屋敷改造計画
ダリスからの返事をもらった次の日にはアリアはマーサとともに王都へ買い物へと出かけた。普段食材などは直接屋敷に届けられているので、王都への買い物は新鮮だった。
「マーサ達のおかげでとても有意義な時間だったわ」
「それはようございました。アリア様はご自分のものは何もかっていらっしゃらなかったですが、よろしかったのですか。」
「私は別にいいわ。必要なものはほとんど実家から持ってきたし、本もまだ読んでいないものが数冊あるから。それより早く屋敷に帰って屋敷改造計画を実行しなくてはね」
「そうですわね。アリア様はなんだか楽しそうですね。」
「そうかしら。ここにきてから今まで体験したことない出来事がたくさんあるからかもしれないわ…」
今まで地味な生活を好んできたアリアにしてはここ最近の行動は大胆なものだ。家族の期待に応えたいという気持ちが行動に移させているのかもしれない。
結果として、アリアの屋敷改造計画は上手くいったといえる。殺風景だった屋敷の内装は決して派手過ぎず落ち着きがある雰囲気を醸し出している。カーテンなども穏やかな色に取り換え、玄関には裏の森に咲く花を飾った。ほんの少しの変化だがアリアは心が温かくなっていく気がした。
「ねえマーサ。カーテンの生地が余ったのだけれど、何か別のものに使えまわせないかしら?」
「それならば、クッションなどはいかがでしょう。刺繍なんかをしてみるとより素敵かと。」
「まあ。それは素敵ね。私にもできるかしら。」
「もちろんですわ。このマーサが責任をもってお教えします。」
二人は本当の親子のように笑いあった。この2週間近くで二人との心の距離はだいぶ近いづいてるのだろう。
屋敷改造計画を終えた日の晩。マーサ達が帰り、いつものようにアリアは一人で夕食を取ろうと準備していた。すると、突然玄関が開く音が聞こえた。誰かが屋敷に入ってきたらしい。
『こんな時間に一体誰が…マーサ達ならいつも裏口からくるのに…もしかして、強盗!?』
普段、誰も客など訪れるはずない屋敷しかも、日も沈んだこの時間に何も言わずに訪れる人物だ。『絶対不審者に違いない。』アリアはそう直感した。震える体をなんとか落ち着かせ明かりを消し、とりあえず手元にあった麺棒を構えてそうっと食堂の死角に隠れた。どうやら例の不審者は一人のようだ。ゆっくりと食堂に入ってくる足音がする。
『どうしよう!こっちに来る…』
心臓の音が尋常ではないくらい大きく鳴り、変な汗がでてきている。この時、アリアにもう少し冷静な判断力があればこれから起きる不幸を回避できたはずだが、もはや彼女の頭の中はパニック状態であり、冷静さの欠片もなかった。
『もうこうなったらやるしかない…!!』
アリアは渾身の勇気を振り絞り後ろから強盗に向かって麺棒を振り下ろした。
「おい、こんな暗いところでなにをっ…」
強盗が振り向きざまに何かを言っていた気がするがアリアには関係ない。
「えいっ!くらえ強盗!!」
ドスっという鈍い音と共に相手がうなるのが聞こえた。
「やった。やったわ!!」どうやら相手は不意を突かれ、立ち上がれないらしい。
『今のうちにこのことを誰かに使えなくては!』アリアは急い誰かを呼びに行くため、部屋の明かりをつけた。しかし、明かりがともった部屋で彼女が目にしたのは食堂で伸びている夫ダリスの姿だった。
「えっ!うそダリス様なんで!?」
『やってしまった…』すべてを理解したアリアはサーと顔から血の気が引いていくのを感じた。