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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第2章 承

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9 失ったモノ

【分体の視点】


  9月3日(火) 07:30 竜之宮家


 昨日は久しぶりに実家(このいえ)で寝た。といっても、お母さんと2人で、野宿をする冒険者が交代で見張りをするように、1晩ずっとどちらかは起きていたが。……まさか、ゼルク・メリスでの冒険者としての経験がこんなところで生きてくるとは思わなかった。

 それはともかく。

 今はわたしとお父さんが朝食を終えたところだ。お母さんはついさっきまで見張りをしていたので、食事の前に寝ると言っていた。


「じゃあ、行ってくる」


 お父さんはそう言って、昨日と同じように出勤する。

 昨日、襲撃の第1波が来た時に、お父さんとは話を着けておいた。お父さんが患者のために病院を開けるのなら、わたしはそんなお父さんと病院を、もちろんこの家も含めて、全力で守る、と。

 今までの状況を見た限りでは、魔物はどうやら生物が居る場所を優先的に狙うらしいことが分かっている。そして、そんな魔物が我が家に襲ってきても、《手駒》が十分防衛戦力になっていることも実証できた。

 昨夜(ゆうべ)は念のためお母さんと2人で夜通しの見張りをしたが、魔物と直接戦う必要は無かった。町中(まちなか)に配置した《手駒》たちも、十分な戦果を挙げていることだろう。


 この襲撃の元凶、ゼンディエールのガイア勢力へ攻め込むのは明日(あした)だ。そのための戦力、黒龍たちを、今日1日かけてディアーズライドが説得してくれることになっている。

 つまり、今日1日は、わたしも聖桜(こっち)で自由に動ける。

 ……本当は、大学をサボってでも本体もこっちへ来たほうが、被害は最小限に抑えられるだろう。だが、今、わたしが大学側に《授業を抜け出すような不真面目な学生》だと思われるのはまずい。後で説明できる機会はあるかもしれないが、そんな《かもしれない》に賭けたくはない。

 聖桜(このまち)を守りつつ、わたしの未来も確保する。それを達成するためには、今のやり方が最善のはずだ。


     ●


  08:10 聖桜高校 校長室


 ついさっき、唯から通信魔法で報告があった。(うち)と病院を守るのを大学に行く前の本体と交代し、わたしは唯に話を聞くために転移でここへ。

 部屋には校長と唯、そして青い顔をしてソファに身を沈めている北条と橋本が居た。


「あ、由美先輩……!」


 唯は(すが)るような顔でわたしの名前を呼ぶ。


「何があったの?」

「桂子の……家が……」


 唯はゆっくりと話し始めた。

 昨日、北条と橋本は《手駒》に守られて、まずは橋本の自宅──入居しているマンション──へ向かった。その目の前で、マンションは魔物の攻撃で崩落した。

 マンション近辺には《手駒》が配置されていたが、攻めてくる魔物の勢いのほうが強く、押されていたそうだ。


 《手駒》を作るには、その材料となる魔物の死体が必要だ。わたしが《手駒》を作りに向かった時点で、まだ攻めてきている魔物の数が少なければ、当然作れる《手駒》の数も少なくなる。そんな地域に、後から猛攻を仕掛けられれば、結果はこうだ。

 佐々木の父親、会社員と(おぼ)しき男女。ある程度の犠牲が出てしまうのは仕方ないと分かってはいるが……くそ。

 その後、2人は北条の家にも行ったが、こちらは十分な数の《手駒》が配置されていて、殆ど被害は無かったようだ。


「お父さんも、お母さんも……弟も、みんな……」


 橋本は、今にも消えてしまいそうな声で言った。

 唯は橋本とは幼馴染みのようで、互いの家族構成もよく知っているという。そんな唯が言うには、橋本のお父さんは在宅の仕事をしていて、お母さんはパート。弟の涼介(りょうすけ)は、昨日は風邪で学校を休んでいた。

 つまり、橋本以外の家族全員が家に居たであろう状況で、マンションは崩れ落ちた。

 わたしは、


「……橋本」


 と、自分は立ったまま、橋本の頭上から声を掛ける。

 わたしを見上げる橋本。


「せ、先輩……?」

「家族を失うつらさはわたしには分からないから、同情はしないわ」

「おいアンタ……!」

「先輩!?」


 わたしの言葉に、北条と唯が半ば怒りの混じった声をあげる。だが、わたしはそんな2人を一瞥すらしない。今は橋本とだけ向き合わねばならない。


「あんたには戦う力がある。その力を持って、悲しむのは後回しにして今は魔物と戦うか。それとも、その力を眠らせて悲しみに暮れるか。どうする?」


 我ながらクサいセリフだ。だが、家族を失った悲しみを一時的にとはいえ忘れるためには、とりあえずの目標はあったほうがいい……と思う。

 復讐に身を委ねるのは駄目だとか、綺麗事を言うつもりは無い。無力感に(さいな)まれて悲しみを募らせるよりは、はるかにマシなはずだ。

 しばらくの沈黙の後、


「……戦います」


 わたしを見詰める橋本の目には、暗い炎が宿っていた。


     ◆ ◆ ◆


【本体の視点】


  08:40 竜之宮家


 校長室で分体が唯たちと《橋本の家族がマンションの崩落に巻き込まれたらしい》という話をしている頃。お母さんが仮眠から覚めて、(うち)と病院の守りは引き受けると言ってくれた。

 おかげで、わたしは大学に遅刻せずに済んだ。


     ●


  16:40 商店街 入り口


 今日の授業が全て終わったので、わたしはここで、今日これから来るであろう国防軍の部隊を出迎えることにした。この商店街は聖桜地区のほぼ端に位置し、市を跨ぐが国防軍基地にも近い。太い国道にも面している。支援が来るなら、おそらくここからだろう。

 わたしがここで国防軍を待っている間、分体は昨日と同じように町中(まちなか)での活動を行っている。


 ……不思議なのは、魔物たちは昨日の第1波以来、聖桜地区から出ていないということだ。この魔物たちを送り込んできているゼンディエールの魔族が日本の行政区分を知っているとは思えないが、例えば《街区を大きく越えて侵攻しない》のような指針を持っているのだろうか。

 そうだとすれば、今回の襲撃は無計画な侵略などではなく、魔王ガイアが本気で日本を征服するための足がかりだと見たほうがいいだろう。こっちの国へ本格的に攻め込むために、まずは町を1つ落として拠点を作る、といったところか。


 そんなことを考えていると、片側2車線の国道を、遠くから国防軍のものと思われる車列が向かってくるのが見えた。今までに報道関係と思われるヘリは何度も上空を飛んでいたが、車両が来るのはこれが初めてだ。

 わたしは、両足で国道のセンターラインを跨いで立った。そして、向こうからもこちらが視認できるであろう位置まで車列が進んできた頃を見計らい、《変成》で路面にアスファルトのバリケードを生成する。特に何かを意図した訳ではなく、単にわたしが魔法を使えることの演出(パフォーマンス)だ。

 町への進入を妨害する敵と取られるおそれもあるが、報道のヘリが飛んでいたことから、わたしの顔は既に彼らに知られていると見ていいだろう。


 その予想どおり、と言えるかはともかく、停止した先頭の装甲車から、迷彩服に身を包んだ男性が3人、降りてきた。彼らは銃を構え、その身のこなしには隙が無い。

 わたしは《変成》で作ったバリケードを元どおりに戻してから、彼らに向かって広域発信の通信魔法で語りかけた。


「お待ちしておりました、国防軍の皆さん」


 その言葉への返答だろうか。装甲車の屋根にある銃座と、さっき降りてきた3人の銃口が、わたしの頭部を照準した。

 大学での《授業》について。

 大学は高校までとは異なり、講義、実験、実習など、単に《授業》の一言では言い表せない複雑な制度です。作者ももちろんそのことは知っていますが、本作の主目的はそんな《大学というシステム》を描くことではないので、あえて《授業》の一言で済ませています。

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