第九話 僕と彼女と変質者
現状を説明しよう。というか説明させてください。
迫り来る車から彼女を救おうとするが、それは僕の勘違いで車は過ぎ去ってしまった。
だが駆け寄っていた僕は急に止まれず、彼女を巻き込んで倒れてしまう。
『車は急には止まれない』とよく聞くが、それは人間も同じなのだ。
そしてその倒れた拍子に彼女の胸を触ってしまった。
二人ともその現状を認識する。(←今ココ)
さてこの後どうなるか? 答えは決まっている。
「な、な、なにするんですかっ!」
彼女はそう叫んで、僕の顔めがけて平手打ちを放った。当然の如く、僕はその攻撃を受けて吹っ飛んだ。
当たり前の話だ。振り返ってみれば、見ず知らずの他人がいきなり自分に覆い被さってきたのだから。
それも相手が男とくれば、痴漢に襲われたと思ってもしかたがないだろう。
それは昨今の女子高生として当たり前の反応なはず、なんだけど………。
「もうっ! さっき買った鯛焼きが台無しじゃないですか!」
どうやら彼女が気にしていたのは持っていた鯛焼きの方だった。
「あ、あれ……?」
てっきり変態だとか、痴漢だとかと罵られるかと思っていたのだけど、彼女にとって一番の問題だったのは客観的に見て襲われたという事実ではなく、彼女が先程買った食べ物が道路に散らばってしまったことだった。
「あぁ……、せっかくインド風もっちり桜色苺入りの抹茶鯛焼きが見つかったのに……」
「結局それ何味なんだ……」
というかおいしくなさそう。
「本日日本に上陸したと言われる伝説の鯛焼きなんですよ !それをどれだけ探し回ったと思って……。って変質者さんには説明したくありません!」
あの買い食いを転々としていたのはこれだったのか。
それに今更ながら変質者の烙印を押されたようだった。全然嬉しくないのだけど。
「もうつけてこないでくださいね!」
そう言うと、彼女は走って角を曲がって行った。