47.5 つかの間の平穏
【本体の視点】
7月16日(土) 06:30 由美の部屋
目が覚めたら目の前に自分の顔があってびびった。
「──!?」
わたしは思わず変な叫び声と共に飛び起き、その声で、目の前の顔──わたしの分体──も目を覚ます。
「ん……ああ、本体が先に起きたのか」
わたしの驚きなどどこ吹く風。おもむろにベッドから降りて、着替え始める分体。
昨日、本体が寝てからの出来事は、《分体の記憶》として、今、わたしの記憶に統合された。……なるほど。片方が寝ている時も、もう片方が何をしているか、完全に分からなくなる訳ではないようだ。
この後、わたしは分体を含めて家族4人で朝食を食べ、いつもどおりに学校へ行った。もちろん、分体は自宅待機だ。
ところで、分体が食事をした後、出す前に分体を消したらどうなるのか。今日、わたしが学校に行っている間に、お母さんに協力してもらって実験してみた。結果は後で知ることになるのだが、わたしの予想どおり、出す前の中身だけがその場に残ったようだった。
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それから、しばらくは平穏な時が流れた。
デイラムさんたちに任せていた、レディクラムの《わたしの家》の改修は無事に終わった。事前にわたしとフォスティアとで話していたとおり、その家には、わたしが向こうに居ない間の維持管理を頼む意味も込めて、彼女に住んでもらっている。……何度か、気づいたら家具が増えていたりしたが。
ビザイン共和国との関係では、ガディオンさんを含め一部の軍幹部に、わたしの《2つ目の体》、分体のことを明かした。《一般に知れ渡ると困る》と伝えたら、軍の最高機密として扱うことを約束してくれた。
イリスはカインと別れて、レギウス王国に活動の場を移した。伯父さんも伯母さんも名が知られすぎているため、戦争回避のための活動とはいえ、なかなか自由に動けないそうだ。そんな2人の代わりに、カインとイリス、それぞれで力を尽くしているらしい。
わたしは、高校を卒業後は大学の医学部に進んだ。お父さんの病院を継ぎたかったからだ。京と純も同じ大学の医学部に進んだのには、ちょっと驚いたが。
わたしたち3人が進んだ大学は県外で、普通に通うには1人暮らしをしなければならない。転移ができて分体もあるわたしにその必要は無かったのだが、いずれ自立する時のために、と、両親にはわたしから1人暮らしを願い出た。
同じアパートで暮らすことになった京と純には、ちょうどいい機会だったので分体のことを教えた。
そして。
唯に聞かされていた、ゼンディエールからの魔物の侵攻。その時がやってきた。
第1章・終




