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前編。対策されていた自爆戦法。

「はぁ」

 自宅の机に腰かけるのと同時に、ぼくは溜息をついた。

 

 ぼく、秋野紅葉あきのくれははVRでもリアルでもいじめられっこだ。二日前、週の真ん中水曜日 いつものようにぼっち飯のはずだったぼくは、体調を崩して保健室で寝ていた美少女照山夕日てるやまゆうひさんに出会ったことで、いじめに対して耐え続ける覚悟を決めた。

 

 立ち向かうわけじゃないのがかっこつかないけど、立ち向かうほどの勇気は持てない。持つことができてたら、きっとぼくはいじめられっこになんてなってないんだ。

 

 

「また、自爆かぁ」

 これからぼくはVRサバゲーをプレイする。昔で言うところの対戦型TPSサードパーソンシューティングだけど、バーチャルリアリティが感覚を伴った物になった現代、現実でサバイバルゲームをやるような感覚になるため、VRサバゲーと言う呼び方が浸透した、ってことらしい。

 

 閑話休題。ぼくはいじめっこグループにVRサバゲー上でも付きまとわれている。強制的に同じチームに入れられて、ぼくがやることは爆弾一つ持たされて敵集団に突撃、自爆する。それだけなんだ。

 

 ぼくだって、普通に相手を打って倒すプレイがしてみたいのに、それは一度たりとも許されたことがない。一度言ってみたことはあったけど、最後まで言い切ることができず いじめっこかれらからの総睨みで黙らざるをえなかった。

 

 ぶん殴られなかっただけ俺たちゃ優しいんだ、感謝しろよ

 

 なんてゲラゲラ笑って……っ。

 

 

 だから、ぼくは自爆プレイを強いられ続けている。その回数はプレイの成績にきっちりと記録されている。一チーム十人が最大のこのゲーム、だいたいチームは十人で。

 

 ぼくが自爆こうげきする場合、チームが固まってる開戦直前の状態だから、一度自爆すると10Killが加算される。それと同時にプレイキャラとしてのぼくが死ぬので1Deathが付く。

 

 このゲームの試合は3チームVS3チーム、30人VS30人で行われ、300ある残機を先に0にするか 現実時間で15分の試合時間の時間切れ時に、残機数が多い方が勝利する。Killは相手を倒した数、Deathは倒された数のこと。

 

 日に二試合付き合わされるのが常で、だいたいぼくのチームのKill数は試合毎15、そのうちの10はぼくの自爆こうげき、後は相手チームがバラけるからあまりKill数を稼げない。ぼくはいつもリスポーン つまり復活した後は丸腰。

 

 武器や回復アイテムを装備したいんだけど、装備した状態で出撃しようとすると通信が来るんだ。「てめえみてえな地雷は爆発以外認めねえ。もし守らなかったらリアルでひでえぞ」って。チームの生存時間を延ばすことすらさせてもらえない。だからひっそりと物陰に隠れてやり過ごし続けるのが常だ。

 

 

 貢献するのは自爆一度だけで充分らしい。……くっ。

 

 ガントレット型のツールを両手にはめる。そうしてゲームのアイコンにカーソルを合わせてダブルクリックした。

 

「っ」

 ゲームが立ち上がった瞬間。ぼくの頭にチクリとした痛みが走り、一瞬視界がなくなった。

 

 

「えーっと、今日の出撃ポイントは……」

 ゲーム世界に入ったことを認識したぼくは、メッセージをチェック。いじめっこかれらからの指令所が届いているはずだ。

 

「お、あったあった。ポイント1992、Bチームか」

 テレポート装置の行き先をチェック。よし、ポイントを合わせて、敵味方の戦力を確認。

 

「またか。よく飽きないよなぁ、ほんと」

 チーム毎に、累計のキル デスとそれぞれのプレイヤーのキル デスの数しか表示されてないものの、その数でチームがどの程度の強さなのかはだいたいわかる。Bチームはぼくの奇襲自爆こうげきのおかげで、累計Killがすごい数になっている。

 

 Aチーム Cチームはたぶん初心者の中堅辺りの感じかな?

 

 それに引き換え相手側の、D E Fチームは一番多いEチームでさえ、累計キル30 デスが250ある。明らかに初心者の初心者だ。

 

 でもその中で一人、Kill20 Death45、つまり飛び抜けた実力者が混じっている。

 

 

 いじめっこたちは、いわゆる『初心者狩り』をする。ゲームを始めたばっかりの人を明らかに格上であるプレイヤーが、問答無用で全力で倒す。そして初心者さんの心を折る。簡単に言えばそういうプレイ方法だ。

 

 いじめっこは、なにをやってもいじめっこ……ってことなのかなぁ?

 

 

「気は乗らないけど、しょうがない」

 テレポートの確認画面のYesをタッチする。すると一瞬の光がパチっとまたたいて、ぼくは思わず目を閉じた。

 

 目を開けると、景色がビル街の広場に一変していた。

「おうきたな地雷。今日も派手にドカンと頼むぜ クックック」

 絵に描いたと言うか漫画に描いたようなガラの悪さで、いじめっこたちがニヤニヤとぼくを見ている。

 

「ターゲットはどのチームですか?」

 いやいや、と言うことをおくびにも出さずぼくは聞く。おくびに出したら殴られるから。

 

「一番成績がいいEチームだ。開幕と同時にいつもの奴、な」

「わかりました」

 努めて感情少なく、抑揚も少なくぼくは答えた。なんか、全体的にざわざわしてる気がするな……気のせいか?

 

 いや、そもそもぼく。周りなんて気にできる余裕、なかったよな?

 ……どうしたんだろう?

 

 

 試合開始は十秒前からカウントダウンの音が戦場に響く。そのカウントが始まった。この間でも好きに動くことはできる、ただ攻撃できるのはカウントが0になって、試合開始の音が鳴りやんでから。

 

 5。4。3。2。1。

「来る」

 試合開始のブザーが鳴った。それとほぼ同時にぼくは駆け出す。どうせ自爆するだけなんだ、正面から打たれようが相手がうろたえてようが関係ない。

 

 でも、今回はいつもと違った。

 

「えっ?」

 まったく予想外の動きを相手がしたんだ。

 

「うわっ!」

 相手の中のガスマスクをした一人がぼくをめがけてタックルして来た。走り出してしまったぼくは、止まることなんてできなく そのタックルを受けて尻もちをついてしまった。

 

 

 カランカラン、爆弾が地面に転がる。まずい、失敗しちゃいけないのにっ!

 

 

「もらいっ」

「あっ!」

 高い、まるで女子のようなガスマスク越しの声。その声のぬしは、ぼくの爆弾を持ってぼくの陣地に走り込んでしまう。

 

 このゲームそのものに陣地なんて物はないけど、チームで固まってる状態をぼくは陣地って呼んでるんだ。

 

「まって!」

 まるでラグビーのトライでもするように走った相手を、むりに体をねじって目でおいながら声を出した。そのせいで声がつまったようになってしまって、とても止められるような音量にならなかった。

 

「まずい。このままじゃフィックスがEチームに付くっ!」

 

 ーー フィックス。このゲーム、チームの持ち物は攻撃可能な状態になるまでどのチームの物でもなくて、だから他チームの武器を奪える。フィックスは、攻撃可能になった後の誤射防止のためのシステムなんだ。 ーー

 

 なんとかして止めないといけない。言いつけを守らなかっただけでリアルでどうなるかわからないのに、チームの武器でチームまとめて倒されたなんてことになったら殺される!

 

「やらせるわけには……」

 這って自陣に戻ろうと動く。匍匐前進状態、でもすぐ立ち上がって走る。

 幸い後ろから狙われてない。狙われる時と狙われるのの解除の時に音がするから、その点ゲリラ的に倒されることが少ないのが救い。

 

「うわ、間に合わない!」

 もうガスマスクさんはBチームの陣地のすぐそばまで行っていた。一斉に武器を構えるいじめっこたち。殺られる前に殺るつもりなんだろう。

 

 ぼくなら逃げることを考えるけど、そうしない辺りは相手をなめてかかってるんだろうな。ガスマスクさんは、明らかにぼくのやらされてる戦法を知ってる動きだった。

 

 そうじゃなかったらとっさにぼくの動きを止めようなんて、それも唯一の武器を手放させる形で止めようなんて思えないはずだ。初心者だらけのEチームじゃ。

 

「こないで、自爆王!」

「ーーえ?」

 ぼくが呆然としてる間に、爆弾にフィックスがついたみたいで 狙われた時に鳴った音が聞こえた。

 

 その直後、ぼくの見ている目の前でそれは爆ぜ、ガスマスクさんを黒いシルエットに変えるほどの白い閃光が走った。

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