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21 ユリシアとバルドル 2

「ふーん。そうなんだ。じゃあ、戦いになる前に、ボスマン帝国に併合されたらどう?」

「それはできない」

「でも、もう負けるのは確定しているようなものじゃない」


 自分で、数万の軍で来られたら負けると言ったじゃなない。それじゃあ、出来るだけ有利に話を進めるために、先に自分たちから言い出したらいいじゃない。


「だが、だめなんだ。あの帝国だけは」

「何がそんなにだめなのよ。先に話を持っていけば、多少交渉が有利に出来るんじゃないの」

「違う。あの国は、交渉以前の問題だ。というより、あの国自体がだめなんだ。

 あの国は、本国さえ潤えばそれでいい。だから、属領には搾取するだけで、他は何もしないんだ。そんな国に併合されたら、民たちが苦しむのは、目に見えている。それでは、殿下の目指した理想は、途絶えてしまうだろう。それは、絶対にあってはならないんだ」


 彼の言っていることは、わからなくもない。確かに、そんな国に併合されたら、民たちは苦しむことになるだろう。


「でも、あなたたちに援軍をして送ってくれる国何てないんじゃないの」

「ああ、そうなんだ。だから、どうすればいいのか悩んでいるんだ」


 これは、詰んだかもね。ボスマン帝国と彼の国が戦争になったら、彼の国は小国で軍事力は少ないから、確実に負けるでしょうね。交渉を行うにしても、そもそもボスマン帝国に併合されることが、論外なわけだし。

  もし、援軍を頼むとしたら、南のタリア王国ということになるけど、こちらも小国に援軍を送る理由がないから多分送らないし。……て、待てよ、


「ねえ、バルドル。あなたたちは、別にどこかの国に併合されるのが嫌なわけじゃないのよね」

「ああ、そうだが。ただし、ボスマン帝国以外だがな」

「そう、ならあなたの国がタリア王国の属領になるというのはどう?」

「え!?」

「タリア王国には、あなたたちの国に援軍を送る理由が無いわ。でも、属領になったらそれが理由として出来るから、援軍を頼めるじゃない」

「だが、タリア王国は大国だ。属領になったらボスマン帝国と同じで、何を要求してくるか分かったものじゃない」


 ちょっと、マイナス思考過ぎない。どうして、どの大国もボスマン帝国と同じと考えるのよ。


「大丈夫よ。タリア王国は、ボスマン帝国と違って、圧力をかけてきてないでしょ」

「そうだな」

「つまり、タリア王国はあなたたちの国を狙ってないということよ。今、タリア王国に話しを持っていけば、タリア王国側としては、何もしなくても、土地が増えるの。それだけでも十分に、タリア王国のメリットになる。しかも、あなたたちから先に話を持っていくことで、交渉を有利に進められるようになるじゃない」

「それだけでいいのか。私たちの国は、ボスマン帝国から狙われているのだぞ」

「そんなの今更でしかないわよ。元より、タリア王国の北の国境は、半分以上ボスマン帝国と接していたのよ。そこが少し広がるだけだし、タリア王国とボスマン帝国は、そこまでいい関係ではないしね」


 現タリア王国の国王は、賢王として知られている。宰相であるお父様もそう言っていた。だから、彼の国が属領となることでのメリットとデメリットの判断がしっかり出来るはずなのだ。


「なるほど。……だが、他にも問題はある。私たちの国は、殿下を国王として立てている」

「亡くなった人を」

「ああ、殿下は亡くなった。だが、民たちの支持は、殿下にあるままなんだ。そこて、カグヤという名字を付け、王位は、殿下にあるとした。そして、私や他の都市長は、会議を開いて、殿下の代行者という地位で、国を回すことにしたんだ」

「つまり……」

「殿下以外が、上に立つと、民たちが暴走する可能性がある。せめて、殿下にお子様がおられたら、よかったのだがな」

「それがいないと」

「ああ」


 シャーロット様って、それほどに民の信頼を得たすごい人だったんだ。


「じゃあ、属領ではなく、タリア王国を宗主国として、属国ということにしたら。それか、タリア国王に、自治権をもらってタリア王国の属領になるけど、仕組みは今まで通りでするとか」

「なるほど、そういう案もありか」


 バルドルは、そう言うと私の方を見た。そして何かを少し考えた。


「うん、よし、そうしよう」


 バルドルの中で何か纏まったようだ。


「ところで、君は一体何才なんだ」

「八歳」

「え!?」


 バルドルは驚いた。何よ、その驚き方。何か奇妙な化け物を見たような驚き方しないでくれる。


「ユリシア、君はずっとここにいるのか」

「ううん。三十日ぐらいしたら家に帰ろうと思ってる」

「そうか。……また、明日会えるか」

「うん、いいよ」

「ありがとう。さて、私はそろそろ行くとするよ」

「うん、じゃあね」


 私が頷くと、バルドルは帰って行った。

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