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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第2章 承

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9.5 国防軍

【本体の視点】


  9月3日(火) 16:45 商店街沿いの国道


 わたしの頭部を照準する3つの銃口。

 今、わたしが国防軍に敵だと見なされれば、日本でのわたしの未来は無くなる。それだけでなく、もしかしたらお父さんやお母さん、京や純まで巻き込んでしまうかもしれない。そんな最悪な結末は、なんとしても避けたい。

 それでもわたしがここで国防軍を出迎えることを選んだのは、できるだけ早いうちに、わたしの能力について彼らに知っておいてほしかったからだ。


 町中(まちなか)で魔物を相手に暴れ回るわたしの姿は、既に何人もの人々に見られている。もしかしたら報道関係者にも撮影されているかもしれない。そんな中、町へやって来た国防軍にあえてわたしの能力を隠すのは、わたしにとって不利にこそなれ、有利にはならないと思う。

 わたしは、アールディアの地下施設でも使った、魔力を半球状に展開してシールドとする魔法を発動しつつ、広域発信の通信魔法で目の前の隊員たちに語りかけた。シールドを張ったのは、もし、わたしが話している最中に彼らが発砲してきた時の保険だ。


「この2日間で、報道関係と(おぼ)しきヘリが町の上空を飛んでいるのを確認済みです。あなた方も、わたしがどういう能力を持っていて、どういう立場なのかは推測できているでしょう。……武器を下げてください。わたしは、あなた方と争いたい訳ではありません」


 魔物の被害を受けた1民間人として、ではなく、飽くまでもこちらが交渉を持ち掛けるという形で話をする。

 この国での法的立場上、わたしは確かに《国防軍の保護を受けるべき民間人》だ。だが、その立場で話を進めてしまうと、わたしが魔物との最前線に立たせてもらえなくなるおそれがある。

 現代兵器で魔物を完全に制圧できるのならそれでも構わないが、それが不可能なことは、唯の《前世の記憶》から分かっている。わたしが最前線を引く訳にはいかない。

 別の装甲車から、指揮官と(おぼ)しき人物が降りてくる。そして、わたしに銃口を向ける他の兵士たちに、武器を下ろすように指示した。


     ●


 今、わたしの目の前に居る隊員たち以外には、わたしを狙撃できそうな位置に軍人は居ない。分体を次元の狭間に移動させて、この近辺に存在する魂の数を数えた結果だ。

 自国の軍隊と敵対する可能性を考えなければならないというのは悲しいが、魔法──彼らにとっての未知の力──を彼らの目の前で披露してしまった以上、仕方ない。

 わたしは《壁》を解き、指揮官に話しかけた。


「対話を受け入れてくださって感謝します」

「いえ、先程は部下が失礼しました。……ですが、我々の心情もお察しいただけるとありがたい」


 指揮官は厳しい表情でそう答えた。まだわたしへの警戒は解いていない、そんな顔だ。

 彼の気持ちは、分からなくはない。いきなり現れた魔物と、それを余裕で倒していく()()()。しかもその民間人は見たことの無い不思議な能力を使っている。はた目には魔物と敵対しているように見えても、未知の能力への警戒を怠る訳にはいかない、そんなところだろう。

 わたしは、自分の運転免許証を指揮官に見せた。


「え……!?」

「ご覧のとおり、わたしはこの国の人間です。事態が落ち着いたら全てお話しすると約束しますから、今はわたしを信じていただけませんか?」


 わたしがそう言うと、指揮官は厳しい顔のまま黙り込んだ。何かを考えている、というか、おそらく迷っているのだろう。未知の力を持つわたしを信じても良いのかどうか。

 身分証があるからといって、それを無条件に信じるのは危険だ。可能性だけで論ずるのなら、身分証を偽造して潜入しているスパイ、ということも考えられる。だから、迷っている。

 しばらくして、


「分かりました。とりあえず、あなたのことは信用しましょう」


 彼は、厳しかった表情を少しだけ緩めて、そう言ってくれた。


「ありがとうございます」


 わたしは事務的に答えた。と同時に、顔に出ないよう気をつけつつ、内心で安堵した。問題の先延ばしなのかもしれないが、とりあえず、この場で国防軍と敵対することだけは避けられたからだ。

 この後、わたしは彼らを聖桜高校まで案内した。そして、校長室での話し合いの最後に、指揮官はわたしを信用すると言ってくれた理由を話してくれた。


「失礼を承知で申し上げますが、あなたと向き合った時は、まるで怪獣映画に出てくる主人公の怪獣に睨まれたようでした。部下たちの手前、我々の心情も察してほしいなどと言いましたが、あなた1人と我が国とが戦争になったとして、(はた)して勝てるかどうか……」


 つまり、わたしを信用するしないの問題ではなく、せざるを得ない。戦っても勝てないから、従わざるを得ない。そんな諦めの境地だった。あの時は《とりあえず信用する》としか言わなかったが、今後、わたしと敵対するつもりは無い、上層部にもそう伝える、と。

 ……なんだか、こっちの世界でも、わたしは人々から恐れられる存在になってしまいそうな予感がする。彼には、あまりわたしのことを広めないよう、早いうちに釘を刺しておいたほうが良さそうだ。

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