恋愛短編集
今日は珍しく定時上がりで家に帰れることになった。
冬にしては、なんとなく暖かくて頭が痛くなった。
そんな日。
「もう、会わないでください。」
彼の親友が忠告してきた。
わざわざ私の会社にまで来て。
それくらい大切なんだな、傷ついて欲しくないんだな、って呑気に思った。
「会えませんよ、もう」
自嘲気味に笑って、親友さんに安心してください。って応えた。
親友さんは何も知らない。
私が昨日、彼にふられたってこと。
本当は別の女の人がいたってこと。
彼は今まで見たことがないような悪魔のような笑い方をするってことも。
昨日の夜、泣きたくて泣きたくて堪らなかった。
何にも信じられなくて泣きたかった。
明日の天気を告げるお天気お姉さんのことも。
近所の世間話してる仲の良いおばさんも。
久しぶりに電話をくれた、中学の先輩も。
全部、ぷっつり信じられなくなった。
信じられるものができたら、自然と泣けるのかな。
こんなに心の中を真っ黒なものでぐちゃぐちゃにしなくても、するって涙が出てくるのかな。
必死に顔を作って周りに合わせなくても、笑いたいときに笑えるのかな。
ふと、ドアのほうを見た。
何時もバタバタズカズカ騒がしく入ってくるドアは、もう外から開くことはない。
これからドアを開けるには、自分で開けなくちゃ。
信じてたものを失ったら、私はどうすればいい?
返事してよ、ねえ