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【旧】日帰りRPG ~チート少女の異世界(往復自由)冒険譚~  作者: フェル
第2章 承

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6 戦うことと生きること

 緒方唯の視点。

  9月2日(月) 18:00 聖桜高校 体育館


 体育館の壁に叩きつけられた《光弾》が弾け、室内に光と音を()き散らす。


「で、できた……!」


 その《光弾》を放った主、北条志織は驚き半分、嬉しさ半分という声を漏らした。

 今日の昼過ぎからぶっ続けで魔法の練習をしてきたとはいえ、志織と、もう1人、橋本桂子、この2人の上達は、悔しいけどわたしより速い。

 わたしは、由美先輩に直接教えてもらっていながら、まともに魔法を使えるようになるまで数日かかった。今の志織たちとは練習の密度が違うとはいえ、2人の習熟の速さには驚かされる。


「うん、いい感じね。これなら、志織と桂子の2人で組めば、どうにか魔物1体は相手にできるかな」


 わたしは素直な感想を口にした。


「あーあ、これでもまだ半人前かよ」

「でも、全然戦えないよりはいいよ」


 志織、桂子がそれぞれ言う。そんなわたしたちの目の前に、由美先輩が転移で姿を現した。


「うぉ!? だ、誰だアンタは……!?」

「竜之宮由美。唯に魔法を教えた、先代《暴君》よ」


 由美先輩はどこか楽しげに答えた。


     ●


 由美先輩の話には驚かされた。シオンさんが魔族で、向こうには向こうの戦争があったのだと。

 先輩はそっちの対策もしてくれたみたいだけど、それでも、わたしの《前世の記憶》では、これから2日間、魔物たちの怒濤の襲撃が続く。

 もしかしたらその後も襲撃は続くのかもしれないが、わたしの《前世の記憶》に残っているのは、そこまでだ。その2日目、今月4日の水曜日に、前世の《わたし》が、《緒方さん》を庇って死ぬから。


「……唯?」

「──っ!?」


 先輩がわたしの顔を覗き込んできた。


「大丈夫?」

「は、はい……!」


 わたしがそう答えた後、先輩は《これから皆を家へ帰す》と言いだした。先輩が死霊術で生み出した《手駒》に守らせれば、最低限、帰宅の道中は安全だから、と。


「おいおい、先輩よ。学校ん中に居れば絶対安全なんだろ? なんでわざわざそこから追い出すような真似すんだよ」


 志織が疑問の声をあげる。わたしもそれは一瞬思ったが、今のまま学校に居続けるのは得策ではない。

 その理由を先輩が説明してくれる。


「別に追い出すつもりは無いわ。ずっと学校に立てこもっててもいいわよ。事が落ち着くか支援が来るまで飲まず食わずで、風呂も着替えも無しで居られるのなら、だけど」


 先輩の言葉で、わたしは思う。少なくとも、《前世の記憶》の最後の3日間は、生活物資などの支援は無かった。襲撃2日目、つまり明日(あした)の夕方には国防軍が聖桜地区に入るが、魔物の討伐と市民の避難誘導で手一杯で、物資の支援までは手が回らないのだろう。

 もちろん、このことも先輩には話してあるから、それを考慮しての今回の判断だろう。


「ああ、そうか……」


 志織の相づちの後、先輩はさらに続ける。


「着替えや食事でどうしても家と学校とを往復しなければならないのなら、ご家族にそれをさせるのと、自分が家に帰るのと、どっちがいい? ってだけの話よ。……ああ、それと──」


 先輩が生み出した《手駒》に、生徒をそれぞれの自宅まで守らせる。そうすることで、先輩がわざわざ各生徒の自宅の住所を調べて《手駒》を配置する手間が省ける。先輩はそう付け加えた。

 要は、配置用の《手駒》を生徒たちの自宅へ、生徒自身に案内させる、ということだ。


「……なるほどな。そういうことか」


 志織は、鋭い、しかし好意的な笑みを浮かべて、言った。


     ●


  19:00 帰宅途中の路上


 わたしの家付近には、もう《手駒》を配置してある。学校を出る際、先輩にはそう言われた。それに、わたしも魔物と1対1でなら余裕で勝てるくらいには戦えるから、帰り道に《手駒》の護衛は要らないと思っていた。しかし、


「《手駒》たちには面白い仕掛けをしてあるから、あんたにもそれを知っておいてほしいのよ」


 先輩にそんなことを言われ、今、わたしは《手駒》の1体と共に通学路を歩いていた。その際、魔物と出くわしても、最初の1体は《手駒》に倒させる。その理由も含めて、先輩には全て説明されているが……正直、最初は何の冗談かと思った。

 そして、今、その状況になった。

 魔物の死体に魂を宿らせた《手駒》……見た目はさながらゾンビのようだが、そいつが、わたしに襲いかかってきた魔物に噛みつき、とどめを刺した。

 その直後、《手駒》に殺された魔物、その死体が起き上がり、動きだした。まるで、ゾンビに殺されてゾンビ化した死体のように。


「ひ……っ!」


 事前に先輩に説明されていたのに、それでも、実際にその瞬間を目にすると、恐怖を抱いてしまう。わたしは、その場に尻餅をつかずに(こら)えるので精一杯だった。知らなかったら腰を抜かしていたかもしれない。

 そんなわたしのそばに、由美先輩が転移してくる。


「いやー、驚かせてごめんね、唯」


 後輩をちょっとからかう、という感じで言う先輩。

 先輩が死霊術で作った《手駒》。その《手駒》自身にも死霊術を使う能力を与えておき、《手駒》が殺した魔物を《手駒》化する。

 そうすることで、死体だからすぐに腐敗が始まってしまうので稼働期間が極端に短い、という《手駒》の欠点をある程度解消できるらしい。


「ゾンビに殺されたらゾンビ化するって、どこのゾンビ映画ですか……」


 先輩と2人で通学路を歩きながら、わたしは愚痴っぽく言った。


「そのほうが効率が良いでしょ? ……まあ、この方法も万能じゃないんだけどね」


 先輩は言う。死霊術では、術者の魂より大きな魂を扱うことはできない。先輩が直接作った《手駒》より、それに作られた《手駒》、さらにそれに作られた……と、代が下るにつれてどうしても弱くなってしまう、と。

 その話を終えたところで、先輩は急に黙り込んだ。次に言うべきことはあるのに、それを口にしようか迷っている。先輩の表情から読み取れるのは、そんな感情だ。……先輩のそんな顔を、わたしは今、初めて見る。


「……先輩?」


 先輩に先を促すつもりで、わたしは自分から声を掛けた。それに(こた)えてくれて……かはともかく、先輩はゆっくりと話し始めた。


「唯。後のことは、わたしと、佐々木や北条たちに任せてさ……あんたはもう、戦うのをやめる気は、無い?」

「……………え?」


 わたしは思わず足を止めていた。一瞬、先輩が何を言ったのかが理解できなかった。いや、先輩が喋った言葉の意味は理解できる。でも、それが今の状況でわたしに向けて掛けられた言葉だということを、すぐには信じられなかった。

 おそらく、魔物の襲撃はこれから本格化してくるだろう。そんな中、己惚(うぬぼ)れかもしれないが、わたしは先輩の次に戦える力があると思う。そのわたしに、もう戦うな、と?


「あんたの言いたいことは分かるつもりよ。今、現代兵器以外の、魔力という点では、あんたは十分戦力になっている。それでも──」


 先輩は言う。そもそも、人間はなぜ《魔法》を使えるのか。《魔力》とは何なのか。先輩はゼルク・メリスという異世界で魔法について勉強していた時に、そのことを知ったという。

 魔力とは魂が持っている力で、肉体が生命活動をするための動力源として使われている。

 生物の肉体を機械に(たと)えるなら、魂は《電池》、魔力は《電池が発揮できる電力》にあたる。ゲーム風に言うなら、HPとか生命力などと表現される力だ。

 そして、生命活動の動力源として使っても、まだ力が余る場合がある。その《余った力》を利用して様々な現象を起こす技術のことを《魔法》という。

 つまり、広義の《魔力》というのは生命力も含めての意味で、そこから生命活動に必要な分を引いた残りが、狭義の《魔力》だ、と。

 わたしは、先輩の説明を自分なりに理解して、聞き返してみた。


「ということは、魔法を使いすぎれば命にかかわる、と?」

「ええ。それでも、普通は食事とかで力を補充できるんだけど……バッテリーって、ヘタってくると次の充電までが早くなるでしょ?」


 いきなり魂の話からバッテリーの話に変わって、わたしは少し頭がついていかなかった。が、頭を切り替えることができれば、その話はすぐに理解できた。わたしにもスマホで経験があるからだ。

 ……そして、先輩が何を言いたいのかも理解してしまった。


「まさか……魂もだんだん《充電》できる量が減っていって、最後には充電できなくなる……?」


 わたしの言葉に、先輩は再び首を縦に振った。


「ええ。さすがに、バッテリーの理屈がそのまま魂にも通用するとは思わないけど──」


 かなり劣化の進んでいる《魂の淀み》と同じ魂を持つわたしが、今後も魔法を……生命活動以外の《余計な》魔力を使い続けると、ヘタったバッテリーと同じ末路を辿るかもしれない。先輩はそう締めた。

 わたしたちはしばらく無言で見詰め合う。

 辺りには魔物が徘徊しているが、それらは《手駒》に倒されたり、あるいは先輩を恐れてか、そもそも近寄ってこないでいる。


「……それでも」


 先に口を開いたのは、わたしだ。


「それでも、戦います」

「……分かったわ」


 意外にも、先輩は無理に止めたりはしてこなかった。……だから、わたしはつい聞き返してしまった。


「え? あ、あの……わたし、てっきり止められるものだと……」


 その言葉に、先輩はさっきまでの張り詰めた表情を(やわ)らげ、むしろ笑顔さえ浮かべて、答えてくれた。


「この予想がもし当たってたとして、あんたにこれ以上戦ってほしくないっていうのは、わたしの希望よ。それをあんたに伝えて、それでもあんたが戦うというのなら、わたしにそれを無理に止めるつもりは無いわ」


 ……笑顔なのに、怖い。

 穏やかな……穏やかすぎる笑顔を、先輩は浮かべていた。

 この後、先輩と別れて(うち)へ帰るまでの間、わたしは、先輩の笑顔が脳裏から離れなかった。

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