第十四話 二度目の救助に勇気あれ
「さっさと行って止めて来いよ」
「い、いや。今事故に遭うと決まったわけじゃ……。昨日みたいに別の日だったら、さ」
「そんなこと言って今だったらどうすんだよ!」
彼女がこちらに近づいて来ているというのに、僕らは行くか行かないかでこぜりあっていた。
確かに僕も今すぐ飛び出して引き返すように言いたいけれど、心のどこかで再び失敗して余計なことになるのではないか、という思いがその決断を鈍らせていた。
「ほら! 行けって」
「ちょっと、押さないでよ」
「そんな躊躇してる余裕なんてないだろ!」
「わかってるけどさ……」
押され押し合い。道の端で言い合いなんてしていれば目立つに決まっている。こんなことをしてる場合では……。
「二人して何してるんですか」
「ッつ!?」
彼女はいつの間にか僕らの前に立っていた。というか慧悟に視線がとらわれていてまったく見ていなかった。やばい、なんて説明すべきだろうか……。
「いやー、部長。ちょっとこいつが追いかけたいなんて言うもんだからさぁ」
「ちょっと! 僕のせいにするの!?」
突然慧悟が芝居かかった仕草と声で部長に変な説明をしたせいで、思いっきりツッコんでしまった。
片目を閉じて話を合わせろと合図をしてくるが、どうやっても誤解しか生まれないような……。
当然ながらその言葉を受けて、彼女は腕を組んでご立腹の様子を見せる。
「あんまりしつこいと警察を呼びますからね。変質者さんたち」
顔をプイとそむけて、そのまま僕らの前を通り過ぎていく。
「お、俺まで同類とは……」
なぜか慧悟がショックを受けて、がっくしと肩を落とした。
「今は気にしてる場合じゃないでしょ」
「いや、気にするだろ! ……って、雄馬!」
僕は慧悟の言葉を最後まで聞かずに走り出した。無論彼女の方へ。
だって、聞こえたのだから。
ほんの微かに近づいてくる車の音が。
ここに来るまで走りっぱなしで疲れが蓄積して限界を訴えている足に鞭を打って走り出す。悲鳴を上げているが、それは無理も承知だ。筋肉痛なんて知ったことか。
ああ、この光景は見たことあるな……。
そんなことを思いながら走り出していた。
ふらついて倒れてしまいそうになりながらも、依然足は止めなかった。
彼女の運命を定めてしまった僕が、彼女を諦めるわけにはいかない!!
「待って! トラックが……あぶない!」
「え?」
彼女は僕の声に驚いたのか、踏み出そうとした足を止めた。
ギリギリのところで間に合った僕は彼女の手を自分の方へ引いて、彼女を抱き寄せた。
そして。
コンマ一秒の世界で僕らの前を急速に大型のトラックが通り過ぎていく。
通り過ぎていったのだ。彼女を巻き込むこともなく、何もなかったように。
「へ? ……あ、ありがとうございます」
遅れること数秒。どうやら状況を認識した彼女がお礼を口にした。
「僕の方こそ……」
助けさせてくれて、ありがとう――。
「……?」
意味が分からないといった表情で、彼女は可愛らしく首をひねった。
なぜかその仕草がやけに印象に残ってしまった。