12 山賊2
ユリシア視点に戻ります。
女は間抜けな顔で、私を見つめてきた。
それにしても間抜けな顔よね。よっぽど自信があったのかしら?
「お前は、私が縄で手足を縛ったはずだ」
「あ、それね。私縄抜けの練習してたからすぐほどけたよ」
イリスがね、いつどんな事が起こるかわからないからとか言って私にいろんなこと教えてくるんだよね。例えば縄抜けとか、ピッキングとかね。
楽しいからいいけど。
それにしてもやっぱりイリスって何者なのかしら。剣術は強いし、その他諸々の技術まで持ってるし。あれは、一待女ができることの度を優に超えてるよね。まあ、いいけど。
「そんな!ただの貴族の令嬢が縄抜けの技術を覚えているはずがないじゃないか」
それは同意。
「――一体お前は何者なんだ」
「だ、か、ら、私はユリシア。ユリシア・ティオ・アクシス。アクシス公爵家の長女よ」
「……」
何、この空気。私何か変なことでも言ったかしら。
「それがありえないと言ってるのだが」
女が言った。
「え、そうなの。私みたいなのが普通だとばかり思ってた」
うん、マジでそう思ってます。
「訳が分からなくなってきたが、まあいい。お嬢ちゃん悪いことは言わねえ、おとなしくつかまってろ」
「いやだ。そんなの面白くない」
「……」
またこの空気、やっぱり変なこと言ったかしら?
「もういい、お前ら、やっちまえ。ただし傷はつけるなよ。大事な商品なんだから」
山賊の頭が声を上げると、山賊達が、私の周りを剣を持って取り囲みました。ただ……
「大丈夫?大分酔ってる人もいるみたいだけど」
うん、今、宴の最中だったからね。大体の人が足元がおぼついていないし。顔をめっちゃ赤くしてる人もいるし。……なんというかね、めっちゃ弱そう。この言葉に限る。
「お前にそんなこと言われる筋合いは、ねえ。野郎どもやっちまえ」
山賊の頭の男の合図で、私を取り囲んでいた男たちが同時に襲い掛かってくる。
今思ったけどめっちゃシュールな光景になってない。
十歳にもなっていない少女を大の大人が二十人以上で取り囲み襲い掛かっているのだ。うん、異常だよね。
まあ、こんな状況になったら、普通の貴族の令嬢(一般人でもそうだし、まずこんな状況になるはずがない)だったら、委縮して、縮こまってしまうのがオチだが、私は、そうならなかった。というかそんなことに他の人がなるというかとをわかってない。加えて相手がめっちゃ弱そうに見えるのも一つの要因としていえるのだけれどね。
閑話休題
私の普通はイリスなのだ。私はイリスがこの世界の強さの基準だととらえている。(イリスがこの世界において化け物と称される程の実力者であることを私はまだ知らない)だから、この山賊達もイリスには及ばないけど私が本気でやらないとやられる相手だと思っていた。山賊達が剣を構えて襲い掛かってくるまでは。
しかし山賊達が剣を構えてからの気持ちは、あー、めっちゃ弱そう。というか隙ありすぎー、だった。
一切恐怖を感じていなかった。というかイリスが剣術の鬼すぎてこれぐらいでは怖いと感じないようになっていた。逆にイリスは今でも剣術の鬼です。
ついでにイリスに剣術を教わっていたからか、相手が構えた段階で相手の強さが大体わかるようになっていたのだ。
「さすがに怖気づいたか」
「何が!?」
いや怖気づいたっていったい何のこと言ってるの。私が動かなかったのは、ただ、ただ、呆れていたのと、どうやったら、効率よく倒せるかなと考えていただけだからね。
というかこんな奴らを効率よく倒す方法なんて、考える必要なくないと、今思いました。という訳で……
一番足がおぼついていなかった人に襲い掛かって、手首を叩いて、男の持っていた剣を地面に落とさせた。
イリスから剣術だけじゃなく、体術も教えこまれたのよね私。ほかにもいろいろとやってるし。それでも一番得意なのはやっぱり剣術。イリスも剣術以外は、基礎しか教えてくれないし。
というか、イリスは私を一体どうしたい訳。まあ、私は何でもいいけどね。
あ、でも欲を言えば領主代行とかしてみたいかな。なんか面白そうだし。面白そうといってもやることは、しっかりやりますよ。私、真面目なので。
で、私は男が落とした剣を拾い上げ、男の心臓に向かって剣を突き刺し、抜いた。あ、ていうか私何気に真剣持ったの初めてかも。いつもイリスと剣術の稽古をするときは、刃を落とした剣使ってたから。
「ふうー」
何か、その場の勢いで、殺しちゃったけど、私、人の命奪うの初めてなのよね。その割に、怯えることもなかったし、気持ちが高ぶってる感じもしない。というかいつもより冷静でいられるように思う。日本での平和な記憶があるから、ためらいが出るかと思ったけどそんなこともなかったしね。もしかしたら、まだ戦闘中だということが幸いしたのかもしれないわね。
でもやっぱり、人を殺すのは好きになれないから、意識を奪うだけにしよう。
「さて、殺リますか」
補足
※イリスがユリシアに体術の基礎しか教えていないのは、ユリシアに基礎さえ教えてしまえばそれをすぐ応用させることが分かっているので、教える意味がないからです。
※剣術に関しては、イリスが教えているのは、応用の応用編といったところでより実用性の高いことを教えています。
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