赤い観覧車
現実と夢、彼岸と此岸、生と死、空と地、過去と未来、生物と無生物。怪異が存在しやすいのはやはり何らかの境界域なのでしょうか。ではリアルとネットなんてのはどうなのでしょうね。
最悪の状況である。
連休の中日で辺りは家族連れやらカップルどもが溢れかえってやがる。
どいつもこいつも楽しそうに笑い、足取りも軽く遊園地の門を潜っていく。
俺もあの中の一人になっていたはずだった。いや二人かな。
団体窓口と当日券窓口には長蛇の列が出来ていたが、ラッキーな事に前売り券窓口には誰も客がいなかった。
ジーパンのポケットをまさぐると、皺くちゃになったチケットが二枚出てきた。
その内の一枚を丸めてポケットに放り込み、もう一枚を受付の女性に渡した。
チケットを受け取った女性は、いい年をしているにも関わらず、頭にうさぎ耳のついたカチューシャをふるふると震わせて、
「ご来園、ありがとう」
と言って笑う。
ヘラヘラと笑いやがって、バカにしてやがる。
付き合っていた彼女から突然別れを切り出されたのは昨日の夜だった。
大事な話がある、と言うからてっきり今日の遊園地の後にマリンランドタワーの展望レントランでも行って雰囲気がよければそのまま……
と思って電話してみると、大事な話はいわゆる別れ話だった。
なんでも同じ部活の先輩から告白されたので別れてほしい、らしい。
頭の中が真っ白になった。
周りの友達も彼女ができ始め、焦って告白したらなんとなくオーケーをもらえて、今までそんなに可愛いと思っていなかった彼女が急に愛おしくなった。
散々悪態をついて、最後は脅迫めいた言葉まで口走ってしまったが、彼女の決意は変わらず、電話は切られてしまった。
携帯をベッドに放り投げて、しばらくして彼女に電話してみたが、『お客様のご都合により……』と冷たい女性の声が流れたのですぐに切った。
手元には、高校生にしてはかなり高額の遊園地のチケットが二枚残った。
誰かに売りつけても良かったが、こんなの売れば振られた事が丸わかり、ヤケクソになって一人で来てやった。
流行りの言葉で言えば『一人遊園地』。
窓口の門を入ると、見上げるばかりの高さの観覧車が見えた。
観覧車といえば、二人きりの狭い空間、景色を見るために自然に近づく二人。
よろしい。
一人で乗ってやればさぞかし楽しかろう。
観覧車の付近に客は誰もいなかった。
そういえば、「オモテノドリームランドに凄い怖いジェットコースターが出来たらしいの」とかなんとか、もう電話にも出てくれないあいつが言ってたっけ。
携帯のホームページやら口コミやらを俺に見せて来たあいつ。やたら大きく空いた胸元からチラリと膨らみが見えた。鼻息を荒くした俺はジェットコースターなんて大嫌いなのに、オークションサイトを開くとちょうど観覧車無料券付きのチケットが二枚出品されていたので速攻で落札してしまった。
「いらっしゃいラビ。お一人様ですかラビ?」
ヤケクソになったとはいえ、さすがに一人で観覧車に乗る事に躊躇していると、やけに甲高い声で話し掛けられた。
声の方を振り返ると、薄汚れたピンク色の馬鹿でかいうさぎが、オーバーオールを履いて二足直立で立っていた。
この遊園地のマスコットらしいが、全くもって失礼な言い様である。
「見たらわかるだろう」
ぶっきら棒に言って観覧車の方に歩こうすると、うさぎもひょこひょことついて来た。
「これは失礼しましたラビ」
うさぎは恭しく頭を下げていた。
「しかしながら、観覧車にお乗りになるなら少しご注意をラビ」
歩く速度を速めたうさぎは俺の前に出ると、長い耳が付いた頭をこちらに近づけて来た。瞬きしない馬鹿でかい目が青白くギラギラと光って見える。
鼻をつく腐敗臭は着ぐるみをちゃんと洗濯していないせいだろうか。
確かに着ぐるみは所々擦り切れ、赤茶色のシミもそこかしこに見えた。
「観覧車のてっぺんでは絶対に振り向かない事」
うさぎは張り付いたような笑顔のまま言う。
「ではウラノドリームランドを楽しんでラビ」
訝しる俺の顔を見たうさぎはそう言うと、くるりと向きを変えてまたひょこひょこと歩き去って行った。
体を揺らして歩き去るうさぎの背中をちらりと見た俺は観覧車に向かって歩き出す。
天を突く観覧車を見上げ、その下に視線を移すと、受付用の小屋があり、窓口からハンチング帽をかぶり、鼻の下に髭を生やした中年男性が顔を出していた。
「只今の時間なら渋滞もございません。どうぞ」
男性は観覧車の無料券を受け取ると、小屋の中で何やら機械を操作して小屋を出て来た。
男性の後をついて階段を登ると、観覧車の乗り口に到着する。さっきの機械が観覧車の操作装置だったのか、ガクンと音を立てて観覧車が反時計回りに動き始める。
「どうぞ、足元にお気をつけて」
男性がドアを開いたので、俺はゆっくりと動くゴンドラに乗り込んだ。
「一番上からは海が見えますよ」
ゴンドラのドアが閉まり、外からガチャンと錠が落とされる音が聞こえた。
ゴンドラに乗り込み、どこに座るか悩んだが、一番上で海が見えるならと、進行方向の逆側のベンチの真ん中に座った。
ゴンドラはすでにある程度登っていたらしく、下をみると受付小屋が小さく見えた。
はぁ〜
やはり一人でこんなのに乗るんじゃなかった。
ため息を吐きながら何気なく前を見ると、一つ後のゴンドラが見えた。
そのゴンドラに誰かが乗っていた。
こちらからは後ろ姿しか見えないが、頭の位置と長い黒髪から小さな女の子だろうと想像出来る。
あんな小さな子が一人で……
乗り口にはだれもいなかったような気がするが。
もう少しよく見ようと腰を浮かしたが、観覧車がさらに回転し上昇したためか、一つ前のゴンドラの赤い屋根しか見えなくなっていた。
まあ、俺も一人なわけだしな。
長い息を吐きながらベンチに腰を下ろし、窓の外に視線を送る。
「えっ?」
眼下に見えるはずの遊園地の姿は深い霧の中に沈んでいた。
かろうじて見えるのは、霧の中から飛び出ているジェットコースターの頂上部分くらい。この霧の中では流石に運行できないのか、コースターが動いている様子は無かった。
やがて霧の上に出たらしく、前方の景色が開けてきた。
さっき聞いた通り、霧の雲海の向こうに自分達の住む街が見え、その向こうに海が見えていた。
いつも見慣れている海だが、こうして山側の高所から見たことは無い。
まるで自分の住んでいる街では無いように思えた。
『ねえ、海見えた?』
後ろから聞こえた声に俺は体を硬直させた。
『お父さんが言ってた通り、海見えた?』
また、鈴の音の様に弾んだ、それでいて低く体に響く様な声。
"観覧車のてっぺんでは絶対に振り向かない事"
うさぎが言っていた言葉を思い出したのは、無意識の内に後ろを振り向いた後だった。
一つ後ろのゴンドラにはやはり少女が一人で乗っていた。
だが、その顔は真っ白で目、鼻、口が見当たらない。
思わずベンチから腰を上げて、両手のひらをガラスに付けて、その少女の顔を凝視する。
真っ白いまるで陶器の皿のような顔に、墨汁を垂らすごとく真っ赤なシミが浮かび上がっていた。それは布に落とした墨が滲み広がって行く様に顔全体を覆って行った。
慌ててガラスから手を離して、前を向いて座る。
両手を握りしめてガタガタと震える膝の上に置き、目を閉じて顔を伏せた。
なんなんだよあれ
『ねえ、何にも見えないの。ちゃんとおくすり飲むからさあ』
今度はすぐ近くから声が聞こえた。
ゆっくりと目を開き、視線を上げて行く。
小さな足が見えた。
靴は履いておらず、真っ白の足には擦り傷があちこちにあり、真新しい血が流れていた。
更に顔を上げて行くと、真っ赤なドレスが見えてきた。いや、それは血に染まって赤く見えていただけらしい。
『ねえ、新しいお母さんは?』
声につられてまた顔を見る。
白い皿のような顔に広がった赤い滲みはすでに全体に広がっていた。
そこから赤い液体がドロリと溢れ出ていた。
その液体は止まる事なく溢れ続け、俺の足を飲み込む。
『苦いおくすり飲んだらさあ、新しいお人形をくれるんだよね』
体の芯まで響くような低い声を聞きながら、反射的に足を上げようとするが、粘着質の液体から足を抜くことが出来なかった。やがて体がその生暖かい液体に埋まり、口が鼻が塞がって行った。
そして俺の頭の中に赤い霧が広がっていく。
※
外出許可書
犀川春香殿
(一)日時
昭和三十八年九月二十三日
午前十時カラ午後五時マデノ間
(二)場所
◯◯県△△市所在ウラノドリームランド
(三)注意事項
ア、二時間毎ニ当院ト連絡ヲ取ルコト
イ、異常ノ際ニハ頓服ヲ処方シ直チニ当院ニ帰院スルコト
「先生ありがとうー!大好き!」
春香に飛びつかれた医師は丸椅子から落ちない様にバランスをとりながら笑顔を見せる。
「春香ちゃんももう小学四年生だからねえ。かっこいい男の子と行きたかったんじゃないの」
医師に黒髪を撫でられた春香は首を振りながらベッドに座り、その小さな胸に医師から貰った外出許可書を抱いた。
「先生、それはちょっと聞き捨てならないですよ。なあ春香」
ベッドに腰掛けていた男性は最近になって伸ばし始めた鼻下の髭を触りながら苦笑いをする。
「お父さんとお母さんと行きたいの。私、遊園地行った事ないから彼氏と行く練習しなくちゃ」
「春香……」
医師の傍に立つ女性がハンカチで目頭を押さえながら笑みを浮かべる。
「春香ちゃんも頑張ってるからね。でもこの外出が終わったらあの苦いお薬を頑張らないとね」
医師の言葉に春香は顔を曇らせながらもコクンと頷いた。
「春香ちゃん、検査に行きますよ」
廊下から入ってきた看護婦が声をかける。
頷いた春香は抱いていた外出許可書を大切そうに折りたたむと、ベッドの傍の箱を開ける。箱の中には春香の宝物である人形達が入っていた。夫婦だというその古びた人形達の上に外出許可書を置き蓋を閉じる。
箱を枕の下に入れた春香はゆっくりと立ち上がり、細かく息を吐きながら看護婦の後をついて部屋を出て行こうとしてふと立ち止まった。
「お薬飲めたらね。新しいお人形も買ってほしいな」
春香に見つめられた女性はコクリと頷く。
「買ってもらったの私が八歳の頃のだから、もう十八年も前になるのね。分かったわ。一緒に買いに行きましょ」
「やったー」
ぴょこんと小さくジャンプした春香は手を振りながら廊下に出ていった。
木製枠のガラス窓が風を受けてガタガタと音を立てる。
夏の名残を忍ばせる湿った暖かい風が真っ白のカーテンをはためかせていた。
「先生、やはり……」
男性は今さっきまで春香が腰掛けていたベッドをさすりながらポツリと言った。
「厳しいですね。本当は外出なんてさせたくないのが本音です」
「でも、でも、新しい薬が効けば……」
女性はハンカチを握りしめ、膝をつき医師にすがりつく。
医師は俯いて首を振っていた。
「やはり子供は新陳代謝力が高い分、病気の進行が速い。あの薬がもう少し早く認可されていればと悔しくなります」
医師の話を聞いた男性は立ち上がると、女性の傍に歩み寄り、その黒髪を優しく撫でた。
「まだダメと決まったわけじゃない。とにかく今度の遊園地は思いっきり楽しませてあげような」
女性は溢れる涙をハンカチで拭きながら何度も頷いていた。
外出日当日、病院の周辺は深い霧に包まれていた。
口髭の男性はこの日の為に車の免許を取得し、早速真っ赤な車を購入していた。
生活に余裕はなかったが、それが医師が外出許可を出す条件であった。
病院のエントランスに車を横付けした男性は、後部座席のドアを開けた。
いつから待っていたのか、春香はすでに準備を万端に済ませて病院のロビーから外を眺め、真っ赤な車が来るのを見つけるやいなや外に飛び出して行く。
まるで残暑の青空のような薄い水色のワンピースの裾がひらひらと舞っていた。
「ひどい霧ですね」
春香に寄り添うようにして歩く医師が、辺りを見回していた。
「この霧なら渋滞もありませんよ」
答えた男性は春香の手を取り、後部座席に案内した。
「ほら、お姫様、足元に気をつけて」
男性のエスコートで後部座席に座ると、運転席側の後部座席に女性が座っていた。
彼女は春香に笑顔を向けると、ただ力強く抱きしめた。
「では楽しい旅行を」
男性はそう言うと、パタンと後部座席のドアを閉め、カチャリと鍵を掛けた。
車は順調に走っていた。
車内には坂本九の曲がラジオから流れ、それに合わせて三人で歌を歌った。
「これね、看護婦さんと一緒に作ったんだ」
春香は言いながら、持参した大きな手提げ袋を広げた。
中から出てきたのは、ダンボールに厚紙を貼って作ったウサギの耳。そしてその耳を頭に取り付けるためのカチューシャであった。
「ウラビーちゃんの帽子なの。はいお母さん」
「ありがとう」
女性はそのカチューシャを受け取ると、しばらく眺めた後に黒髪にそっと差し込んだ。
長い耳の先端が車の天井に当たり、くにゃりと曲がった。それを見てみんなで笑う。
「そういえば、春香は遊園地に行ったら何に乗りたいんだい」
運転席から男性が聞く。
春香は唇に人差し指を当ててしばらく考えた後に、
「観覧車!」
弾けるような声で答えた。
「そうか、一番上からは海が見えるからね」
ルームミラーに男性の微笑む顔が見えた。
「海!私、海を見るの初めて」
はしゃいで笑顔を振りまく春香を見て女性は何度も頷いていた。
幼稚園を卒業する前に病気が発覚した春香を海に連れて行く事は出来なかった。
「霧が晴れるといいね」
「うん」
頷いた春香は横に座る女性に向き合う。
「お母さん、チケット見せて」
頷いた女性は、傍にい置いていたポシェットからチケットを三枚取り出して春香に渡した。
「あっ!ほら見て見て!これがウラビーちゃんなの!」
女性にチケットを見せた春香は、前座席の間に半身を乗り出して男性にもチケットを見せようとする。
男性がちらりと振り返った瞬間、ガツンという音が聞こえた。
ガラスが割れる音が響く中、春香は背後から衝撃を受けてフロントガラスの直前に浮かんでいた。
ガリガリと音が聞こえ、女性の付けていたウラビーの耳が宙を舞い、男性が被っていたハンチングが天井に張り付いている。
霧の隙間から光が差し込み、その方を見た春香は、ひび割れて行く助手席ドアガラスの向こうに観覧車を見つけていた。
早くみんなに教えてあげなくちゃ
そう思い車内に視線を戻すと、そこに男性はおらず、ただ金属の塊だけがあった。後部座は見当たらず、青白くギラギラと光るライトが二つそこにあった。
そして背中から何かが春香を座席に押し付けて息が出来なくなった。
「おかあさん……」
全身が何かに押さえつけられて、指一つ動かせない中、春香は絞りだすようにか細い声を出す。
「おとうさん……」
返事はなかった。ただ真っ暗闇の中で、顔が異常な程熱い。
「痛い、顔が痛いよ」
春香は激痛に耐えながらなんとか体を動かそうともがく。
が、あらゆる方向から何かに押さえつけられて体は全く動かなかった。
「出してーー!ここから出してーー!」
最後の声は爆発音とともに消えて無くなってしまった。
※
目を開けると、どこかの病室だった。
黒くて硬い処置用のベッドから上半身を起こす。
窓が開かれ、カーテンがサラサラと揺れていた。傍の事務机の上には開かれたままのノートがパラパラとめくれていた。
とっさに確認したのは事務机の向こうの壁に貼ってあったカレンダー。
間違いなく今年の九月のカレンダーだった。
まだ頭の中は霧が湧いた様にぼんやりとしていた。
最後の少女の叫び声が未だに頭蓋に反響している。
「あ、大丈夫でしたか」
部屋の扉が開かれ、白衣を着た女性がベッドの横に駆け寄ってきた。手には二リットルのペットボトルが握られている。
「熱中症ですよ。全身汗だくで霧の森公園で倒れていたの覚えてます?」
「いや、霧の森公園?」
頭を振った俺は、女性に促されるまま、ペットボトルからコップに移されたスポーツドリンクを飲んだ。
「ええ、昔、今のオモテノドリームランドができる前、ここには小さな遊園地があってその跡地の公園。誰かお連れの方はいるの」
「いや、俺一人です」
言いながら俺はもう一度ベッドに横になった。
「そう、なら少し休んでいくといいわ」
腕を組んで頷いた女性は、そう言うと事務机の前の椅子に座りペンを握った。
「その前の遊園地っていつまであったんですか」
女性はペンを口に当てて、しばらく考えた首を振る。
「私も詳しくは知らないけどね、オイルショックの頃に潰れちゃったって聞いたわよ」
日本史で習った覚えがある。オイルショックなら昭和48年頃だろうか。
「その遊園地の名前、分かりますか」
さっきと同様に首を振った彼女は、興味がなくなった様に事務机に向かい作業を始めてしまった。
その遊園地の名前、俺は覚えている。
横になったまま、汗ですっかり湿気ってしまったジーパンのポケットに手を入れた。
くしゃくしゃに丸められた紙を開いていく。
彼女に渡せなかったチケット。
そこには『ウラノドリームランド』の文字があった。
どうしても気になった俺は街に戻る前に郊外の図書館に寄った。
そこで、昔サナトリウムという施設があった事、ウラノドリームランドという遊園地があった事はわかった。
当時の新聞も見つけた。
名前を出せない事情があったのか、死者の名前については分からなかったが、確かに当時、遊園地近くの高速道路で死亡事故が発生していた。
濃霧の中、後続を走っていた大型トラックが自家用車に衝突し、一家三人が死亡。トラックの運転手は両足に重い障害を負ったと。
もう一つ、あの遊園地ではこれまでに二組のカップルが行方不明になっている事も分かった。
図書館を出ると、すでに夕方になっていた。
駅に向かう道すがら、見上げた空にはうろこ雲が夕日の光を受けてまるで雲海の様に広がっている。
少し視線を落とすと、去年出来たばかりの超高層ショッピングビルのマリンランドタワーがまるでロウソクの様に見えていた。
あの時の違和感に気づく。
観覧車の上から見えた街にこの高層ビルは無かった。
そして、ゴクリと唾を飲み込んだ俺は恐る恐るポケットから携帯電話を取り出した。
ロックを解除し、震える指でネットに接続し、あのオークションサイトにたどり着く。
購入履歴のアイコンを選択し、その表示を見る。
『出品者・HARUKA』
更にその先を見ようとした時、SNSの着信を知らせるメロディーが鳴った。
差出人は不明。
『今日は楽しかったね。今度はお母さんも一緒に行こうね』
ーーおしまいーー