20 ユリシアとバルドル 1
私を乗せて馬が向かった先には、一人の男性がいた。
男性は、なんか変で、私を見たら何故か驚くし、「シャーロット様」と呼んでくるし、いきなり泣きだすし。一体どうしたのだろう。
でも、そのシャーロット様というのがクイナの前の主人の亡エマリス王国第一王女シャーロット・オル・エマリスのことなのは、大体予想できた。
それで、このお花の供えられた石は、なんなんだろう。
「ところでこれは」
「私の大切な方のお墓だ」
彼の大切な方。多分シャーロット様のことなのだろう。というか、
「あなた、誰?」
「あ、自己紹介がまだだったな。私は、バルドル・アドロ。都市同盟カグヤの産業都市ツクヨミの都市長をしている」
「へー」
にしても、カグヤっていうのもツクヨミっていうのも日本に関わりのある名前だよね。何でなんだろう。……ま、いいか。って、あ、そうだ。
「よっこらせ」
私は、馬の背から降りた。今まで、馬に乗りっぱなしで話ししてたし、そろそろ降りた方がいいよね。馬の負担にもなるし。
馬は、私が降りるとその場でしゃがみこんだ。
「で、君、じゃないな。えーと。ユイ……」
「ユリシアだよ」
「そうそう、ユリシア。ユリシアは、何故こんなところにいるんだい?」
「私、この山に住んでいるんだ」
正確には、住もうとしているだけだね。
「え!?」
バルドルの驚いた顔ってなんか面白い。
「住んでるって、どういうことだ。家族はどうしたんだ」
「そのままの意味だし、家族はいるよ。町にだけど」
「捨てられたのか」
あー、確かに、今の話しを聞いただけだと捨てられたとも思うよね。
「違う、違う。まあ、家出?みたいなものだから」
「何故、疑問形」
だって、説明がめんどくさいし、多分信じないと思うから。
山賊に攫われて(自主的に着いていったとも言える)、そいつら倒して、帰るのが嫌だからとそのまま山籠り。はあ、自分でも、自分の行動パターンがわからなくなってきた。ていうか、山賊を倒すっていうところからすでに貴族のそれも公爵家の令嬢がすることじゃないよね。というか、そのあとの山籠りとか論外だし。
閑話休題
「まあ、それはおいといて、シャーロット様って一体どんな人物だったんですか」
クイナの前の主人でもあるシャーロット・オル・エマリス。彼女がどういった人なのか気になるのよね。
「殿下か。殿下は、一言で言えば、民第一だな」
「民第一?」
「そうだ。何をするにも、民のことを第一に考え、行動されていた。というより、私を含め、その地に住む全ての人の幸せをいつもいつも考えておられた」
「それって、難しいことなんじゃあ」
「ああ、でも殿下はやろうとしたんだ。そのために多くのことを学ばれた」
「シャーロット様は、文官として優れていたんですね」
「いいや」
「え!?」
バルドルに否定されて驚いた。それだけの思想があるのなら文官として優れていると思っていたのだけど。
「殿下は、確かに文官としても優れていたけれど、それ以上に武官として優れていた。その剣術の腕前は、周辺諸国まで轟いたいたものだ」
「それは、相当な実力だったよですね」
「ああ、それはそれは強かった。それこそ『銀龍』という異名がつくほどには」
へー、そんなに強かったんだ。
「はあ、殿下なら、今の我が国の状況をどう判断するのだろうか」
「どうかしたの?」
「ああ、今、都市同盟カグヤは、危機的な状況なんだ」
「危機的な状況?」
私は首を傾げた。
「そうだ。ここ最近、ボスマン帝国が我が国に対して、圧力をかけるをかけてきていてな。最悪、あちらは軍を動かしてくる可能性があるのだ。我が国は、なんとか一万ぐらいの軍勢ならば対応できなくともないのだが、数万の軍では、流石にきつくてな」
あの小さな土地で、数千の軍に対応できるというのも十分すごいような気がするのだけれども。
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