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愛と青春と夜の漆黒

作者: 大和階梯

 中身のない真っ黒な箱の中に閉じ込められてしまったかのように、静寂に包まれた夜のことであった。僕は流してはいけない涙を流した。


 僕は寂しかった。男らしくない。なんてことは、僕は当然分かっていた。

 僕はただ愛が欲しかった。こんなふうに寂しい夜に、誰かが僕を一度だけ抱きしめてくれるなら、それで充分だった。一秒だけで良いのだ。どんな夜も、僕を見捨てない人が居てくれたのなら。

 そんなことを頭の中の世界で思い描いてみても、現実に残っていたのはただただ孤独な自分だけだった。


 僕は高校生だ。失われない永遠の愛を求めることなど、そんな僕には似合わないことは分かっていた。

 高校生は恋愛が盛んな時期だ。この時期には程度の差はあれ、男も女も恋愛話に沸き立っている。だれだれくんとだれだれさんが付き合い始めたとか、だれそれがこんなことをしたとかか、なんとかのイベントでこんな人と出会ったとか。

 でも本当は、僕にはそういった話はどうでもいいものであった。僕は知ってしまったのだ。


 僕らのような未熟者は、永遠の愛など育むことができないのだということを。

 もちろんその理由には経済的なものだとか、社会的なものもある。しかし一番の問題点は、高校生の僕らが、心理面で大きなスケールの愛情を維持することが難しいことだ。結局のところ、一つ言えるのは、高校生の間の恋というのは、一生のスケールで見れば、ほとんど実ることなどないのだ。

 高校では、付き合い始めるカップルに匹敵する数の、別れてしまうカップルがいる。高校という、一見自由度でも時間でも恵まれた環境にいるように思える僕らは、結局のところ、心理面では全く恵まれてはいないのだ。


 それでも僕は永遠の愛を望む。誰に嘲笑されようが構わない。それが僕の最大の願いなのだから。




 僕は後ろ側の扉から見慣れた教室に入った。まだ学校に来ている生徒は少なく、教室の席もまばらにしか埋まっていなかった。

 入ってきた扉から、僕がまっすぐと窓の方を見据えると、いつものように本を読んでいる彼女の姿が目に入ってきた。常に潤んでいる彼女の瞳は、遠目でもはっきりと分かるくらいに輝いていた。

 彼女の名前は彩香という。本が大好きで、僕が朝教室に入るといつも本を読んでいる。彼女が読んでいた本のタイトルを教えてもらって、僕も読んでみたことがある。その本は恋愛物の短編集だった。でもその本の内容はただただ甘いものではなかった。結ばれない恋、壊れてしまう恋、伝わらない恋、そんなテーマの本だった。それなのに、どんな苦労を経たとしても、その本の登場人物の恋は実っていた。

 その本を読んだ僕は、彼女に一種のシンパシ―を感じた。彼女になら、僕が秘めている無気力感や諦観を伝えられる、そんな気がした。


 でも、僕が彼女に抱いている感情は恋愛感情ではなかった。正直に言えば、異性としては魅力的だと思う。独特の雰囲気だとか、愛らしい目つきだとかには、目を張るものがある。

 彼女は勉強も物凄くできる。僕も成績はそこそこ良い方なのだが、彼女には全く及ばない。そのせいか、彼女は男達からは恋愛対象としては見られていない節がある。

 でも僕は、もし彼女と付き合うならの話だが、僕は彼女がいくら成績優秀で雲の上のような存在でも、一向に構わない。確かに男というのはプライドの塊だ。世の中では男女平等といって男と女に能力差なんて無いと主張されてきているし、確かにその通りだとも思うのだが、それでも女に負けるのは男として悔しい。それは、彼女が相手でも変わらないことだ。

 ただ僕は、彼女に引け目を感じることがあったとしても、永遠の愛の難しさを知る人と一緒に居られるのなら、それで良いと思う。……あくまで仮の話だが。


 だから僕は時々こんな風に思う。目の前のこの女の子こそ、僕に一番幸せを与えてくれる人、ひいては運命の人なのではないかと。

 もちろんこれがあくまで僕の幻想の域を出ないことは分かっている。でも、何度冷静に考えてみても僕はこう思うのだ。彩香こそ、僕にとってベストの相手だと。

 それでも、頭の中では、理性ではそう思っていても、僕は恋愛感情を彼女に抱くことはなかった。


 理性では分かっていても、本能はその通りには動いてくれない。

 自分が良いと思った相手に限って恋愛感情は湧かない。自分がダメだと思った相手に限って恋愛感情を抱いてしまう。そんなジレンマを、僕は抱えているのだと思う。


 僕が恋愛感情を知っている理由。それは他でもなく、恋をしたことがあるからだ。

 本来なら誰でもしているような当たり前の経験なのだろう。少し時が経てば誰しもが思い出話にしてしまえるような、そんな単純なものに過ぎないのだろう。

 でも、僕の心には、初恋の体験は深く根ざしている。


 それは中学校の時であった。当時僕は、同級生の女の子に恋をしていた。

 一度ひとたび結んだ髪を解けば、空気になびく黒髪はすさまじい輝きを放って。どんな喧騒の中からでも、聞き分けることのできるその声はとても甘くて。

 僕は自分なりに彼女に近づこうとした。女子となんてほとんど話すことがない僕は、彼女と目が合うだけで心臓が破裂しそうだった。

 それは僕にしてはよく頑張った方だったと思う。彼女は自分の悩みまで僕に打ち明けてくれて、僕に全幅の信頼を置いてくれた。

 でも僕は、彼女を愛していた僕は、いつまでも彼女に告白することはなかった。僕はある時、彼女への恋愛感情を放棄することを選んだ。


 僕は失うことが怖かった。失うと言っても、一度告白して振られるのが怖かったのではない。告白をして、付き合いを始めて、数か月後とか数年後とか、ひょっとしたら十年後とかに、愛が失われてしまうことが怖くてたまらなかった。

 そう、当時中学生だった僕は気づいてしまった。愛はいつまでも続くものではない、やがて壊れるものだということに。


 周りの皆と同ような恋愛がしたい。愛が壊れてしまうことを恐れずに、自分の感情に正直でありたい。

 僕の恋愛観は、高校生が持つには早すぎたのだ。



 * * *



 私が知っているフィクションの愛は、現実よりもずっと苦しい過程を辿っていだ。でも最後はハッピーだった。たとえ結ばれなかったとしても、登場人物には何かしらの希望が与えられることが多かった。

 現実はそうではない。高校生がするような恋愛は、過程はもしかしたら、くだらなく思えるくらいあっけないものかもしれないが、本当の意味での愛に辿りつける人はごく僅かだ。

 私はそんな現実を知ってしまった。いつしか私は人への恋心を押し殺すようになってしまった。周りの皆が中学までに初恋を終えているなんて、気づくこともなかった。


 とある寂しい夜のことだった。私は泣いた。寝る前に読んでいた小説の中身を思い出して泣いているわけではない。自分に待っている、永遠の孤独というものに気づいてしまったのだ。



 私は中学生の頃、とある男子の手が好きだった。

 透き通るような純白。物を掴んだ時の優しく包み込んでくれるかのような動作。


 休み時間に彼の教室の前を通りかかる度、私は立ち止まって教室の扉の窓ガラス越しに彼の手を見た。


 私は、その手で触れられたいと思った。けれども私が抱いた感情は、恋愛感情ではなかった。



 * * *



 僕は――私は――昼になればそんな寂れた感情は何もかも忘れることができる。

 だからこそ、昼に寂しい思いをすることがないからこそ、夜の寂しい感情は人に伝えられないまま自分のなかに抱え込まれる。


 夜は感覚が研ぎ澄まされすぎてしまうのだ。昼の普通の生活だけに専念してしまえば、私たちは充分に幸福なはずなのだ。昼に私たちが抱えている悩みなんて、どの高校生にもありふりているような小さなものでしかない。ただ一日中昼のように過ごして、余計な寂しさを与えてくる刺激から逃げ続ければ良い。それだけで、私たちは幸せなはずなのだ。


 他人のことが見えなくなってしまえばいい。そうすれば私たちは幸せでいられるのに。

 誰それが付き合っているだとか、高校生は皆恋愛をするものだとか、知らなければ私たちは幸せでいられるのに。

 私たちの少ない欲は、とっくに満たされている。あとは、私たちの余計な精神的欲求さえ肥大しなければ、あとは何事にも満足していられるのに。



 * * *



 それは、寒い寒い冬の日のことだった。

 その日は雪が降っていた。閉塞感に包まれた曇り空は、いつになく早く暗転した。

 そして街には眩い灯りがともった。木々や店先に灯る、すさまじく明るい光。それは、僕が毎年見てきたイルミネーションの光景であった。

 イルミネーションというものは、どうやら学生たちにとっては恋人がいる人の専売特許のようなものらしい。今日は二十三日。クリスマスイヴを目前にして、早くも街はカップル達で溢れかえっていた。

 僕にとってこのイルミネーションは、不思議な力を持っていた。子どもの頃には、僕はよく親にこの明るい街中へと駆り出されたものだった。そして僕は毎年のように訪れるこの場所を、自分の家のように感じていた。

 高校に入って通学に電車を使うようになると、今イルミネーションをやっている駅前通りを歩く機会が増えた。

 高校一年のクリスマスの時も、僕はこの景色に親しみを覚えていた。この場所がカップルの聖地だとか、そんなことはどうでも良かった。たた眼前に広がる不思議な光に、心を奪われていた。自分のような一匹狼でも、この光景を楽しむ権利くらいあるだろう。そんな一年前のことも思い出しながら、僕はこの通りを歩いた。


 全く偶然の出来事であった。通りの反対側から、見知ったシルエットが近付いている気がした。

 僕は目が悪い。まだ遠くにいる人影の輪郭をはっきりと捉えることはできなかった。だが自分の直感が、この人が特別な人物であることを感じ取っていた。

 僕がその人物の正体を掴んだとき、彼女は小さな歩幅で歩きながら僕の方をじっと見ていた。彼女の瞳に僕の姿が映っていたような気がした。

 その正体は彩香だった。僕は彼女から二メートルくらいのところまで近づいて、歩みを止めた。彼女もその場で立ち止まった。

 僕たち二人がいる空間の時間だけが止まったかのように感じた。立ち止まって見つめあう僕達を横目に、大勢の人間が通りを歩いていた。


 僕は彼女と会話らしい会話をほとんどしたことがなかった。だから、一人この通りを歩く彼女は僕に軽い会釈をして、すぐに去ってしまうのだと思っていた。

 現実は違った。彼女は僕を見ると歩みを止めた。


 本当はどうして彼女が、僕と同じようにたった一人でこの光の中を歩いているのか尋ねようと思った。しかし、僕の方にもその理由ははっきりとしないことに気づいて、僕はそのことを聞くのはやめた。

 そして僕は、こう切り出した。

「やあ、彩香、こんなところで会うとは奇遇だね。」

「ええ、その通りね。」

 自分の口から出た「奇遇」という言葉に、僕は心を動かされた。確かに恋愛の聖地とも言えるこの場所で、僕が理想の相手だと考える彼女と出会うことは、運命的かもしれない。


 僕は続く言葉を見つけられなかった。そんな場合ではなかった。目の前で起こっている出来事が、とんでもないことのように思えて、自分の心と相対するのが精一杯だった。


 そして、僕は魔が刺した。自分の本心なのか、本心ではないのか分からないような行動に出た。

「イルミネーション、きれいだね。」

「うん、確かに。」

「この通りにはやっぱりカップルが多いね。」

「そうだね。」

 僕が話題を提供して、彼女がそれに同調する。実に単純なコミュニケーションだった。僕は、このまま何を言っても肯定の返事が返ってくるのだろうと勝手に推測した。

「僕は、一度でいいから女子と一緒にこの景色を見たいと思っていた。」

 彼女はただ口を閉ざしていた。

「それで、今思ったんだ。」


「その女子が、もし君のことだったらって。」

「僕は明日もきっと、この場所に来ると思う。」

「これはただの独り言だ。」


 僕は吐き捨てるように行ってその場を去った。おそらく僕がモテない理由というのは、このあまりにもひどい冷淡さのせいなのだろう。僕はこの言葉を言った後、幾分後悔した。でも、自分なんて元々こんな人間なんだ。と考えて、自分を正当化した。

 告白まがいのこの言動は、僕の望みであって、僕の望みではなかった。


 明くる日の夜は、ホワイトクリスマスであった。彼女に会える確証などなかったのに、僕はイルミネーションが点灯する前から通りにいた。その日も日没は早く、点灯の一時間前には空は暗くなっていた。暇を持て余した僕が、まだ灯りの乏しい通りを昨日と同じルートで歩いている。

 昨日彼女と出会ったあたりまで歩くと、イルミネーションの灯りが一斉に点いた。辺りはまるで別世界に変わったかのように、明るい光に包まれた。


 すると、彼女は姿を見せた。そして彼女は足を止めた。僕は彼女に方へ歩み寄った。


「やあ、来てくれたんだね。」

 厚手のダッフルコートに身を包んだ彼女は、ゆっくりと頷いた。

「その、どうして今日はわざわざ来てくれたの?僕が聞くのは変かもしれないけどさ。」

「一緒にイルミネーションを見たいって言われたから。ただそれだけ。」

 落ち着いた声で彼女は話した。その声には良い意味でも悪い意味でも、僕に対する緊張感はなさそうだった。

「イルミネーション、きれいだね。」

「ええ。」

「やっぱりカップルが多いんだね。」

「そうだね。」

「僕たちも周りの人にはそう思われてるのかな?」

「そうかもね。」

彼女は平然としている。冷淡な声で、僕の言葉に受け答えした。

 そのまま僕達は特に言葉も交わさず、二人並んで通りを歩いていた。

 ゆっくりとした足並みで、小さな子供のような歩幅で、輝く木々を眺めながら僕たちは通りを歩いていたが、やがては歩き終えてしまった。イルミネーションが輝く通りを出て、僕は冷たく喉に刺さる冬の空気を、深く深く吸った。

 通りの終着点でもある公園には、いくつも屋台が出ていて、多くの人で賑わっていた。丁度夜ご飯を食べるには丁度良い時間だったので、僕達はそこに入っていった。

 屋台とはなんともクリスマスに似つかわしく無いものだ。せっかくならおしゃれなディナーに彼女を連れてあげられれば良かった。でも、僕の引き出しにはそういう選択肢はなかった。          

 何が食べたいかと彼女に聞くと、何でも良いと返ってきた。僕は二人分の焼きそばを買って、彼女に一つ渡した。

 公園の噴水のところまで来ると、そこには光輝くツリーが飾られていた。円形に人で囲まれている噴水の一角に、彼女と腰かけた。せめて場所の雰囲気だけでも、ロマンチックにしてようと思った。


 依然として、僕らは交わす言葉がなかった。そもそも僕はなんであの時彼女を誘うようなことを言ったのだろう。と今更ながら疑問に思った。

 そして、彼女もどうして僕が言った通りにこの場に来てくれたのだろうう。彼女の性格からして、クリスマスに相手がいなかったからといって、適当な相手を見つくろって街に出歩くようなことはしそうにもない。「一緒にイルミネーションを見たいって言われたから」というのは、理由になっているようでなっていない。


 僕は、まずなぜ自分が彼女をこの場に誘ったかを考えてみた。クリスマスに浮足立つ周りに影響されたから? 僕に限ってそんなことはないと信じたい。僕が彩香のことを気にかけているから? 間違いではないが、恋愛感情を抱いているわけでもない僕がわざわざ彼女を呼びつける理由としては足りない。

 僕は、きっと何か希望を求めていたのだと思う。僕が理想と考えている彼女と触れ合うことで、自分の中の何かが変わるのではないか。そんな風に思ったのだろう。

 実際には、僕の中で何かが変わるということはなかった。変わったことと言えば、僕の人生の中に高校二年生のクリスマスを女の子と過ごした、という事実が追加されたことぐらいだった。


 僕はふとツリーの下の方を見た。そこには一組のカップルがいた。二人は、互いに何か言葉を交わした後、口付けをしていた。

 それを見て僕は突然あることを思いついた。恋愛とはこういう情熱的なものなのだ。僕もこんな風に情熱的になれやしないか。

 僕のすぐ隣には彼女がいる。――僕の理性は、彼女を選んでいるはずなのだ。 

 僕は彼女に声をかけた。

「あのさ……」

「どうしたの?」

 彼女はやはり落ち着いた声で答えた。

 僕は、その声に少し怯んでしまった。しかし、僕はやらなければならないと感じた。


 胸が高鳴る。流石にこれをやるのは、ドキドキした。

 それでも、これが普通の恋愛なのだとしたら、やらなければならないと思った。


「彩香さん」

 初めてこんなかしこまった呼び方をした。

 これには彼女も、少し驚いたような表情を見せた。


「僕と付き合ってくれないか。」


 意外にもあっけないことだった。それはもしかしたら、自分が「付き合う」というのがどんなことか良く分かっていないせいなのかもしれない。 

 僕は息を飲んだ。彼女は一体どう反応してくるのか。

 すると、彼女は口を開いた。


「私はね」

「恋っていうのがどんなものなのか、分からないの。」

「こうやってクリスマスの夜にも皆が恋をしている。」

「でも、本当はそれが何なのか、分かっていないの。」


 ……僕と似たような思いなのかもしれない。今こうしている僕も、彼女に恋愛感情を抱いているわけではない。

「その、僕もずっと前から思っていたんだ。恋愛って何なんだろうって。」

「でも一度だけ、ある女の子に恋をしたことがあった。」

「それから分かったんだ。恋っていうのは、理屈がどうこうの話じゃない。そして高校生の僕らはそんなものは分からなくて当然なんだって。」

「それでも、私は付き合うっていうことが良く分からないの。」

「仮に付き合ったとして、『恋愛感情』が分からない私には、何の意味があるか分からないの。」

 僕はそこで彼女に「俺が恋愛を教えてやるよ」だとか、キザなセリフは言えなかった。

 彼女の言葉は何一つ間違いがなかった。僕もその通りだと思う。ただ、僕はその分からないことに突っ込んでいくという、学生にとっての「普通の恋愛」を、体験してみたいと思ったのだ。


 それでも、やはり恋愛感情を抱いていない相手と付き合う意味は、単なる好奇心の範疇を出なかった。

 僕は言った。


「そうか、ごめんなさい。」


 僕はあっさりと引いてしまった。僕は恋愛をする高校生にはなれなかった。


 公園の喧騒は、僕の耳には何かのノイズのように聞こえた。


「でも、一つ言いたいことがある。」

「何?」

「僕たちは、たとえ恋愛について無知でも、猛烈に愛を欲している。違うかい?」

彼女は黙った。

「恋愛から永遠の愛を生み出すことは、とても難しいと思っている。違うかい?」

彼女は少しだけ首を縦に振った。


「だから、僕らは時として現実に絶望して、突然孤独感襲われて、寂しくなる。」

「でもさ」

「そう思っているのは、世界中でたった一人だけじゃないはずだ。」

「少なくとも僕は思っている。愛って何だろうと、未熟者なりに思い悩んでいる。」

 彼女は黙っていた。しかしその目は僕を見据えていた。

「だから、本当に僕が困った時は、僕の仲間でいて欲しい。」

「本当に君が困った時は、僕は君の仲間でありたい。」


 彼女は涙を浮かべた。

「あれ、なんでだろう。私、どうして泣いちゃってるんだろう。」

「なんだか、自分でもどうしたら良いのか分からなくて、一人で悩んで、それでも分からんなくて。」

「何が、足りないんだろうって、ずっと、悩んでいた、けど」

「本当に、必要だったのは、君みたいな、人、だったの、かもしれない……」


「僕はさっき、君に交際を申し込んだ。それが普通の高校生がする恋愛なんだって思って、勇気を出した。」

「でも、君はその答えを出さなくても良い。僕も気付いたんだ。」

「君のような人が僕の仲間であれば、それで良い。一生悩み続けたとしても、生きていける。」


 彼女は、僕の胸に飛び込んできた。

 僕は、彼女を抱きしめた。すると彼女は、僕の背中に手を添えた。



 絶望するような静かな夜も、僕はもう一人ではなくなった。

 僕は「答え」を、考え続けたい。たとえ難しいことだとしても、僕は永遠の愛を求め続けたい。


 僕には、仲間がいる。支えてくれる仲間がいる。僕は一人ではない。もっと自信を持って、力強く生きていこう。


 それが僕の高校生活であり、人生なのだから。


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