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ダリスという人物

ダリス目線のお話です

ダリス・インフィードは昼間に届いた「妻」からの手紙を眺めていた。妻といってもほとんど形式だけの夫婦だ。顔を合わせたのも数えるほどしかなく、正直顔もぼんやりとしか思い出せない。屋敷にはほとんど帰らないため彼女がどのように過ごしているかも知らない。なんとも薄情な人間だと言われればそれまでだと思う。ただでさえ人と接するのが嫌いなダリスは女の扱いが一番苦手だ。勝手に近づいてきたと思えば、急に「優しくない」などといって喚き散らしたり泣き喚いたりして勝手にいなくなる。なんともめんどくさい存在それが彼のなかの女であった。




ダリスは子供のころ王国の中でも僻地にちかい森の中で母と木こりを営む母方の祖父母と生活していた。父親の顔は知らない。母はダリスが8歳になるころに病気で亡くなった。もともと体の弱い人だったらしい。寂しかったが、祖父母のおかげもありダリスは幸せだったと思う。しかし、母親が死んでから1年ほどしてダリスの身の回りではおかしなことが起き始めた。気が付いたら食器が宙に浮き、目の前からものが急に消える。台所の水が急に吹き出すなどなど…彼が怒ったり泣いたり喜んだり気持ちに大きな変化があると決まって何かが起きた。祖父母は優しかったがこの不思議な出来事が続くにつれてダリスへの接し方が少しずつ腫物を触るようになっていった。ダリス自身もどうにかしたいがどうすればよいのかわからない。元々森の深くで生活しているため、家族以外の人間とはほとんどかかわりがなく相談もできない。彼は誰にも理解してもらえず孤独を深めていった。そうして孤独を感じれば感じるほど彼は自分の心を押し殺すようになっていった。それからしばらくして心労がたまったせいもしれない…ダリスが12になる前に相次いで祖父母も天国へと旅立った。本当の意味で孤独となり虚無感でいっぱいになっていたころダリスのもとに宮廷魔法使いだという男が訪ねてきた。その男がいうにはこのあたりで数年前から魔力の反応が強く出るようになりその原因を探っていたのだという。魔力や魔法などというものとは縁もなかったダリスは一体何のことを言っているのかわからなかった。しかし、その男はダリスの「瞳」を見て驚きそして彼にいった。

「君を見つけるのが遅くなってしまってすまない。一緒に王都へ来ないかい。君と同じ仲間が王都にはたくさんいる。力もコントロールできるようになる。」

天涯孤独の身となったダリスには選択の余地などなかった。そうして紅の瞳をもつ魔法使いダリスは誕生した。



結論から言えばあの迎えに来た男が言うことの半分はあっていたが、半分は嘘であったといえる。魔法使いが通う学園へと預けられることとなりダリスは新しい「仲間」に内心期待していた。この孤独を理解しあえる存在ができると。しかし、その淡い期待は簡単に打ち砕かれる。貴族が大半をしめる「魔法使い」の中で平民出身は肩身の狭い存在だった。それに加えダリスは「紅」を瞳に宿している。少ない平民出身のなかで彼ほどの膨大な魔力を持つ存在はいなかった。貴族からは目の敵にされ平民出身からは遠巻きに接される。結局ここでも彼は孤独であった。仕方なくほかにすることもなかったのでダリスは学問にのめり込んだ。おかげで魔力のコントロールは完ぺきにできるようなり、気づけば本来7年かかる学園を4年で卒業していた。

王宮魔法使いになってからも生活は大して変わらなかった。「魔法使い」の社会は一部の貴族が権力を握っている。ダリスは奴らからしたら自分たちの存在を脅かす邪魔な存在なでることは変わらない。その頃にはダリスは周囲を気にすることも気に掛けることもとっくにやめて表情筋も死んでいた。そして、ダリスはさらに魔法の研究にのめりこんであった。そんな生活を4年近く続けていると急に直属の上司であるマイルスから連絡がった。

「君結婚する気はないかい」

女が見たらうっとりしそうな微笑みをマイルスはダリスむけた。

「遂に頭まで沸いたか」

眼の前にいる男にダリスは言い返す。結婚して5年になるというこの男にはしょっちゅう呼び出されるが大体内容は妻とののろ気話か子供の自慢話だ。正直聞いているこっちが胸やけするような話を永遠と聞かされうんざりしている。そんな、上司がいつにも増して訳の分からない話をし始めたのでダリスは本気で頭がおかしくなったと思った。

「またまた、君はずいぶんだね。僕は結婚生活素晴らしさを君に伝えてきたじゃないか。」

あれは素晴らしさを伝えていたのか。ただの一方的に話していただけじゃないか。ダリスは心の中で突っ込みを入れる。

「そんな素晴らしい日々を君にも実感してほしいのだよ。君の後見人としてもね。君の将来が心配なのさ。それに最近周りの動きが思わしくない。君が好き勝手しすぎたせいでもあるんだけどね。」

ダリスは優秀すぎるほど優秀だ。最年少で宮廷魔法使い最高位である「星」を得るのではないかと噂されるくらいに。そのせいで周囲からのやっかみや妨害が最近さらにひどくなっていることは事実だ。正直めんどくさいことこの上ないのだが、貴族界でも歴史が古いマイルスが後見人としてついているお陰か表立った嫌がらせは少ない。

「それと結婚とどういう関係がある」

「もうすぐ、皇太子が4年間の留学から帰国されるだろう。そうなれば、おそらくここにいる奴らは次の王である皇太子に気いられようと躍起になるだろう。邪魔な君を蹴落としてでもね。貴族社会とのツテもない君は上との繋がりが弱い。ただでさえ、微妙な立場の君は更に危うくなる可能性もある。だから、結婚だよ。」

「何勝手に決めてるんだ。」と言いたいところだが、マイルスの言うことには一理ある。ダリスは魔法を読み解き、深めるのが好きだ。このくだらない宮廷魔法使いという仕事についているのも、ここには最高の環境がそろっているからだ。研究には莫大な資金が必要だがここにいればその心配もしなくてすむ。更に魔法を極めるには「星」の称号を得ものだけに与えられる禁断の書庫への入室許可が必要になる。地位などはどうでもいいがダリスはそれが欲しくてここにとどまり研究に勤しんでいる。結局のとこダリスはただの仕事馬鹿なだけなのだ。しかし、今の自分ではどんなに優秀でも上に行くのには障害が多い。彼が上に媚びないのもあるが、平民出身という立場がさらにことをめんどくさいものとしている。目的のためには手段を選んではられない。やはり「貴族」との繋がりを持つために結婚するしかないのか。

「相手はどうする。」

「よくぞ聞いてくれたね!君にピッタリの素敵な女性を探してきたよ。伯爵家の令嬢でね。ちなみに僕のアリスの妹でもあるんだけど。」

マイルスは嬉しそうに話をする。その女と結婚すればマイルスとの関係は更に深いものとなることは間違いない。伯爵家ではほかの貴族よりは弱いかもしれないが、ないよりましだ。

「きっと君も気にいるとおもうんだ。」

「愛だの恋などただの幻想にすぎない。くだらない。」

マイルスの言葉をダリスは一蹴する。『祖父母だって自分の力を見て恐れた。愛なんてくだらないものだ。』

「結婚でもなんでも好きにすればいい。俺はそいつの「立場」を利用するだけだ。」

ダリスはそう言い残し部屋から出ていった。

「そんなことはない。君には幸せになってもらいたいんだ。友人としてもね…」

部屋に残されたマイルスのつぶやきがダリスの耳に伝わることはなかった。





そうして、割り切ってダリスは結婚した。愛や恋などはくだらないが、あのマイルスの妻の妹だということで多少期待していたのかもしれない。しかし、目の前に現れたのはあまりには平凡なむしろ地味な女であった。その上中身は、「愛されなくてもいい」とダリスに告げる風変わりな女だ。自分勝手な理由で結婚して、巻き込んだことにダリスも多少気が引けたのか。だからなのかもしれない。あの女を見ていると妙にイライラして話を遮るように魔法で眠らせた。あとは自分を嫌うなり、ここを出ていくなり好きにすればいい…

そう思っていたのだが、このアリアという女は屋敷での生活を思いのほか満喫しているようだった。屋敷も勝手にすればいいそう告げたはずだが、律義にアリアは屋敷の装飾を変える許可の手紙を送ってきた。『そういえば、あの日以来帰っていなかったか…』そんなことをぼんやり思いながらダリスは返事を書いた。最初から夫婦として破綻している以上、ダリスが「妻」である彼女にしてあげられることは彼女の好きにさせてあげることしかないのだから。



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