17 ……として
※イリス視点です。
私の名はイリス。アクシス公爵家長女、ユリシアの乳母を昔勤め、今は彼女の侍女という立場に収まっています。
私にとってユリシアとは、大切な存在です。自分の夫と同等かそれ以上に。たとえ、彼女が世界を敵に回したとしても私はあの子味方をするでしょう。
だから、彼女が十日も眠り続けた時は、他の誰よりも心配していました。でも、元気に目覚めてくれた時は、誰よりも早く彼女に抱きついてあげたかった。
しかし不思議なことに、あの時を境に人が変わったようになったのよ。もともと他の人のことを第一に考えるいい子ではあったのだけれど、あの時からは、勉強に一生懸命に取り組むようになった。私としては、とても嬉しいことだったのだけど。
でも、少しやりすぎな気もしたから、息抜きとして、剣術をやってみないかと誘ってみたのよ。案の定彼女は、剣術と聞いて目を輝かせていたわ。本人は、気づいていないようだったけれど。
私自身、剣が好きだから彼女にも覚えて欲しいという願望もあったし、護身の術を身につけて欲しかったということもある。彼女は、彼女という存在そのものが世界に大きく影響を及ぼしかねないのだから。
閑話休題
でも、彼女の素振りを見て気が変わった。彼女には、計り知れない程の才能が秘められていることに気がついたの。そしたら、私の持つ全てを彼女に叩き込んで見たくなった。しかも、彼女、一度教えたことはすぐに吸収して自分自身のものにする。そんなの教えるのが楽しくて仕方ないじゃない。
最近では、私はまだ本気という訳じゃないけど、普通に戦えるようになってきた。まだ、八歳という年齢で、多分この国の中で、一番強い私と打ち合える。彼女の才能は、大きすぎるものだと思う。その才能は、最後には、己の破滅を生んでしまうかもしれない。私と同じように。
だから、私はいつでも彼女の側にいてあげなければならない。たとえ夫を、国を、世界を敵に回したとしても。
乳母として、侍女として、そして、彼女の……として。
最近、勉強はリリアに任せてあるけど、彼女は天才だと言っていた。もう少しで学園で習う内容を終えるという。まだ八歳だというのに、十八歳で習う内容をしているというのに、その全てを理解しているらしい。
本当に彼女の成長を近くで見ることができて嬉しいことこの上ない。
さて、次は、他国の言語でも勉強してもらいましょうか。もっと専門的な知識でもいいわね。
と考えていたある日のこと。
「あれ?あの子の気配がない」
私は、彼女がいるはずの書庫に気配がないと感じ、書庫に向かいました。
「やられた。まだ、それほど時間は、立っていないはず」
書庫には、誰もいませんでした。書庫の机には、ソーサラーに乗せられたカップと本があっただけだった。
私はすぐに屋敷の門の方に向かいました。
「衛兵、さっき誰か通らなかった?」
「いいえ。見ていません」
「そうか……」
見ていないというのは予想の内。連れ去られたにしろ、自分で出て行ったにしろ、目立つ門から堂々と行くとは考えられないからな。
で、彼女は読書を始めるといつまでだって読む癖があるから、自分で出て行ったとは、考えられないだとすれば……
「あいつか!」
最近、彼女といると、彼女を見ている視線を感じることがあった。多分そいつに狙われたことは予想できる。ということは……
「行ってみるか」
私は、衛兵に町に出ることを告げ、良く彼女に視線を向けていたものが通ったであろう道の食堂や露店の店主などに聞いて回った。そして……
「山脈の方に行ったのか」
という結論に至った。
私は、一度屋敷に戻り、馬を借りて山脈の方に走らせた。山脈には、領都から、馬で三時間ほどで着く。彼女を攫った者は、移動に馬を使ったはずだが、二人分の体重で、そこまで速く走れないはずだ。
さらに、何の偶然か、ちょうど山脈にて山賊の姿が確認され、アジトも見つかっていた。
あと数日すれば、私兵が山賊を潰すために動く手筈だったのだ。
今回の案件は、その山賊の仕業だと結論付けていた。
私は、山脈の麓に着くと、馬を降り、徒歩で山賊のアジトに向かった。ちょうど人一人が通れるような獣道が山賊のアジトに繋がっていた。
私は、山賊のアジトに着くと警戒を大にして、足を踏み入れた。
そして、その奥で見たのは、意外な人物と意外な光景だった。
山賊は、全て倒され、その中央に、一人の女性がいた。
「あなたは、ミユル!?」
「え!?」
女性は、こちらを向いて驚いた。
補足
※学園は、十五歳から十八歳までの子供が通います。貴族は、絶対に学園に通わなくてはなりません。
※衛兵は、門を守ったりするのが仕事で、私兵は、山賊などの討伐など荒事を担当しています。ちなみに、町の巡回は衛兵の仕事に当たります。
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