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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

色々短編置き場

白に嫌われ、灰を好み、黒を纏う

作者: 来栖れな

あらすじにも載せましたが、


*少しアウトローな雰囲気があります。

*喫煙描写がありますが、その行為を推奨するものではありません。

*バッドエンドとまではいきませんが、スッキリとしきらない後味あり。


(重要)

あっ、無理だと思ったら、何も言わずに即引き返しましょう。


以上に気をつけて、それでも大丈夫と言う方はお進み下さい!

曇天、

というには重々しい、グレーよりも仄暗い鈍色の雲の覆った空だ。

陽の光を一切遮断した鬱蒼としたそれは、この海岸沿いにのっそりとそびえる工場地にとてもよく似合う。

紛れるのだ。

暗闇に影が溶け込むのと、同じように…


カチッと、安っぽいライターを鳴らし、咥えたタバコへと火を付ける。

味わうように肺へと満たしたそれを少し、湿っぽい外気へと忍ばせてみる。

グレーの似合う景色の中で、その白い煙は存在感もなく空気に溶け、消えていく。

呆気ない。

そんな感想にも満たない、淡白な言葉が頭をよぎる。


華やかな観光地、繁華街として有名なこの土地にも、暗部というものは存在する。

知らないだけ、見ないようにしてるだけ、

でも、確かにここにも日陰者たちの世界は広がっている。


「おい、君!!」


機械音がひしめくこの場で、場違いな声が聞こえてきた。

青いシャツに、紺色のズボン、そして見たことのある金のエンブレムがついた紺の帽子。

警官だとすぐにわかった。

この場にのこのこ1人でいるのが不似合いな年若い男に、思わず首を傾げる。

珍しい。

ここは工場と海とを見渡せる、お気に入りの場所なのだが、今まで人と出くわすことはなかった。

増して、いつもは街の見回りに力を入れている警察官だ。


「どうしました?お巡りさん」


呑気に首を傾げる俺に、男は怒った表情のままつかつかと近づいてきて、俺の手元にあるタバコを取り上げた。


「どうしたじゃないだろう!タバコ!!君、まだ若いだろう!!」


「……………あ゛ぁ、そういうこと…」


男が勘違いしているとすぐに気がついた。

そのことに辟易しながら、低い声を出す俺に、男はまだくどくどと何かを説いている。


「…いいかい?第一、ここは関係者以外立ち入り禁止の場所だ。君のような子供が」


「…俺は、子供じゃないし、ここの関係者だ!」


思いのほか苛立った、ムキになった子供のような声が響いた。

静かになるはずのないこの場に、明らかな空白の時間ができる。


「…いや、子供だろ?」


今までと打って変わり、戸惑った様子で男が俺の姿を上から下へとなぞる。

ダボダボの黒いロングパーカー、それによって半分ほどしか出ていない黒いハーフパンツ、足元はなんの変哲もない黒いスニーカー。

それらから覗く体は細く、お世辞にも筋肉や肉がしっかりついているとは言えない。

むしろ華奢。

150センチあるかないかの上背に、童顔というにはあどけなく見えすぎる顔…

確かに子供と勘違いされてもおかしくない。

が、


「その物分かりの悪いオツムをフル回転させてよく聞け!俺は、大人だ!」


座り込んでいたドラム缶の上から飛び降り、下から男を睨みつける。

俺の勢いに押されたように仰け反った男が、まだ信じられないように複雑な顔をしている。


「……本当に?」


「人を見た目だけで判断するなってママに教わらなかったか?」


俺の皮肉に、男は眉をピクリとヒクつかせたが、それでも考えることを優先させたらしい。

視線をまた上下させ、止まり、それを左右させながら唸る。


「……いや、今時の子は口が回る子が多いし、それに…」


「ガキだったら自分じゃ買えないもん、わざわざ咥えたいとか思わねぇし、ガキがパカスカ吸えるほど最近のタバコは安かねぇよ」


まだグダグダと戯言を言う口を黙らせるようにそう言ってやれば、再び男の視線は左右に揺れる。


「…そうか、…そうか。子供じゃないのか…」


ようやくその凝り固まった思考が理解へと向いたようだ。

男はそう力なく口にすると、一気に脱力したようにふらふらと後退し、俺が元々座っていたドラム缶へと寄りかかった。


「…悪いな。最近どうも少年犯罪の事件が多くて、過敏になってたみたいだ」


男はそう言って帽子を取り、短い髪をかきあげる。

すると、先程までは気がつかなかった目元の濃いくまと、どこかげっそりとした疲れた顔が目についた。

どうやら相当お疲れならしい。


「…アンタ、休まないと死ぬよ」


「はは、こんなおっさんの心配をしてくれるとは。優しいね…」


そう言って、俺の真面目な助言に男は弱々しく笑う。


「…君、名前は?」


「サリエル」


「へ〜、外人さんだったのか。井上 隆也だ。」


いのうえ?

ふと何かが気になり、男の顔をまじまじと見る。


「ん?なんだい?」


「いや………別に」


そこには疲れを滲ませた、まだ歳若い警察官の顔しか写っていない。


「で、なんで君はここに?」


「ここが好きなんだよ。あとは人と待ち合わせ」


「なるほど…なんかわかる気はするな」


男はそう言うと、目の前の景色を噛みしめるように笑った。

他人の言葉を基本的に疑うことのない、素直な質のようだ。


「なんか落ち着くよな。この街にも、こんな色味のない景色があるんだと思うと」


「…アンタ。そんなこと言うって、相当疲れてるぜ?」


「ははっ、自覚はしてるさ。でも、少しでもこの街を、子供にとってより良い街へと変えられたらって頑張ってしまうんだよ」


そんなことを語りながら、男は無意識に自身の左薬指をそっと撫でた。

日に焼けた肌の一部が白くなり、そこにいつもは嵌めているであろうものの存在を知らしめている。


「…来月、子供が生まれるんだよ。そうとなれば俺も、この街の今のあり方は他人事じゃなくなる」


真剣な声音。

にっこりと、力強く笑うその顔と視線が真っ直ぐぶつかった。

その眩しさを羨ましく思いながら、そっと瞼を閉じる。


「…なら、なおさら。身体を大事にしろ。親のアンタに死なれたら、その大事な家族が悲しむぜ」


俺の言葉に、男は一度キョトンと呆気に取られた顔をして、そして困ったように眉を寄せて破顔した。

何が面白いのかクツクツと喉を震わせ、笑いを必死に抑えるように話を続ける。


「っ、そうだな…君の言う通りだ。いや〜、なんか子供に叱られてるみたいで参るね」


「…子供じゃない」


ムッとした表情を返す俺に、男はまだクツクツと笑いながら「ごめん」と謝った。

そこでブーっと、彼のズボンのポケットから携帯端末のバイブ音が聞こえてくる。


「あー…行かないと。ごめんね、邪魔しちゃって。でも話せて楽しかったよ」


素早くその画面を確認した男が渋面を作り、ヘラりとこちらに笑うと別れの挨拶をする。


「休めよ」


「ふふっ、ありがとう」


俺の素っ気ない言葉に男は小さく笑うと、改めてまた小さく手を挙げて去っていった。

その少し猫背気味の疲れた背中を、俺は見えなくなるまでじっと眺めていた…



「サリエル」


タイミングを計ったかのように、女の声が俺を呼ぶ。


「時間は?」


「まだ大丈夫です。あなたが人間とお話ししてるなんて珍しいですね」


そう言った女は、全身真っ黒で揃えたスーツを着て、後頭部で1つにまとめた長い黒髪から覗く、無機質な瞳が俺をじっと見下ろしている。

感情の映らない…仄暗く赤い虹彩の瞳。

俺と同じ、同族を示す瞳。


「死に近いやつじゃなきゃ俺たちを見れない。知ってるだろ?」


「ええ、存じてます。そして、"彼"の場合、もう死が確定している」


女はそう言うと、小脇に抱えていたファイルの1ページを俺の前に差し出した。


井上 隆也。31歳。

揉め事を起こした青年を止めに入った際、誤って刃物で刺され死亡。


簡潔に書かれた書類内容には、先程別れたばかりの男の顔写真がきちんと載せられている。


「だから、大事にしろって言ったのに…」


死亡時間は今から1時間後。

ここから少し離れた繁華街だ。


「…仕事に例外は「わかってるさ。それが俺の仕事」


釘を刺すような女の声を遮り、深いため息と共に歩き出す。

この仕事をし続けて早800年、1つや2つ、こんなことだってある。


「さて、魂を狩りにいきますかっ」



そうして、子供らしくない笑みを浮かべた少年は、灰色に染まった景色から消えていった。


見た目子供なのは、人間として死んだのがそのくらいの歳だったからという設定。

サニエルは彼のコードネームみたいなもので、彼も彼女も、死神です。


実は2本書いた短編をそれぞれ修正しつつ合わせた作品だったりします。笑

修正前はもっとアウトローなのと、もっとグロいのだったので…だいぶマシにはなったけど、どうしてこれ書いたのだろう?

…きっと暗い曇り続きで、思いついてしまった冒頭部が悪い。笑


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