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結婚式と初めての夜

その日から間もなくしてアリアとダリスは結婚した。あの出会いから一度もダリスはアリアのもとを訪ねることはなかった。マイルス公爵曰く彼は宮廷魔法使いの中でもひときわ注目される存在であり、多忙であるらしい。おそらく、彼自身がアリアの存在など忘れている可能性が高いとアリアは考えている。

『きっと私が地味だからすでに頭の中から消えてしまったのだわ。次に会ったときまた私だと気づいてもらえるかしら』

長年の地味生活に慣れすぎたアリアは呑気にそんなことを考えていた。



結婚式は本当に簡素にはっきり言えばアリアらしく地味なものであった。参列者も父とマイルス公爵のみで王都の外れにある教会で簡単に済まされた。目の前にいる男は相変わらず無表情で何を考えているかわからなかった。一瞬だけのほんの少しだけしか触れない口づけを交わした後、目が合った時は「俺が何でお前なんかと」とはっきりと目でそう語っていた。初めて彼の考えが読めた気がしてアリアはくすりと笑った。そんなアリアを見てダリスはさらに顔をしかめた。






結婚生活は王都の外れの森の近くにあるダリスの屋敷始まる。もともと彼の住まいだったらしい。

「俺はお前を愛することはない。ただ、貴族との繋がり持てればばだれでもよかった。たまたま、お前は都合がよかっただけだ。期待するな」

部屋につくなり、冷たい声でダリスは言った。

「それは、初めてお会いした時から存じでおります。しかし、こうして神に夫婦であると誓った以上私は妻として精いっぱい務めるだけです。」

この国では結婚は神聖なものであり、相手を見極めよく知った上でするものだ。離縁もそう簡単には認められない。だからこそダリスとアリアの急な結婚話は異例中の異例であった。なぜ、そこまでして結婚を急いだのか。


「ダリス様がこの結婚にも私にも不満があることは承知しております。それでも、少なからず夫婦としてともに過ごしていかなければなりません。そうでしょう??」

アリアは目をぱちぱちさせながらさも当たり前のように言う。

「お前は不満ではないのか」

「そうですね。お屋敷は実家よりも新しく綺麗ですし、近くに自然があふれていてとても気持ちがいいです。私、田舎育ちなのでどうしても人混みは苦手で心配だったので安心しました。これなら時々森にでてピクニックしながら読書もできそうですし。しかも、国からの期待も厚い方が私なんかの夫となってくださりとても感激しております。だから、私はこの結婚に何の不満もございませんわ。」

アリアは一気に言ってのけた。自分に「期待」をよせてくれた父がうれしかった。元々結婚などできないと思っていたから。優しく送り出してくれる家族がうれしかった。マイルス公爵の心遣いがうれしかった。そして、アリアに向けられた期待とやさしさの期待の先には夫となったダリスがいる。自分は陰の存在だ、それに対してこの男は光だ。そんな人とともに過ごせることに何の不満があるのだろう。むしろ、神に感謝しなくてはならない。一生分の運をこの結婚に使ってしまったのだから。

「愛し合いたいだなんてそんなおこがましいことは考えておりません。ただ、私という存在が家族としてこの家にいることを認めてくださればそれでよいのです。」

「………」

アリアの言葉にダリスは何も返さなかった。相変わらず無表情で何を考えているのかわからなかった。しばらくの沈黙の後ダリスはゆっくりと口を開いた

「明日からは俺はこの屋敷にいないものだと思え。お前もここで好きに過ごせばいい」

「…それはどういう…」

そうアリアが言い終わる前にダリスは急にアリアの腕を自分のほうに引き寄せた。よろけた彼女は彼の腕の中に収まる形で抱きかかえられる。

「あっあのっダリス様///」。

今まで父と弟以外の異性とほとんど関わりなかったアリアは恥ずかしさで顔を真っ赤にしている。

「安心しろ。お前には何もしない。ただ夢を見るだけだ。

ふと、顔をあげたアリアが最後に見たのはどこか悲しそうにきらめく「紅の瞳」だった。

『なぜ…あなたはそんなに泣きそうなの?お願い泣かないで』急激な眠気に襲われ、薄れゆく記憶の中でアリアはそう願った。


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