異世界は転生者を拒む
俺は死んで此処に居る。
死因はもう忘れたが真っ白い空間にただ一人で佇んでいる。
恐らくは天国か地獄か、
何もない場所が死後の世界とは滑稽だ。
『此処が死の世界と思ったか?』
「誰だ?」
『我は転生を司る…そうだな神と言うべきか』
「その神様が何の用だ?」
『汝はこれから新たな世界へ行ってもらう』
「新たな…世界?」
『魔物が蔓延り平和に危機が訪れている』
「それを救えと言うのか?」
『……そうだ』
「だけど魔物とか生身の人間じゃ太刀打ち出来ないだろう?」
『汝には一つだけ力を与えよう』
「何でもいいのか?」
『我は神だ…汝の望むなら何でも授けよう』
「なら…"無機物の錬金術"とかどうだ?」
『……本当にそれでいいのか?』
「ん?……あぁいいぞ!剣でも銃でも作れるんだろ?」
『確かに作れるだろう…だが…』
「いいから転生させるならさっさとしてくれ!」
『……分かった…汝の武運を祈ろう』
「俺の新しい人生…楽しみだ!」
まぶたを開けると木々からの木漏れ日に照らされた。
起きるとどうやら森の中、
朝か昼かは分からないが太陽は存在するらしい。
服装は…Tシャツと長ズボン…多分生前の格好だ。
「よし…まずは…」
ペチャリ
「うぇ!何だこれ?」
いきなり青色のボールが飛んできて弾けた。
服や身体に塗料のような液体が付着してしまう。
誰の悪戯だ?
『よしよし…獲物発見』
女の声だ。
見上げると木の枝に女が居る。
「お前か…こんな事する奴は?」
ニコニコしながらこちらを見下している。
「そうだよ?他に誰か居る?」
よく見ると緑の髪の先に獣の耳が生えている。
尻尾は細長く猫のような姿だ。
「何の為にこんな事を…」
「決まってるじゃん?」
そう言ってふわりと枝から飛び降りる。
そして僅かに見えた。
「薙刀!?」
咄嗟に避けて地面に転がる。
表情は穏やかだが明らかに敵意…いや殺意を剥き出している。
「あ〜ぁ…一発で死んじゃえば楽だったのに」
「何言ってんだお前!」
神とやらに貰った力を思い出す。
想像した物…ダガーナイフを手から作り出した。
「ふむふむ…"生成"だね」
驚く様子もなく獣の女はゆっくりと俺に近づいてくる。
「く…来るな!」
間合いに入ったのを見てナイフを振り下ろし、
「その程度の能力じゃあ…勝てないよ?」
手首に強い痛みが走りナイフを落としてしまう。
「なんだ…何をした!?」
「何って……手刀だけど?」
空いた左手で手首を打ったのか。
距離を離し今度は拳銃を作り出す。
「これならどうだ!」
不慣れな構えだが頭を捉えていた。
迷わず引き金を引く。
「そんな玩具で本当に殺す気?」
いつの間にか構えている薙刀で銃弾を弾かれた。
「何なんだクソ!」
連射し弾を撃ち尽くす。
しかし女は欠伸をしながらその全てを斬り落としてしまった。
「ねぇ…そろそろ殺していい?」
「ふざけるな!こんな所で死んでたまるか!」
踵を返し俺は速く動ける物を想像する。
次の瞬間にはロードバイクを作り出していた。
「あばよ!」
全速力で俺はペダルを漕ぐ。
あっという間に女との距離は開き姿は見えなくなっていた。
「よし…これなら…」
森の中を疾走しながら次の策を考える。
とにかく街を探して助けを乞うべきだ。
人殺しの女に追われたと言えば必ず匿ってくれる筈。
「何なんだよこの世界は…ぁ」
自転車がフワリと浮き直後に地面と激突した。
派手に転び土だらけになる。
「今度は何だ…あ!?」
女の持っていた薙刀がロードバイクの車輪を突き刺している。
しかも向きからして"前方から"だ。
「遅いよ」
振り返ると女がニコニコしていた。
「なんで…確かに撒いたはずなのに…」
「あ〜最初にぶつけたマジックペイントはね〜獲物の位置を追跡できるんだよ?」
転生して直後のアレはペイントボールだったのか。
「鬱陶しいからその能力封じるね?」
女が目に見えない速度で何かを俺の胸に、
「う…ぐあ!」
強烈な痛みに声を上げてしまう。
反撃とばかりに銃を、
「な…なんで…何で銃が出てこない!?」
「転生封じの小刀…この世界では常識だよ?」
なんでそんな物が普通なのか理解できない。
胸に刺さったナイフを抜こうとしたが、
女はそれより速く足で俺を踏みつけた。
「うぎゃああ!」
「うるさいなぁ…森の動物が逃げちゃうでしょ?」
薙刀を手に女は構える。
「お願いだ…助けて…」
「転生者ってそうやっていっつもいっつも助けを乞うんだよねぇ」
「なんで…こんな事を…」
「聞きたがりの煩い奴だなぁ…」
まるで話が通じない。
どうしてこんな目に。
「さっさと死んじゃえ」
「やめ」
その瞬間、俺の意識は無くなった。
この世界は魔物と魔法によって栄えた。
均衡は他者が見るより穏やかで平和。
しかしそれを異質と唱え魔を排除しようと神は企んだ。
ある世界から不遇の死を遂げた者に力を与えこの世界に転生し魔物を討とうと。
外から訪れた異常な力に世界は転生者の抹殺を謀った。
転生者を討った者には報酬が支払われる、
この世界が新たに作ったルールだ。
そして転生者のみを討伐する"転生狩り"が世界各地に現れるようになった。
ある者は転生地点を"指定"して転生者を一瞬で仕留め、
ある者は魔物と結託し数を以って蹂躙、
転生者を仕留める為の道具や魔法も続々と作り出された。
「やっほ〜ただいま〜」
獣人の女は森の中に佇む家屋に帰還した。
背には先程討ち殺した転生者の首と身体。
「おかえりなさい首尾はどうでした?」
ローブを纏った少年が主人の帰宅を喜ぶ。
「よゆ〜よゆ〜"生成"の転生者だからザコだったよ〜」
「そうですか…鑑定を行いますので首をこちらに」
「はいはーい」
机の上に生首をどんと置く女。
身体は既に焼却の窯へ入れられ何も残らない。
少年が転生者の首筋に付けられた紋章に魔力の炎を当てる。
肌が焼きただれるも紋章はくっきりと残っていた。
「……確かにこれは転生者ですね」
液体の入った瓶へ首を入れる。
この後に街へ出かけ転生者の首を報酬と交換するのだ。
「やっぱ転生封じの小刀は最強だねぇ」
「いえいえそんな事ありませんよ」
人間を殺した後とは思えない和気藹々な雰囲気。
しかしこれがこの世界の日常だ。
「今夜はお肉が食べたいな〜」
「もう…あんまり贅沢するとまた金欠になっちゃいますよ?」
異世界は転生者を拒む 完
自分なりの異世界転生物を書いたら、こんな捻くれた作品になりました。
サクッと読み切りです。