第十二話 僕と義眼と未来創造
探求部で思いがけない再会を果たした彼女が驚いて叫んだ。
「どうして変質者さんがここにいるんですっ!?」
「あ、いや、君を捜して……」
「あれ以上の性の知識を求めるんですかっ!? わ、私も多少の興味はありますが、知らない他人には教わりたくありません! それにしても慧悟くんが連れてきた人が本当にあなたなんですか?」
彼女は一気に喋り続けて終わったかと思うと、肩で息をしていた。まるで威嚇する猫を思わせる。
「ちょっと落ち着けって部長。てか二人は知り合いだったのか?」
見かねた慧悟が僕と彼女の間に入ろうとした。
「いえ、昨日の帰り道にいきなり襲われたんです。それが今日も……」
え!? というかやっぱり襲われた認定だったのか。
「いや違うんだよ! あれには続きがあって。トラックが……」
何か違う方向へ話が流れていくのを感じ、慌てて声をかけた。
「続き!? あれ以上はダメですよっ!!」
彼女は僕が一歩近づいたのを警戒してか、バッと立ち上がるとそのまま僕らの横を通り抜けて部室を出て行ってしまった。
「なぁまさかと思って聞くが、例の女の子が部長じゃないだろうな」
「そのまさかだね……」
まじかー、と慧悟は上を向いて呟いた。
「でもまあ見つかってよかったじゃねぇか。今日は仕切り直そうぜ、明日にでも」
確かに見つかってよかったと考えるべきか。それにしてもこんなに簡単に見つかるとは思わなかった。
あの時は偶然出会ったものだと思っていたけれど、おそらくこの部室から帰るときに僕とすれ違ったのだろうか。
そんなことを考えていた時だった。
「………ッ!!?」
右目が疼く。
突然周りの景色が真っ黒になり、真ん中に誰かを映し出したスクリーンが現れた。
この感覚はっ!?
『赤の世界樹』という義眼は所有者の意図に関わらず、断片的な映像を映し出す。
映っているのは例の女の子だった。今し方部屋を出て行った彼女である。
昨日押し倒してしまった路地を曲がろうとする彼女が視える。
前に一度視た光景と同じように、高速でトラックが近づいてきて彼女と衝突した。
「ぁはっ!! ………はあはぁ」
何度視ても慣れそうにないなこの感覚は。いや、慣れてしまった自分を想像するのが怖い。
「雄馬」
慧悟が僕の名前を呼んで、僕を支えて立ち上がらせようとする。
どうやら自分でも気づかないうちに倒れてしまっていたらしい。
「これはまずいかもしれない」
僕が彼女と会ってしまったせいで、彼女が逃げて、その先で事故に遭ってしまうという未来を創ってしまったならば、それは僕のせいだ。
そんな未来は絶対にあってはいけない。
僕には視てしまった以上、その未来を変えなくてはならない義務があるわけだ。
絶対に助けてみせる!
「すぐに追いかけんぞ!」
「うん!」
僕と慧悟は鞄を放り出すと、彼女を追うために走り出した。