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知恵と義眼と好奇心  作者: 吉城カイト
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第二十話 策士の生み出すラブコメディー


「名前を呼んでみろよ。互いにさ」


 慧悟はニヤニヤしながら言った。


「いや、そんな関係ないでしょ。名前なんて……」


櫟井(いちい)くん」


 僕が慧悟の企みを阻止しようとしたとき、才条さんが僕の名前を呼んだ。


「部長、上の名前じゃなくて下の名前だって。俺のことも下の名前で呼んでるだろ ?それと同じだ」


「え!? いやその……なんていうか」


 才条さんは急に顔を赤くして言葉をつまらせる。


 いや当たり前だろ。出会って数日の異性を下の名前で呼ぶなんて恥ずかしいに決まってる。僕も照れ臭いし……。


 僕は慧悟に近づいて、耳元でささやく。


「何をたくらんでるのさ」


 すると策士もささやき返してくる。


「何って……お前と部長のラブコメに決まってるだろ。初々しい恋愛が見てみたい」


「ラブコメってまだそんなこと言ってるの? 絶対そんなのあり得ないから」


「お前はなくとも、部長はお前に興味を持ってるんだぞ? ワンチャンあるって! ほら行けよ」


 慧悟は僕の背中を強く押して彼女の前に立たせた。


 才条さんはまだ顔を火照らせていて、口を金魚みたいにパクパクしている。そして、


「えっと……あの……その……、雄馬、くん」


 消え入りそうな声で僕を呼んだ。


 言うや否や手で赤い顔を覆い隠してしまう。


 さっきの好奇心旺盛な態度とは裏腹に、ここまで可愛らしい反応をされると逆に困るんだが……。


「いいねぇ部長! さぁ雄馬も言えよ! ここで言わなきゃ男が廃るぞ!」


 ただ慧悟だけが沈黙の二人をおいて盛り上がっている。


 どうしてこんなに盛り上がれるんだ。そんなに面白いのだろうか。たかが名前を呼び合うだけでラブコメに発展するわけがない。


 そう自分に言い聞かせて僕は彼女の名前を呼んだ。


「と、智恵……」


 やっぱり照れ臭い。


 口ごもるようになってしまったから、彼女には聞こえなかっただろうか。


 そう思って目線を合うわせると、なぜか顔を赤くしたまま驚いているかのように見え、嬉しそうにも見える表情をしていた。


 ()()は、はいと小さく頷いてくれたのだった。







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