12.5 同種に生まれたので良き友(?)になれました
【本体の視点】
9月3日(火) 20:30 聖桜高校 給湯室
唯たちが帰宅し、校長も保健室で仮眠するために校長室を出ていった後。わたしは、フォスティアに連れられて給湯室に来ていた。
なんで給湯室かというのは、校長が部屋を出る際に入り口を施錠したからだ。たとえ魔物の襲撃という非常時においても、校長が監督していない時は、校長室に部外者を入れないという姿勢が大事だ、ということらしい。
学校を守るために《この世界》から離れられない、つまり転移が使えないフォスティアはともかく、自由に転移できるわたしにとっては無意味──だからといって不法侵入するつもりは無いが──なのだが。
後々、重箱の隅をほじくるような指摘や批判をしてくる輩というのは、どうしても出てくるのだろう。それはともかく。
『由美ちゃん。舞ちゃんの戦い方ってさ……』
フォスティアが言う。わたしたちしか居ないから、わざわざ翻訳魔法を使う必要も無い。彼女が口にしたのはゼルク・メリス共通語だ。
『ええ。舞がリヴァ・マディアだったのには驚いたけど、人間があんな戦い方をしたら、たぶん10分ともたないでしょうね』
魔力による肉体強化。
この2年間、わたしは本体と分体とを駆使して、ゼルク・メリスでも冒険者としてある程度活動してきた。その間、向こうでこんな戦い方をする人間を見たことは無い。
その理由は、この戦い方の燃費が悪すぎるからだ。
肉体強化をせず、普通に、相手の動きなどからタイミングを取りつつ攻撃魔法で戦う。
相手の攻撃は、強化した肉体で受けるのではなく、かわす。
そのほうが、常時肉体強化をし続けるより、消費する魔力が少なくて済む。もちろん、肉体強化することで普段より機敏に動けたりという利点はあるが、その利点を差し引いて、消費魔力が馬鹿にならないという欠点が大きすぎるのだ。
『それが分かってて、止めなかったんだね』
『ええ。少なくとも、舞にその心配は要らないからね』
『……え?』
一瞬固まるフォスティア。
『言ったでしょ? 《人間だったらもたない》って。まさか、あの時の岩蚯蚓とこんな形で再会するなんて、思いもしなかったわ』
話しながら、わたしは顔が笑みに崩れてくるのを自覚する。
舞と初めて会った時は、特に何も感じることは無かった。しかし、わたしが自分の能力について色々と自覚し始めてからは、無意識に相手の魂を観測するようになっていたのだろう。
今日、ここで舞と再会した時、わたしは、ゼルク・メリスで出会い、そして妙な友情を結んだあの岩蚯蚓と、舞の魂とが同じであることに気づいた。
よっぽどわたしが女神に気に入られているのか、それとも、単に女神があの岩蚯蚓の願いを聞き入れてあげただけなのか。
『じゃ、またね』
わたしの心を読んでなんとも微妙な顔をしているフォスティアに別れの言葉を告げて、わたしはアパートへ転移した。




