2 覚醒
新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。
「うーん」
私はこの日、目を覚ました。ゆっくりと上半身を起こし、寝ぼけてしょぼしょぼする目を手でこすった後、大きく伸びをした。窓の方を見てみるとカテーンによって少し遮られているが、今日はとても天気がいいみたいだ。
「いい朝ね」
もう一度伸びをしてみる。少し体がだるい感じはするが、他はいつも通り。
「そういえば結局、私どうしたのかしら」
私はしっかりと私という存在を理解することができるようになっている。それに不思議なくらいしっかりと体になじんでいる。二人の私がいるという風に感じることもない。だが、記憶はしっかりと立花瑠璃としての記憶、そしてこの世界の私ことユリシア・ティオ・アクシスとしての記憶もある。
「人格は合体して一つになり、記憶はそのままということかしら」
私はとりあえずこの訳のわからない状況を整理してみた。少し立花瑠璃としての記憶の中に、こういう異世界転生系の小説を読んだ記憶があり、自分がそれに当てはまっているのだ、ということを理解した。
で考察・・・訳わからない。
何でこんなことになったのか理由もわからないし、二人の人格が混ざるとか非科学的過ぎて論外でしかない。もしもこの世界に魔法とかいうファンタジーがあるとすれば納得するけど、この世界にそんなものはない。―まあ剣はあるみたい。情勢が不安定みたいだから―
この世界が立花瑠璃から見れば異世界に当たるというのは分かっている。というか認めている。
「あーもー訳が分からないわ」
ついこのむしゃくしゃする気持ちを晴らしたくて、叫んでしまった。すると・・・バタバタと足音を立ててこちらに走ってくる音が聞こえた。そして足音の主は私の部屋の前で立ち止まると、コンコンと扉をノックした。
「失礼します。お嬢様」
「リリアね。入って」
すると、ゆっくり扉が開かれて、メイド服を着た女性が入ってきた。リリアは、私の姿を認めると、
「お嬢様、やっとお目覚めになられたのですね」
と泣き出した。は、あのいきなり泣き出して意味が分からないのですが。何か私したのかしら?
というかリリアが涙を流している姿初めて見るかも。
リリアは、私が三歳のころから、私の侍女を務めてくれていた。しかし私は彼女が泣いている姿を見たことがない。
「おはようリリア。とりあえず、こちらに来てくれないかしら。なぜ泣いているのか聞きたいし」
「え、あ、はい。分かりました」
リリアは服の裾で涙をぬぐうと私がいるベットに近づいてきた。
「ねえ、リリア、私リリアが泣くようなことした」
即答。私、何やったかしら?
「何をやったかしら。私、身に覚えがないのだけど」
「ずっと、寝ておられたのですよ」
「ずっとってどれぐらい」
「十日間です」
「え!! 私、十日も寝ていたの」
「はい」
さすがに驚いた。十日も寝てしまっていたとは思わなかった。確かに、体を起こしたときに少しだるく感じたのだけれども、そこまでとは・・・。
「私も心配しました。お嬢様がまるで死んだように寝ていらっしゃったので。一度、医者にも見ていただいたのですが、ただ寝ているだけだ。少ししたら起きるだろうと言われたので」
死んだように十日も寝ている。それは確かに心配になるわよね。
「ところでお嬢様、どこか体に違和感はございませんか。医者もこれは理由が分からないと言われましたので、もしかしたら体に異状があるかもしれません」
「うーん、どうかしら」
軽く、手をグーパーと動かしてみて、腕も回してみた。
「なんともないわ。起きたときに少しだるさは感じたけれど、その程度のことだから」
「それは、よかったです。ですが医者には見ていただくことにしましょう」
リリアの言う通り、一応医者には見ていただいた方がいいかもしれないわね。何か命に関わるようなことがあるかもしれないし。
「ところで、お母様もとても心配なされていたのではなかったかしら」
「ええ、それはもう。とてもとても心配されておりました。もっと言えば、この屋敷にいる全員がお嬢様のことを心配しておりましたよ」
屋敷、全員。私が屋敷の人から良く愛されていることは分かっていたけど、直接言われると照れくさいわね。
「あ、こうしてはおられません。奥様にお嬢様がお目覚めになられたことをお伝えしなくてわ」
リリアは、そういって私の部屋を出て行ったのだけど、足音が聞こえて・・・何とも言えなかったわ。
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次の投稿は1月15日を予定しています。