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第2話 1人目のパーティーメンバー

「到着~!」


リーシャに道案内をしてもらい、無事に近くの村に辿り着いた。


【トラッド村】


DFOでも序盤に訪れることになる初期村だ。

初心者などが多く集う。チュートリアルなどをしてくれるNPCも多く存在している。


ゴブリンに殴られて腹が痛い俺はとにかく休みたかった。

こんなときのRPGの定番は宿屋だ。

DFOでも宿屋に泊まればHPは回復するし、状態異常なども治してもらえる。

俺はリーシャのことなど無視して足早に宿屋へ向かうことにした。


「1泊お願いします」


「お客さん、そりゃ無理なお願いだ。あんた、文無しじゃないか」


「えっ?」


「えっ、じゃねえんだよ! とぼけやがって! 出て行け! この貧乏人!」


「貧乏人……? この俺が?」


信じられないことにゴールドがなかったのだ。

俺は宿屋のおっさんにすごい勢いで怒鳴られ、追い出されてしまった。なにも怒鳴ることはないだろう。

ゴールドとはDFOの世界での通貨の名称。

アイテムや装備を買うのにもゴールドは必要だし、宿屋に泊まるのにももちろん必要だ。


「ふざっけんな!」


俺はイライラしていた。

宿屋のドアを蹴り飛ばしてやろうと思ったが髭面の筋肉ムキムキの宿屋の店主を思い出して踏みとどまった。

ゴブリンのせいで腹を負傷しているのに、あのおっさんにまで殴られたら命が危ない。


「絶対ゴブリンより強いだろ、あのおっさん」


宿屋に泊まることすらできない経験などしたこともない。

今の俺はレベルも1、ゴールドもない、装備もない。

当たり前といえば当たり前だ。以前のナイトハルトではない。この世界にいるのは俺自身、30歳無職のナイトハルトなのだ。

俺自身は30年、何の努力もせずにダラダラ生活してきただけ。

レベル1、ゴールド無し、スキル無し、装備無し。

現実で言い換えれば金無し、職歴無し、資格無しといったところだろうか。


DFOの世界でも俺は本当に何の取り柄もない弱者になってしまったようだ。


「クソゲーかよ! 最初に宿屋に泊まれるくらいのゴールドは用意しとけよ。こんなんじゃ新規や初心者はやめるな。開発者は無能か?」


自分が上手くいかなければ、全てゲームシステムと開発、運営のせいにする。

これはオンラインゲームの基本。

リアルでも自分が上手くいかないのは環境や社会のせいにし続けてきた。

これは人生の基本。

俺が悪いとは絶対に認めない。俺のポリシーだ。


「も~、ケガしてるのに1人で行かないでよ~。そんなところでなにしてるの?」


宿屋の前で座り込んでいた俺にリーシャが話しかけてきた。


「……」


俺は沈黙することにした。

話せるわけがない。金がなくて宿に泊まれないなど。

金がないなんて言えば、どうせこのお人好しはまた俺を助けようとするだろう。


「ふ~ん。そういうことね」


何かを察したようにそう言うとリーシャは俺を背負い、宿屋に入った。

リーシャは職業が戦士なだけあって筋力などといったステータスが高い。

無職で装備もなにもしていない俺などあっさり背負った。


「やめろよ、恥ずかしい。おろせ」

「なーにいってるの! もう! お腹が痛くて、満足に歩けもしないじゃない。」

「いらっしゃい! っておまえ。 さっきの文無し野郎じゃねぇか。懲りずに来るとは良い度胸だ、オラ!」

「ひぃっ! すいませんすいません」


こわすぎる。大体このおっさんは本当に宿屋の店主なのか?

なんか顔中傷だらけだし、目力がハンパじゃない。

堅気の商売をしている人間の顔じゃないぞ。


「おじさん、2人分、1泊お願い!」

「お嬢ちゃんが払うのかい? それなら話は別だ。まいど! 2階の部屋、好きなとこ使ってくれ!」


俺はまたしてもこの女に助けられてしまったようだ。


「すまない」


どんなに人間のクズの俺でも自然とでた言葉だった。

助けるメリットなど何もない俺みたいな奴を助けたのだ。

おまけに宿屋代まで出してもらった。


「すまない、じゃないよ。ありがとう、だよ」


リーシャは笑顔で俺の目をみて言った。

俺は言いようもない恥ずかしさで目を逸らした。童貞特有とかでは断じてない。

そもそもだ、なぜ俺みたいなやつを助けたのか、初期村であるトラッド村の周辺をなぜリーシャのようなプレイヤーがうろうろしていたのか。

聞きたいことは山ほどあった。理解の出来ない女だった。


しかし、俺が次に発した言葉は、


「ありがとう」


感謝の言葉だった。

この言葉を使うのは数年ぶり、いやそれ以上かもしれない。

他人に感謝をすることなどなく、感謝をされることもない人生だった。

いつからだろう。俺が人間のことを嫌い、蔑み、バカにするような発言ばかりするようになったのは。

俺だって生まれたときからクズだったわけではないのに……


「なぜ俺みたいなやつを助ける。おまえみたいなプレイヤーにメリットはないだろう」


本心で聞いていた。純粋に疑問だった。


「ん~。誰かを助けるのにメリットとか必要なのかな? 困ってる人、苦しんでいる人がいたら助けたい。それだけじゃダメかな?」


「……え?」


「だ~か~ら~、誰かを助けるのにいちいちメリットとか考えないよ! あとその〝おまえ〟ってやめて。リーシャよ」


理解不能。

他人のことをバカにし続け、自分にメリットがなければ一切行動しない俺には理解できないことだ。


「いつまで俺の部屋にいるんだ。夜も遅い。リーシャも部屋に戻れ」

「何言ってるの? 部屋なんて1部屋しか借りてないわよ、私もここで寝るわ」


――今、この女なんて言った?


「すまない、よく聞こえなかった。もう1度たのむ」

「だから部屋は1つしか借りてないわよ。私だってゴールドたくさんはないもの」

「ええぇえええ!?」


声が裏返ってしまった。

この女、自分でなにを言っているのかわかっているのか。

部屋にベッドは1つしかない。金を出してもらってる以上、俺は床で眠ることにした。


「怪我人がそんなとこで寝ないの!」


リーシャはそう言いながら俺を抱えてベッドまで運んだ。

いい歳したおっさんが年下の女にベッドまで運ばれる。

どこの世界にそんな大胆な女がいるのだ。

しかし……悪くない!!!!!


「じゃ、おやすみなさい」

「あ、あぁ。おやすみ」


……どれくらいの時間が経っただろうか。

眠れるはずがない。自慢じゃないが俺は30年間、まともな女性経験がない。自慢じゃないがな。

手をつないだこともなければキスもしたことはない。ましてやシングルベッドで一緒に寝るなどという経験は皆無だ。

心臓がバクバクする。破裂しそうだ。


「パンデモニウム初挑戦のときでもこんな緊張はしなかったぞ……」


「うぅん」


リーシャが寝返りをうった。よりにもよって俺のほうに。

近い近い近い。息がかかる。

っていうかめちゃくちゃ良いニオイがする。

どうしてこの女はこの状況で眠れるのだ。俺だって男だぞ!?


――チュンチュン


朝がきてしまった。一睡もすることができなかった。

ゴブリンに殴られた腹の痛みは消えていた。

どうやらゲームとして遊んでいた頃のDFOと全く同じらしい。

宿屋にさえ泊まれば体力は全回復するご都合システムは健在だ。


「おはよ! ナイトハルトはこれからどうするの?」

「おはよう。俺はパンデモニウムの攻略を目指す」


俺はパンデモニウムがクリアできないままでいることを引きずっていた。

どうしてもクリアしたい。せっかくまたこうしてDFOの世界に戻れたのだ。

このチャンスを逃すわけがない。いずれ俺は再挑戦してやる。


「パンデモニウムってあのすーーっごく難しいやつ?」

「なんだよ、おかしいか」

「ううん、すごいなぁって。目標をもってる人、私は尊敬する。私にはないから……」

「どうしてDFOをしているんだ?」


オンラインゲームをしていれば倒したいボス、ほしい装備、プレイしている理由は様々だ。

しかし、リーシャからはそれが感じられなかった


「なんでだろうね。惰性……なのかな。仲のいいギルドメンバーと遊んでいた頃が忘れられなくてね」


珍しく暗い顔をしていた。いつも明るく、元気で笑顔のリーシャとは思えん。

自分でいうのもなんだが、かつての俺はトップ層だった。

その俺からみてもリーシャは十分強い。装備、スキルも十分なようにみえた。

ギルドメンバーがなにかしらの理由で引退してしまったのだろう。

オンラインゲームではよくある話だ。


「そうか。良いメンバーに恵まれたんだな」

「うん。……ねぇ。パンデモニウムに挑むにはレベルを上げてゴールドも稼ぐようでしょ?職業だって取得するようじゃない?」

「あぁ、そうだな」


正直、今のままではパンデモニウムなんて夢のまた夢だ。

とにかくまずはレベルをあげて、無職をやめないと。

現実では一度たりとも無職をやめようと思ったことはなかった俺だが、この世界では就職活動に意欲的だ。


「私もついていっていい?」

「俺なら助けはもう必要ない」

「ゴブリンにも勝てないのに?」


この女、うぜぇ!!


「おまえはすでにレベルも装備も十分なように思えるが。なぜだ?」

「したいこと……ないから……目標とかやりたいことみつかるまで」

「勝手にしろ。俺はおまえのことなどしらないからな」

「決まりね! あとおまえじゃない。リーシャよ! ふふっ」


リーシャがニコッと笑った。

なにが嬉しいのか、この女のことはまるでわからないが悪い気分はしない。

半ば強引にリーシャがパーティーに加入することになった。


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