。

 笑顔の彼女が、ポールの返事を待っていた。


「(さ、逆らったらお互いの命が危なすぎる。私だって、もうコイツと一緒にはいたくないが、こんなところで命は失いたくない!)」


「(ボ、ボクだってそうだよ!……ごめんね、危険な目に合わせちゃって……)」


 ヒソヒソと話す2人。


「どうか、しましたか?」


「ひっ!!い、あ、大歓迎だよ!フニンが同行してくれて、とっても助かるよ!」


「だ、だな!ポールさまの事を全面的に任せられるのは、アナタしかいないからな!」


「……えへへ♡じゃ、私も同行しよっかな!」


「た、助かるよ!……はぁ」


 彼女の笑みに対して、後ろの2人は何とも()えない表情を浮かべていた。






「(や、やっぱり私はここで抜けた方が……)」


「(いやいや!ここでキミが抜けたら、また彼女を怒らせるかもしれないじゃないか!今はソッとしておこうよ、ソッと……)」


 またヒソヒソと話す2人。


「……進まないのですか?ポールさま!」


「あ、いや!じゃ、進もうか!早くここを抜けて町に出ないと!」


 ポールは乾いた笑顔を作り、林を抜けるべく歩みを進めた。




「では、進む前に記録をつけましょうか♡新たなる、冒険の一歩を記しましょう!」


「……う、うん。ありがとう……」


 この日、ポールとその一行に、最強の記録役が新しくお供に加わった。



 -完-


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