5 書庫
あれから数日がたち、私は家の書庫に来ました。
あの後ベッドから出ることは許されたのですが、私の行動範囲は、この屋敷の中のみ。さらに、行動するときもいつ倒れるかわからないからと言って、イリスかリリアのうちどちらかを傍で付き添わせないといけないという・・・。どれだけ過保護なことやら。
今はリリアが私の傍で、絵本を読んでくれている。
リリスも、どうやら頭はいいみたいで、勉強を教えてくれるようになったのだけど、たまには普通に子供の様なこともしないと、お母様になんだか申し訳なくて。
まあ、ついでに文字を覚えるという意味もあるのだけれど。
前世の記憶を思い出す前ならば、絵本の内容もしっかりと聞いていたのですが、今となっては、そっちが本命になっています。
「――お姫様は、その後、王子様と幸せに暮らしました。おしまい」
「ありがとう、リリア。面白かったわ」
うそだ。そこまで、絵本の内容を聞いているわけではない。ただ、絵本に書かれた文字の方に興味があるだけ。しかし、
「やっぱり、リリスは本を読むのが上手よね」
「そんなことはありません。普通ですよ、普通」
リリアはこんなことを言っているのだけど、本朗読することに関しては、リリア以上にうまいと感じる人はいない。初めてリリアに本を読んでもらった時には、絵本に釘付けになってしまったもの。それは、前世の記憶を思い出した今でも同じ。
「さてと、少しお茶にしましょうか」
「分かりました。少しお待ちください」
リリアは、部屋を出て行った。
私の場合なのだけれど、私の給仕をするのは、イリスかリリアだけ。だから、二人以外の入れたお茶を飲んだことがないのよ。
「ふうー。リリスは行ってしまったし、何か面白い本がないか探してみましょうか」
ここ数日で、多少文字が読めるようになっていたので、私は、書庫の中の本を見て回りました。
さすがに、絵本だけでは満足できないのよ。
私は、本の題名を指で確認しながら、歩き始める。さすがに、貴族の中で一番位の高い公爵家だけあって、古今東西、さまざまな書物がある。それもかなりの数。
けれども、集めるだけ集めて、後は放置されている感じがあるのよね。だってきちんと整理整頓されているとは、言い難い状態ですもの。
例えば、歴史書が集まっている中に、絵本が混ざっていたりするのよ。もう少し整理整頓しようよ、と突っ込みたくなる。
まあ、私が言えるようなことではないが。前世で、借りていたマンションのリビングは、かろうじて足の踏み場があるぐらいで、唯一きれいに片づけられていたのは、仕事部屋だけ。
あ、ちなみに私前世では、大企業の経理の仕事を担当する傍ら、卒業した大学の特別講師として、講義をしていました。なぜ、特別講師なんてしていたかって、――そりゃあ、もちろん私の成績がずば抜けて優秀だったからですよ。
それはともかく、
ちょっと面白そうな本を見付けました。
『アクシス領年間決済』
どうやら、昔の領の帳簿みたいです。
私、経済学が、大、大、大好きなのでこういった帳簿とかに、興味がそそられるのですよ。
とりあえず、取りたいです。
しかし、その本は、棚の三段目にあって、私が背伸びして、届くか届かないかぐらいです。
ちなみに、私の身長は、同年代と同じか少し高いぐらいだそうです。
「うーん。うーん」
「ユリシア様。どこですか」
丁度、リリアが戻ってきました。が、私も丁度本をつかんだ時だったので、
「うわ!」
びっくりして、そのまま、お尻からこけてしまいました。ま、本は取れたけど。
「ユリシア様、大丈夫ですか」
私の声に反応して、こちらに声をかけてきました。
「ええ、大丈夫よ」
少しお尻がひりひりするぐらいで、時に何ともありません。それよりも
「リリア、面白そうな本があったの」
私は、リリアに取った本を見せました。そのせいで、私は気が付きませんでした。
「そのようなことは、いいです。ですが、お嬢様一体何をされていたのですか」
リリアの様子がなんだか変です。
「えっと、ただ本を取ろうとして」
「それでしたら、言っていただけたら取りました」
「で、でも」
「でも、ではありません。
いいですか。まだ、ユリシア様は病み上がりなのです。無理をしてはいけません」
リリアがお怒りモードです。なんだか、とっても怖いです。ていうか、いつもおっとりしているリリアが怖いということを初めて知りました。
「はい、分かりました」
「もう、無理はしないと約束できますか」
「えっと、はい。一応」
いやだって、何かまた取りたいと思うじゃない、だからまあ一応ってことで。
「一応ではだめです。絶対です」
「はーい。分かりました」
「――『はい』は、短く。」
ホント、リリアどうしたの。怖すぎるのですけど・・・。
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次の更新は、2月15日です。




