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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第3章 転

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7 抽出魔法

【本体の視点】


  11月4日(月) 14:00 どこかの山中


 白龍シェルキスが、わたしに言いたいことがある。そんな連絡をフォスティアから受け、わたしは久しぶりにこの場所に来ていた。

 イリスと別れた後は特にすることも無かったし、暇潰し、と言ってはシェルキスに悪いが、断る理由は無い。

 どうせ管理者権限で連絡してくるのなら、フォスティアを介さずシェルキスが直接わたしに話しかけてくるほうが手間が無い。わたしも、それで一向に構わなかったのだが、シェルキスはそれを好まなかったようだ。


「ごめんね、由美ちゃん。急に呼び出して」

「いや、それはいいんだけど……シェルキスの話っていうのは?」


 すまなそうなフォスティアを(なだ)めてから、わたしはシェルキスの方に向く。彼は、ゆっくりと話し始めた。


「話、というより、頼みがある。由美、おまえに……なんだ、《密偵》と言えばいいのか? レギウス王国の、好戦派の動向を探ってもらいたい」


 ……え? 今、何と?

 たぶん、わたしは呆然としていたのだろう。シェルキスは釈明するように続ける。


「すまんな。いきなりのことで驚いているだろうが──」

「そ、そうじゃないわ……!」


 わたしが我に返るのと、シェルキスが喋るのが被ってしまった。


「……? 驚いている訳ではない、と?」

「いや、その……驚くのは驚いたんだけど。……なんで、シェルキスが人間の動向を知りたいのかな、って」


 理由は、もしかしたら聞かれたくないのかもしれない。しかし、わたしは反射的に聞き返してしまっていた。

 なぜ、人間と積極的に関わろうとしない白龍が、人間のある一派の動向を気にするのか。


「抽出魔法。たしか、地下に巨大な魔力伝達機構を持った町が、実験に失敗して消滅したと記憶しているが」

「……!」


 旧レディクラム。そして、こちらはまだ吹っ飛んではいないが、ベインファスト領アイズホート。その一角にある、とある研究施設。

 ……今、アイズホートで旧レディクラムと同じ事故が起きれば、間違い無くイリスは犠牲になる。何も知らないであろう町の人々と共に。


 シェルキスは言う。《根底の流れ》から汲み上げた魔力で魔法を発動させる技術、シェルキスを含む一部の白龍たちはあれを《抽出魔法》と名付け、旧レディクラムで生活基盤として確立された頃から、その動向を注視してきた、と。


「──旧レディクラムといったか、あの町が滅んでからは、少なくともこの大陸では、あれを研究する人間は居なくなったと思っていた。だが、おまえの……盗み見ていたことは謝るが、おまえの行動を追跡していて、あの研究施設で研究が続けられていたことを知って驚愕した」


 だから、あれを戦争利用しようとしている好戦派の動きを調査し、伝えてほしい。シェルキスはそう言った。そして、本格運用の兆しが見えたら、その前にシェルキスたちが動いて、あの技術に関連する全てを破壊する、とも。


「破壊する、って、なんで……?」


 わたしは思わず聞いていた。一瞬、《根底の流れ》から魔力を汲み上げすぎると、世界を維持する力も無くなってしまうから、とも思った。しかし、世界の……()()()()の規模だけを考えても、それは考えにくい。

 人間が過ぎた力を持たないように、というのも、無い。もし、人間の文明がそうやって白龍に発達の方向を管理されていたのだとしたら、あの技術の開発段階で白龍たちは動いているはずだ。

 そして、イアス・ラクアが抽出魔法を好ましく思っていないから、という可能性も無い。自分が好ましくないと思う()()を《内側の世界》に配置するはずが無いからだ。

 だから、分からない。

 そんな風に思考がぐるぐる回っていると、シェルキスはやや言いにくそうに話し始めた。


「喩え話だが、おまえたち人間は、もし犬や猫が高度な知能を持っていて、彼らが人間の生活を(おびや)かしかねない武器を作り出したら、どうする? 完成まで待って正々堂々と戦うか、それとも先手を打ってその武器を奪うか」


 そして、その後を継ぐように、呆れ顔のフォスティアが説明を補足する。


「要するに、シェル君とその友達の白龍たちが、抽出魔法は気にくわない、ってだけなんだよ。旧レディクラムみたいに、平和的な使い方をしてる分には、手を出すつもりは無いみたいなんだけどねー」


 その補足を聞き終えた後、わたしはフォスティアと共にシェルキスに半眼を向けていた。シェルキスの巨体が、ちょっとだけ縮こまっているように見えた。

 わたしは小さく溜息をつき、


「……そういうことなら、分かったわ。できる範囲で調べてみる」


 そう言って、シェルキスに向けていた態度を改めた。理由に呆れはしたが、頼みを引き受けるのは(やぶさか)ではない、ということを示すために。

 ……その考え方は、強い者の傲慢なのかもしれない。だが、暴走させれば破滅を招きかねない技術、それが軍事利用されようとしていると知ってなお、それを見過ごすことはできない。

 とりあえず、今わたしにできるのは、《神童》との面会……が可能かどうか、ディナリウス家からの返答を待つことか。

 シェルキスの「すまない」という言葉を背中で聞きつつ、わたしはアパートへ転移した。


     ●


  11月5日(火) 09:30 レディクラムの宿酒場


 今日も分体で大学へ行って、わたしはこの店へ。入り口をくぐってすぐ、


「よお、由美。話があるからちょっと来てくれ」


 と、デイラムさんに呼ばれる。

 わたしがカウンター席に着いたところで、デイラムさんは話を始めた。


昨日(きのう)、軍の副司令から連絡があってな。ディナリウス家の返答は、《神童》との面会は、おまえの望む日時を最優先に検討する、だそうだ」


 わたしは思わず固まった。昨日の今日でもう返答があったことにも驚いたが、その内容にも、だ。

 戦争の危機にある隣国、それに手を貸している《龍殺し》から、息子への面会要請を、こちらの都合を最優先で検討する、と?


「……いったい、先方はどんなつもりで……?」

「分からん。単に、勝てそうにない相手からの要請だから従わざるを得ない、と諦めているのか、それとも……あえて友好的に招き入れて、おまえを殺す秘策でも隠し持っているのか」


 デイラムさんはそれきり黙り込んだ。わたしも……その《秘策》とやらが仮にあったとして、それがどんな方法なのか、全く分からない。

 例えばわたしに食事を振る舞って、それに毒を盛る、などというあからさまな手を取るとは考えにくい。抽出魔法が仮にほぼ完成されていたとしても、わたしの防御力を突破できる威力の攻撃となると、たぶん、町が1つ消える。……警戒しておくに越したことは無い、か。


「……分かったわ。ありがとう」


 デイラムさんとの話はそこで終えて、わたしは、通信魔法でガディオンさんに日程を伝えた。

 わたしの希望は明日、6日の正午からだ。普段は分体で大学に行っているが、《神童》との面会には分体で臨むことにしよう。


     ◆ ◆ ◆


【分体の視点】


  12:20 大学 食堂


 分体(このからだ)では食事をする必要が無いから、昼休みはいつも、京と純が昼食を取っている(かたわ)ら、わたしはスマホで適当にネット巡回をしている。

 そして、実に嫌すぎる偶然だが、本体がシェルキスと抽出魔法の話をした今日、わたしは最悪な記事を見つけてしまった。


 11月4日、魔法研究所(魔研)は《根底の流れ》から純粋な魔力を抽出する技術を確立したと発表した。これにより~~~


 人間に負担を掛けない魔法技術が云々(うんぬん)と記事は続いているが、これはシェルキスの言う《抽出魔法》と全く同じ技術だ。……というか、異世界研究所の研究成果の中に、全く同じものがあった。

 抽出魔法を軍事利用することの危険性。

 国防軍に異世界研究所の研究成果を伝えた時に、なぜそのことに考えが至らなかったのか。なぜ、その部分だけ伏せなかったのか。……それとも。

 もし、その部分だけ伏せて伝えていたとしても、いずれ軍は、軍から研究を委託された魔研は、自力でそれを開発していたのか。だとしたら、その時にわたしは、今のシェルキスのような行動に出るのか。

 強い者の傲慢……いや。そもそも、《自分は他者より強い》と思うことこそが思い上がりか。


「……由美?」


 ふと、わたしに声を掛けてきた京と目が合う。


「あ……ああ。なんでもない」


 そう答えて、わたしはスマホをポケットにしまった。

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