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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第2章 承

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13 最後の記憶

 緒方唯の視点。

  9月4日(水) 09:30 聖桜高校 校庭


 国防軍の大型輸送ヘリが校庭から離陸する。ヘリは学校に避難していた町の人々を乗せ、避難を受け入れてくれる他県へ向かうとのことだ。

 最初の襲撃から今まで、《空を飛ぶ魔物》は現れていない。そして、《光弾》という飛び道具的な魔法があるにもかかわらず、対空攻撃をする魔物もなぜか居ない。報道関係のヘリは今までに1機も落とされていない、と、由美先輩が言っていた。

 だから、由美先輩と国防軍は、住民たちを絶対安全ではあるが補給のできない校内に居させるより、空路で他県へ避難させることを選んだ。

 その判断は正しかった。今日の午前中までは。


     ●


  11:50 路上


 住民を避難させるための輸送ヘリ。その第2便が、町中(まちなか)で魔物退治をしているわたしの頭上を飛んでいく。

 今は近くに魔物の姿も無い。わたしは、ちょっと休憩をするついでに、そのヘリを見送ることにした。その時。


「……え?」


 一瞬、状況が理解できなかった。地上からヘリを見上げるわたしの目の前で、そのヘリはどこからか飛来した光線に撃ち抜かれ、墜落。

 由美先輩との戦闘訓練のおかげだろうか。わたしは、ヘリがどこに墜落するのか、その行く先ではなく、光線が飛んできた方角にまず目を向けた。それを確認した後、改めてヘリに注目。墜落した先は……住宅地。

 わたしは殆ど反射的に駆けだしていた。ヘリの墜落先、ではなく、光線が飛んできた方角へ。

 わたしたちの母校、聖桜高校へ。


     ●


  12:10 聖桜高校 グラウンド


 校舎を取り囲む大量の魔物たち。フォスティアさんのおかげで、建物には損害は出ていないらしいことだけは救いか。しかし。

 グラウンドに展開していた国防軍の部隊は全滅していた。飛び散る残骸、隊員たちだったであろう肉塊と血の海。

 その無惨な山の手前側、学校の正門に近い側に、佐々木君たちが立っている。たぶん、わたしより少し早くここへ着いたのだろう。


「あ、唯ちゃん!」

「唯……!」

「桂子、お姉ちゃん。これは……!?」


 わたしの疑問に、お姉ちゃんは山の向こう側を顎で()す。その先に居たのは、見た目は、妖艶な姿をした人間の女性。しかし、その耳は人間のそれより明らかに長く、先端が細く尖っている。そして……


「フォスティアさん!?」


 わたしは思わず叫んでいた。その女性……いや、その女が手にしていた、妙に()()()、トルソーのようなモノ。佐々木君も朋美ちゃんも、お姉ちゃん以外は皆、()()から目を(そむ)けている。

 四肢の無くなった、フォスティアさんから。


「へえ、フォスティアっていうんだ、コイツ。けっこう()()しかったわよ」


 フォスティアさんを投げ捨てて自由になった手で、血の付いた口を拭いながら女が言う。

 女の声はわたしの頭に直接届いてくる。たぶん、翻訳魔法を使っているのだろう。でも、そんなことは今はどうでもいい。


「ご、ごめんね、みんな。あたし1人じゃ……」


 同じく頭に直接届く、弱々しいフォスティアさんの声。


「あら、まだ生きてたのね、アンタ」


 女は道端の石ころを蹴飛ばすような仕草で、フォスティアさんを転がす。そしてフォスティアさんの口から漏れる、もはや呻きにすらなっていない、小さな息。

 天使は死ぬのだろうか。

 戦いで命が失われるのは……慣れたとは言わないが、理解はできているつもりだ。だが、知らない人間が死ぬより、知っている人間が死ぬことのほうが、当然だがつらい。

 女は続ける。


「なかなか食糧確保が進まないから、もしやと思って来てみれば。送り込んだ魔物の殆どが死霊術に使われてたなんてね」

「……今なんつった?」


 お姉ちゃんが低い声で唸る。


「食糧確保、よ。あんたたちだって、自分たちより下等な生物を糧として食べているでしょうに」

「……!」


 ぎりっ、と、お姉ちゃんの歯ぎしりの音が聞こえた気がした。でも、お姉ちゃんは言い返さない。いや、言い返せないのだろうか。

 牛、豚、鶏。たしかに、この女が言うとおり、わたしたちは他の動物を食べている。この女がフォスティアさんを《美味しかった》と評したのは、たぶん、()()()()()()だ。


「それじゃあ、おとなしく──」

「食われる訳ねぇだろボケぇぇぇ!」


 わたしは全力の《光弾》を撃ち出した。そして、それを合図として、グラウンドは乱戦になった。


     ●


 わたしとお姉ちゃんを除いて、皆は校舎を取り囲む魔物共と戦っている。

 フォスティアさんに……天使に《死》という概念があるのかは分からない。でも、もしフォスティアさんが死んでしまったら、校舎にかけられた《天使の加護》も解けてしまうだろう。

 そうなる前に、できる限り脅威を減らしておくためだ。


 そして、わたしとお姉ちゃんとで、この女の相手をする。

 この女はフォスティアさんでさえ手も足も出ない相手だ。正直、わたしたち2人で勝てるか、いや、抑えられるかすらわからない。

 でも、死霊術で使い捨てられた魂を数多く吸収してきたわたしと、なぜか接近戦で互角に女と渡り合っているお姉ちゃんとなら……最悪、相打ちには持ち込みたい。


「ちっ……人間の分際で!」


 焦りの声で叫ぶ女に、


「その人間に追い詰められているのはどこの誰だ、あぁ!?」


 お姉ちゃんが怒声で返す。魔力で強化した拳を叩き込み、相手の反撃を跳躍してかわす。生じた隙を埋めるために、わたしが遠距離から《光弾》を放つ。再びお姉ちゃんが接近する。

 ……勝てる! わたしはそう確信し──


「緒方さん! 危ない!」


 佐々木君の叫び声と、水気のある何かが潰れるような音。わたしの視界が、赤1色で塗り潰されていく。

 極限状態に陥ると周りの全てがスローモーションに見える、と、話には聞いていたが、自分がそれを体験するのは初めてだった。

 視界の隅に、佐々木君の首から上が見えた気がした。


     ●


 床も壁も、全てが水晶でできているような場所。

 女神、いや、管理者だったか。2年前、わたしが初めてアレと出会った時に招かれた場所だ。


「……管理者領域、だったかな」


 思わず呟くと、


「あら、落ち着いているのね」


 と、わたしの目の前に、あの時と同じ女性が姿を現した。

 わたしは彼女の……管理者イアス・ラクアの方を向く。


「はい。あなたには《その時になったら教える》と言われていましたから」


 そう、今が《その時》だ。

 佐々木君を犠牲にしてしまった原因が、同レベルの敵との戦いでわたしが隙を突かれて、のような流れではなく、あの女との戦いに気を取られるあまりに近くの魔物に気づかなかった、というのは、少し悔しい。


「それじゃあ、彼を助ける方法を言うわね。……といっても、わたしが彼の肉体を修復して、魂を呼び戻す、というだけなんだけど」


 管理者は言った。その内容は、わたしが想像していたよりはるかに簡潔だった。

 言われてから考えてみると、《内側の世界》の法則に縛られない、というより、その法則を管理する側の者が直接手を下すのが最も手っ取り早い。


「それで、代償は?」

()()()()()()()()()に、佐々木啓太の記憶をコピーした緒方唯を生まれさせること、と言えば分かるかしら?」


 管理者の言葉の意味を、わたしはすぐに理解した。

 わたしが佐々木君の記憶を持っているからこそ、わたしは、今こうして《佐々木啓太が死ぬという現実を回避したい》という願いを抱いているのだ。過去の緒方唯がこの記憶を持たずに生まれてしまったら、今のわたしが《佐々木君を助けたい》という願いも抱かなくなる。

 つまり、わたしが《前世の記憶を持って生まれること》が、この願いの代償だったのだ。


 管理者は言う。佐々木君はわたしの願いによって死なずに済むから、その魂を過去の緒方唯として転生させることはできない。だから、記憶だけをコピーするのだが、《魂の源泉》から汲み上げられる魂に干渉するのは管理者でも不可能。

 今ある魂だけで《佐々木啓太の記憶を持つ緒方唯》という人間を生まれさせるために、《魂の淀み》の魂を利用する、と。

 そして、そのことも《代償》の1つだ、と。


「あなたを天使化すれば、肉体の維持に魂の力を使わずに済むようにもできるんだけど、あえてそれはしないわ」


 管理者の言葉で、ふと、由美先輩に言われた《魂のバッテリー切れ》のことがわたしの頭をよぎる。


「……本来死ぬべき人間を生かすのだから、その分、自分の寿命を捧げよ、と?」

「まあ、そんなところね。一応聞くけど、この代償を、あなたは受け入れるのかしら?」

「受け入れますよ、もちろん」


 わたしは即答した。

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