19 銀髪の少女
バルドル・アドロ視点です。
私は、バルドル・アドロ。都市同盟カグヤ、その主要三都市のうち産業都市ツクヨミの都市長を務めている。
もともと、都市同盟カグヤは亡エマリス王国の第一王女の直轄領でカグヤ地方と呼ばれていた。それが、殿下の遺言に従いエマリス王国が滅亡した際に独立したのだ。
エマリス王国第一王女、シャーロット・オル・エマリス殿下は優秀な文官であり、武官であった。殿下が領主となったことで以前より発展を続けていたカグヤ地方の発展が加速し、それこそ、小国に負けないぐらいの経済力を手にすることになった。
しかし、それ以上に殿下は、武官としての功績を持っていた。
殿下は、その強さから『銀龍』という異名で呼ばれた。銀というのは、殿下の髪の色であり、龍というのは、エマリス王国最強という意味があった。
そんな殿下は、自身の騎士団を創設した。名前を『銀翼騎士団』。総勢三十人程の騎士団だったが、一人一人が大国の近衛騎士団団長と渡り合うことのできるような実力を持つとも言われていた。
今は、殿下の遺言で、『銀翼傭兵団』として都市同盟カグヤの防衛に力を貸してくれている。
そして、殿下は十年前に国王からの勅命でタリア王国アクシス公爵領に侵攻した際に戦死している。戦死というよりも戦いを終わらせるために自分の命を犠牲にしたと言った方がいいかもしれない。
あの当時、戦が始まろうとした時、王都で国王も含めた王族全員が死亡したと伝えられた。それを聞いた殿下は、国が乱れることを予見され、自分の命と引き換えに戦いを終わらせられたのだ。
そして、殿下は遺言として、独立するようにと残された。その遺言に従って我々は、独立した。
結果的にエマリス王国は滅亡し、ボスマン帝国の支配地域になった。ボスマン帝国に支配されたエマリス王国は、ただただ搾取されるだけの土地となったが、独立した我々は、それを受けることはなかった。さらに、独立に当たり、アクシス公爵領を治めるアクシス公爵家からの介入はなく、逆に支援までしてもらっている。殿下が何かアクシス公爵に働きかけてくださったのだと私は思っている。
そして、独立にあたり一番頭を抱えたのが国王を誰にするかである。その時点で、我々は殿下という旗印の元に集っていたのだが、その殿下がいなくなった。殿下の後を継げるような存在は、いなかったのだ。
そこで、私を含め都市同盟カグヤのある主要三都市の都市長は話し合い、殿下を国の象徴として、シャーロット・オル・カグヤの名前を与え、国王として据え実務は主要三都市の都市長が会議を開いて殿下の名代として行うことになった。幸い、主要三都市の都市長は、それぞれ政治、経済、外交のスペシャリストだったので、国として動き出しても困ることはなかった。
しかし、現在は、少しずつ国力が衰えてきていた。北の大国、ボスマン帝国が圧力をかけてくるようになったのだ。最近は、そのことに対する対策で、頭を悩ませていた。
閑話休題
私は、今墓参りに来ていた。もちろん、殿下のところだ。
殿下は、アクシス公爵領の山中で自害なされた。唯一遺品として殿下の愛剣だけが、アクシス公爵から、こちらに返ってきており、今はその剣は、都市同盟カグヤの王の証として、主人なき玉座に置かれている。
そして、特別に殿下の墓を殿下の亡くなられた場所に作らせてもらったのだ。墓といっても、ただ、石が置いてあるだけで、その下に殿下の亡骸があるわけではない。
私は、石を丁寧に磨き花を供え、手を合わせた。
「もうすぐ十年ですか。殿下が亡くなられてからもうすぐで十年が経ちますよ。十年とはあっという間ですね。こちらは、良くやっております。ですから、殿下は安らかにお眠りください」
私は、殿下に伝えるように呟いた。
「……」
石は、返事をしない。そんなことは、分かっている。
死んだ人は、話さない。そんなことは、分かっている。だけれども、返事をしてもらいたい。そう願う自分がいるのも確かだった。
――と、その時。木々の揺れる音がした。シーンとした空気の中ガサガサと木々が擦れる音がする。私は、瞬間的に、音のする方を向いた。
私の向いたその場所から出てきたのは、一匹の灰色の馬と一人の少女だった。
私は、驚いた。
あまりにも、馬にまたがるその少女が殿下に似ていたからだ。
顔だちは、殿下が少し幼くなったような感じで、体つきは、細身だが、弱々しい感じではない。そして、何よりも、その綺麗な銀髪だ。
殿下も綺麗な銀髪の持ち主だった。
私は、その少女が殿下の生まれ変わりではないかと思った。
「シャーロット様」
私は、知らず知らずのうちに口に出していた。
「?」
銀髪の少女は、首を傾げた。
「私は、シャーロットという名前ではないわ。私は、ユリシアと言うの」
彼女は、口を開いた。
私は、理解した。彼女は、殿下ではない。
私は、いつの間にか涙を流していた。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
私は、服の袖で涙を拭いた。
「ところで、これは?」
彼女は、殿下の墓を指さした。
「私の大切な方のお墓だ」
私はそう答えた。
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