10 カレン
カレン・ラン・イフリート視点です。
今日は年に一度だけ訪れる、私にとって特別な日。
この日を迎えるのは私が生まれてから六回目。――そう、誕生日だ。
屋敷の料理人が腕によりをかけて作った料理が並び、私自身もおめかしして、いつもより豪華に着飾る。
今日は、立場など関係なく、お父様やお母様だけでなく、屋敷の使用人もお祝いの言葉を送ってくれて、それがまたうれしい。
「カレンちゃん、お誕生日おめでとうね」
「はい、ありがとうございます。ヒルリア様」
ヒルリア・ウル・アクシス様。
アクシス公爵家夫人で、お母様のご友人。
さらに、王妃である、フィリア・サン・タリア様と並んで、タリア王国の社交界の双華と称される程の貴婦人。私の憧れの人でもある。
そんな人が、高々伯爵家の娘のホームパーティに来てくださるのだ、私は嬉しい気持ちでいっぱいになった。
まあ、そんな人に招待状を送るとかお父様も何を考えているのだか。でも、ヒルリア様は、お母様のお友達だからそこまで、悪い思いはしないよね。
「カレンちゃんは、しっかりしているのね」
「ありがとうございます」
やった。ヒルリア様に褒めてもらえた。
私は一生懸命、お勉強や礼儀作法を頑張ってきた。六歳でだ。それはもうお父様やお母様から目を丸くされるぐらい頑張った。
それはもちろん、ヒルリア様のようになれるようにだ。その人に褒めてもらえる、私としてはこれ以上の幸せはないのだ。
でも、ここで止まってしまうとダメ。もっともっと頑張らないと。
「あ、そうそう。今日はね、私の娘を連れてきたのよ」
私は、ヒルリア様の言葉を聞いて憎悪感が体の中を巡った。
私は、あまり大貴族の子息、子女というものが好きになれなかった。
大貴族の子息、子女は自分たちが民たちとは違う存在、特別な存在だと思っている。私はそれが、嫌いなのだ。
もともと私の家族は、民たちを大切な存在と思っているし、私は、民たちの生活をこの目で見たことがあった。だから知っているのだ、民たちと貴族の違いなどほとんどないことを。
しかし大貴族の子息、子女達はその姿に目を向けようともしていなっかった。
だから、私は彼らが嫌いなのだ。
「ユリシア、この子がカレンちゃんよ。ユリシアも挨拶して」
「はい、お母様」
ユリシア様に促されて彼女は、私の前に進み出てきた。
私は彼女を見て初めに思ったのは凛々しい人だということだった。
彼女の瞳にはしっかりとした意思の光が宿っていて、さらに銀色の髪がそれを際立たせている。
そして、次に思ったことは、彼女は本当にヒルリア様の娘なのかということだった。
あまりのもヒルリア様と似ていないのだ。
顔のつくりも違う。瞳の色も違う。極め付きはその銀の髪の毛だった。
本当にこの子はヒルリア様の娘なのか。
もしかしたら違うのではないか。
彼女も他の大貴族の子息、子女達と同じなのではないか。
そんな思いを私は抱いた。しかし……
「初めまして、私はユリシア・ティオ・アクシス。宜しくね」
彼女は最後に微笑んだ。
その微笑みは私の思いを打ち砕いていった。纏っているオーラが同じなのだ、ヒルリア様と。
私はもう彼女が本当にヒルリア様の娘なのかと疑ってはいなかった。というより疑う必要を感じなかった。
彼女は、もしヒルリア様の血を継いでいなくてもヒルリア様のようになるということが分かったからだ。いいえ、もしかしたら、ヒルリア様以上になるかもしれない。
「は、初めましてユリシア様。私はカレン・ラン・イフリートです。宜しくお願いします」
私は、彼女に対して緊張していた。
「カレンちゃん、ユリシア様は、やめて。同い年なのだから、私のことはユリシアって呼んで」
「はい、ユリシア」
「そんな緊張しなくてもいいのに」
「は、はい」
やっぱり緊張が解けなかった。ヒルリア様とは何か違うプレッシャーを感じてしまうのだ。
「カレンちゃんは、なんでそんなに緊張しちゃうのかな?――そうだ」
ユリシア様は、何かたくらんだような顔で近づいてこられた。
「こちょ こちょ こちょ こちょ」
いきなり、横腹をくすぐってこられた。あまりのもいきなりだったので、
「へ、きゃあ。やめてくださいユリシア様」
声を上げて叫んでしまいました。しかし、ユリシア様はやめようとしません。
すると、そこへ私の声を聴いたお父様とお母様がやってきました。
「――どうした!カ、レ、ン?」
お父様が首をかしげました。よく見るとお母様とヒルリア様は何かあきれたような表情です。
まあ、確かにそうですね。いきなり公爵家の令嬢が私をくすぐってくるなんて夢にも思いませんから。
そんなの貴族としてはありえないことですし。
「さてと、」
ユリシア様はくすぐるのをやめ、私を立たせると、
「カレンちゃんは笑顔でいるほうがやっぱり綺麗ね」
一瞬ユリシア様の言っている意味が分かりませんでした。
「……あ、ありがとうございます」
つまりユリシア様は、私に笑顔でいてほしかったようです。そのために私をくすぐってこられたようです。
まあ、でも貴族の令嬢の思いつくようなことではありませんね。
あの後、ユリシア様は、ヒルリア様にこっぴどく叱られたみたいです。
しかし、この日私は人生最愛の友と出会うことができたのす。
私にとって最高のプレゼントでした。
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